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第二話 上篝閃②

「このキッチン、なにか変……じゃないですか?」


私の問いに上篝さんと雨久さんがピンと来た様子で答えた。


「鍋がまだ温かいね!!」

「調理器具も出しっぱなし。明らかに作りかけね」


確かに鍋の近くに手をかざすとうっすらと温かさが伝わってくる。

またまな板の上にはこれから鍋に入れる予定だったと思われる野菜が残っている。


「この状態で外出っていうのは考えづらそうだね」


秋冬さんもそう言う。


「まるで突然人……いや生き物だけが消えたみたいだね!!うーん、謎が深まる!!」


どこか嬉しそうに上篝さんが言う。

浮き足立つ気持ちが隠しきれていない。

だが、言っていることは確かにその通りだ。


「もう一軒行ってみましょう。そこも同じだったら……生き物だけ消えたっていうこともあり得るのかも」


雨久さんの提案に全員賛成し、そのまま隣の家に声をかけるもやはり反応はない。

扉も開いており、家の中を確認するもやはり同じように生き物だけが忽然と消えたような様子だった。


「このままでは何も分からなそうだし、私の『能力』を使おうじゃあないか!!」


ビシッとポーズを決めた上篝さんが言う。


「『能力』?何かあるの?」

「うむ。せっかくだし教えてあげよう」


秋冬さんの問いに上篝さんが大きく頷く。


異様に発達した--例えば私の嗅覚や耳、目のような者を持つ者がいる。

魔法が使える人よりも能力を使える人の方が数が少なく、また魔法と違い先天性で自分で能力を選択することは出来ない。

そのため、ミスマッチやそもそも能力自体があまり役に立たないというケースも非常に多いことから、私の能力はかなり汎用性が高く、『当たり』の部類に入る。

これらは魔法の延長線であるらしいが、詳しいことは現代でもまだ分かっていない。


「私はね、『直感』だよ。まさに『神がかり的な閃き』があるってことさ」


自分の能力を教えてくれる。

うさんくさい、と思ってしまったが、脳やいわゆる第六感が強化されていると考えればあり得る話ではある。


「それで、『神がかり的な閃き』で何か分かるの?」

「さては信じていないな?ふふん、見てるがいいよ」


胡乱な目で見つめる雨久さんにドヤ顔の上篝さんが応戦する。


「いいかい?『ベッドチェストの一番上の段を調べるんだ』」


目を閉じた上篝さんがそう言った。


「ベッドチェスト?分かりました、開けてみますね」


他に調べる箇所もないので、言われるがままベッドチェストの一番上の引き出しを開けてみる。

そこには日記帳と思われるノートが入っていた。


「人の日記帳読むのすごい抵抗ありますね……」

「私が読んでもいいがね」


山吹色の目を開きそう答えた。

上篝さんに日記帳なんて渡したらプライバシーを侵害、いや蹂躙するに決まっている。

それよりは私に読まれる方がマシだろう。


「い、いえ!!私が読みます!!」


可哀想な日記の持ち主を憐れみながら、そして心の中で謝罪をして読み始める。

日記の前半はたわいもない日常について書かれている。

持ち主はガーデニングが趣味だったようだ。

隣家の外にあった絵の具のような花はこの家の主が球根を分けたものだったらしい。

どうやらかなり熱心にあの絵の具のような色の花の布教をしていたようで、場合によってはわざわざ離れた他の家に植木鉢を持って行ったり、庭先に植えに行ったりもしていたようだ。


後半になるとなにやら様子がおかしくなった。

邪神が喜んでくれている、それがもうすぐやってくる、と言った内容が頻出するようになり、筆致も浮かれた心を表すようにやけに速筆だ。


日記の内容を他の三人に伝える。

すると上篝さんの表情が険しくなる。


「『邪神』?嫌な単語だ」


苦虫を噛み潰したようにそう言った。


「邪神ってなに?知っているの?」


雨久さんが問う。

私はもちろん表情から察して秋冬さんも心当たるものはないようだ。


「文字のまんま『邪な神』ってとこだね。こいつが出てくる事件は大抵ロクでもない」


吐き捨てるように上篝さんが言う。


「私はね、普段学生ではあるが、探偵もしているんだよ。探偵稼業に数回これ絡みの依頼があったが……どれも胸糞悪い内容だったよ」


目を閉じて眉を顰める。

いつもの大仰で明るい動きが出ない辺り、本当に不快な出来事だったのだろう。


「例えば……人が失踪したから探してくれとの依頼の時は当然のように生贄にされていたし、逆に邪神崇める教団に心酔して自ら消息を立っていたケースもあるな。千年前ならいざ知らず現代で生贄だよ?ロクでもないどころの話じゃあないよ」


上篝さんが頭に手を当て、自分を落ち着かせるように大きく息を吐いた。

生贄、なんて言葉は映画や小説の中でしか聞かない単語だ。

現代にある、ということに驚きを隠せない。


「日記帳の内容から察するにこの家の住人が信奉者であったのは間違いないだろう」

「そうだね。それと気になるのは『もうすぐやってくる』ってところだよね」

「春晩夏くん、察しがいいじゃあないか!!そこについてはこれから来ると思った方がいいね」


上篝さんは『邪神』はまだ来ていないと推理した。

理由としては、『邪神』が来ていたらもっと街や建物がめちゃくちゃになっているはずとのこと。


「ワタシは邪神?のことはよく分からないのだけど、あの絵の具みたいな花も関係があるの?」


雨久さんが小首をかしげる。

白いふわふわの髪も一緒に揺れる。


「可能は高いね。花ももう一度ちゃんと調べたい」


上篝さんが腕を組みそう言った。

うーん、最初に花を見た時に匂いなどをちゃんと確かめておくべきだった。

改めて部屋を見渡す。

リビングの端に数冊本が積まれているのが目に入った。

近づいて確認してみる。

数冊確認してみたところ、いわゆる黒魔術など怪しげな儀式の本に見える。


「あの、ここにも怪しげな本があります」


私がそう言うと三人がこちらに歩み寄ってきた。

三人に本の場所を示す。


「あっ……あぁ!!これは……ダメだね!!見ない方がいい!!」


上篝さんがそう言って私達全員を元いた場所へ押しやる。


「装丁がダメだ!!中身は絶対に見てはいけない!!」


必死の形相で上篝さんが叫ぶ。

その様子は尋常ではない。


「わ、分かりました!!上篝さんも落ち着いてください!!」


どうにか落ち着いてもらうため、負けじと大きい声で叫ぶ。


「あっ、あぁ……。すまない……。取り乱してしまったね」


まだ動揺が見られるが少し落ち着いたようだ。


「ここに長居はしない方がいい。私の『直感』を信じてくれ。それじゃあ、外に出て花を調べようじゃあないか」


そう言って上篝さんが外に出る。


「どうしたんだろう。普通の本に見えたけど……」

「そうね。彼女は何か知ってるのかしら?」


私も特に違和感は感じなかった。

雨久さんの言うように何か知っているものだったのだろうか。


「とりあえず外に出ようか。単独行動はしない方がいいだろうから」


秋冬さんがそう言う。

もちろん反対意見は挙がらず、玄関から外に出る。


上篝さんは隣家の花壇の花を見つめていた。

何やらぼんやりしているように見える。

そして、そーっと花に手を伸ばした。


「ダメ!!触らないで!!」


雨久さんが駆け出し、上篝さんの手をはたく。

上篝さんはハッとした表情をしている。


「花に毒とかあるかもしれない。迂闊に触らない方がいいと思うの」


雨久さんはツンと澄ました表情でそう言う。

嫌そうな表情をしていることが多いが、なんだかんだ言って上篝さんのことを心配しているらしい。


「……確かにそうだね。迂闊だったよ!!すまないね!!」


いつもの調子をいくらか取り戻したらしい。

良かったと思う気持ちともう誰にも制御できないな……という気持ちが半々だ。


「この花、全然匂いしませんね。造花だったりしませんか?」


花というのは甘めの匂いがすることが多い。

金木犀など匂いの強い花は普通の人でも感じ取れることが多いが、私の場合は大抵どの花からも甘い匂いを感じ取れる。

だがこの花は、甘い匂いがしないどころか植物特有の青っぽい匂いすらしない。


「造花ではなさそうに見えるがね」

「ワタシもそう思う。色はアレだけど、質感は本物だと思うの」


上篝さんと雨久さんが首を捻る。


「それにさっき日記帳に『球根を分けた』ってあったし、花は本物なんじゃないかな?」


秋冬さんもそう言った。

言われてみれば造花であれば球根まで作り込まないかもしれない。


「いや、毒があるかもは承知の上で抜いてみよう!!私の『直感』がそう言っているからね!!」


次の瞬間、上篝さんが茎の根元を掴み、花を土から引き抜いた。

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