第三話 会議③
そんなことを考えながら、スヲウさんが報告で図書室と言っていた部屋のドアを開ける。
いくつも棚が乱立しており、蔵書数は結構多そうだ。
とりあえず一つずつ見て行こう。
先客がいる可能性を考慮して音を立てないようにドアを静かに開ける。
中には誰もいなかった。
気楽に見て回れそうで少し嬉しい。
図書室の棚を見やる。
蔵書はミステリーや時代小説などスタンダードのものからホラーのようなちょっとニッチなジャンルもしっかりと備えられている。
また雑誌や漫画も有名どころは置かれている。
ふと気になって置かれている雑誌を見る。
本屋さんの店頭でもよく見かける女性ファッション誌だ。
5月号、と書かれている。
私がここに突然ここに飛ばされてきた時、記憶が正しければ4月1日だった。
雑誌は1月程度早いことから5月号は3〜4月に出たものと推測できる。
やはりまだ4月なのだろうか。
気にしていても答えは出ないのだが、やはり外がどうなっているのかは気になる。
お父さんとお母さんは心配していないだろうか。
それが一番の心配事だ。
「あっ!!もうすぐ六時!!」
ファッション誌をパラパラと読みながらふと時計を見ると、六時まで二分しかない。
雑誌を閉じて元の場所に戻す。
少し急ぎ足で食堂へ向かう。
時間厳守では無いのだろうが、初日から遅刻は避けたい。
食堂のドアを開けると私以外は全員揃っていた。
手元の時計は六時ちょうどを指している。
ギリギリセーフ……だろうか。
「よし、全員揃ったな。ひとまずご飯にしよう」
時計塔さんが号令をかける。
「肝心のご飯は〜?取りに行くところからって感じ?」
百田さんの問いに、時計塔さんが頷いた。
「ああ、ひとまず物置に移動する。スヲウ、案内してくれ」
時計塔さんに言われてスヲウさんが先頭に出る。
こっちです、と言って歩き始め、他のみんなもそれに続く。
すぐに食料品があった物置にたどり着いた。
ペットボトル飲料やレトルト食品が主のようだが、奥の方に大容量冷蔵庫が三台ほどあるのが見える。
「冷蔵庫二台には生鮮食品も入ってます。あともう一台は冷蔵庫ではなく冷凍庫みたいで、ほぼ冷凍食品で埋まってますね」
私以外にも冷蔵庫に視線を向けている人がいたのかスヲウさんが追加で説明をしてくれた。
今後追加されることはないだろう生鮮食品に枠が費やされているのが謎だ。
「生鮮食品?お肉とか野菜もあるんですの?」
同じことを疑問に思ったのか宝条さんが聞いた。
「えぇ、お肉も野菜もあります。消費期限も4月4日になっているのでおそらく大丈夫かと」
お肉のパックを一つ取り出して確認しながらスヲウさんが答えた。
「えーっ!!日付書いてあるの!?今日ってやっぱり1日か2日なのかな?」
九斗さんが目をぱちくりさせている。
確かに今まで日付は愚か時計すらも極力排除してある様子だったのに、なぜ消費期限は残っているのだろうか。
パックに入ったお肉は傷んでいないどころかドリップすらほとんど出ていない。
かなり新鮮な状態に見える。
「加工日は1日ですね。これでは1日か2日かまでは……」
「だねー……。でも、ボクは1日だと思うよ!!なんとなく!!」
九斗さんがウインクをバチンと決めた。
スヲウさんは困ったように愛想笑いを浮かべている。
それを見た九斗さんはむーっと口を尖らせた。
「ただ量はどれも一、二人前サイズなので、皆さんの分をまとめて作るには足りないですね」
スヲウさんが再び冷蔵庫の中を覗きながら言った。
食事のためというよりは、あくまで料理をしたい人用という感じなのだろうか。
「冷凍食品も色々あるね〜。あ、あてぃしこのオムライス大好き!!」
「レトルトもすんごい量あるな。このカレーとお粥うちにも常備してたわ」
冷凍庫を見ていた百田さんとレトルト食品を見ていた春日井さんが言う。
どちらも確かに見たことのあるパッケージのものが多数見受けられる。
あっ、あのえびドリアよく食べたなぁ。
そうだ!お茶があるかも調べてしまおう。
ペットボトル飲料の近くに行くと水はもちろんお茶やジュースもある。
お茶に関しては麦茶、緑茶、ウーロン茶、ジャスミン茶、ルイボスティー、あずき茶などドラッグストアに売ってたり売ってなかったりするレベルのマイナーなお茶まである。
ティーパックには緑茶や紅茶はもちろんカモミールティーなどのハーブティーまである。
ジュースもファミレスのドリンクバーよりもちょっと充実しているくらいの種類がある。
量はもちろん種類までしっかりと揃えられているようだ。
飲み物の隣にはしっかりパンも置かれている。
朝ごはんはパン派なのでありがたい。
「すごい充実しているな……。なんでもあるんじゃないか」
時計塔さんが感嘆の声を漏らす。
まさにその感想を皆が抱いていたようだった。
「ひとまず今日は各自好きなものを選んで食べよう。保管とかのことは後で考えるとしよう」
「そうだね!!ここから出られない以上、毒味をしたところで餓死か毒死かの違いでしかないからね」
上篝さんのノンデリ発言が飛び出す。
言っていることには一理あるが、この人は本当に……。
雨久さんは今の発言で考えていなかった可能性に気がついてしまい怯えている様子だ。
子供の頃に行ったふれあい動物園のモルモットを彷彿とさせる。
「え〜、閃ち変なこと言わないでよ〜。あてぃしはオムライスにしよ!!レンジもあるしチンしちゃおう〜」
百田さんが軽い冗談として受け流す。
さすがコミュ強は違う。
「ふふん、言ってみただけだがね。私はバナナとサラダにしようかな」
上篝さんが嬉しそうに鼻を鳴らした。
そして生鮮食品の冷蔵庫からいくらか野菜を取り出した。
「さっきキッチンがあると言っていたな?案内してくれたまえよ」
「ええ、もちろん」
スヲウさんが先導して上篝さんをキッチンへ案内していく。
ようやく部屋に落ち着きが戻ってきた。
この隙にと言わんばかりに皆がワイワイとご飯を選び始めた。
やはり時計塔さんが言っていた通り、最初にペアになった人と仲がいい傾向にあるらしいが、百田さんと春日井さんは他の人にも積極的に話しかけているようだ。
なんて優しいコミュ強なんだ……。
人徳が高すぎる……。
そして少ししてから、スヲウさんだけが戻ってきた。
「サラダを作ってそのまま食堂に向かうそうです」
「そうか、分かった。ご苦労だったな」
いえいえ、と謙遜しつつスヲウさんが会釈した。
今のところ、この中で一番しっかりしている人はスヲウさんか時計塔さんなのではないだろうか。
「あっ、寧崎さん。晩ごはん何にしましたか?」
ふと後ろから透き通った声に話しかけられた。
安丹さんだ。
「私は冷凍の天津あんかけチャーハンにしました。安丹さんは?」
「わたしはえびドリアにしました」
「あっ、それ!!美味しいですよね〜!!家でよく食べてました」
安丹さんが選んだえびドリアがまさに家でよく食べていたものと銘柄まで一緒だったので、ついテンションが上がってしまった。
「ふふ、これは至高のドリアですよね」
「はい!!私もそう思います!!」
大興奮でうんうんと頷く。
安丹さんはその様子をにこにこと見守ってくれているように思う。
安丹さん、ただでさえ絶世の美少女なのに優しさまで持ち合わせているのか……!!
「あの、晩ごはんなんですけど、一緒のテーブルで食べませんか?四人席に時計塔さんと春晩夏さんも誘って……。せっかくお隣の部屋になったので、仲良く出来たらって思ってるんです」
遠慮がちにご飯に誘ってくれている。
秋冬さんもいるということなら断る理由は何もない。
「はい、もちろん!!そしたら秋冬さんに声かけてきますね」
「ありがとうございます!!私も時計塔さんを呼んで先に食事に行ってますね」
誘いに乗ると安丹さんは心の底から嬉しそうに破顔した。
ただでさえ美少女なのにより可愛く見える。
まるでこの世のものではないみたいな可愛さだ。
去り際に振り返って小さく手を振るのも可愛すぎて反則だと思う。
「秋冬さん!!」
「白?どうしたの?」
晩ごはんのメニューを選んでいる最中だった秋冬さんを捕まえて、安丹さんの話をそのまま伝える。
「もう私以外に友達が出来たの?嫉妬しちゃうな」
秋冬さんがちょっとだけむすっとした表情をした後、すぐにふふ、と笑った。
「冗談だよ」
イタズラっぽく笑う表情が可愛らしい。
「もちろんいいよ。私ももう選んだから行こうか」
快諾してもらえたので、そのまま二人で並んで食堂へ向かう。
食堂に入ると安丹さん達が先に席を取ってくれていた。
こちらに気づいた安丹さんが小さく手を振っている。
「安丹さん、席取っておいてくれてありがとうございます」
「ううん、気にしないで。こっちから誘ったんだから、このくらいはね」
安丹さんが花が咲くような笑顔で答える。
この人、どんな表情をしても美少女が際立つのがすごい。




