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第一話 深淵への扉①

「……!!ここは……?」


着地の瞬間、地面に叩きつけられる衝撃に怯えていたが、私達は全員、何事も無かったかのように床にへたり込んでいた。

隣の秋冬さんを見やると青い顔をしている。


「秋冬さん!?大丈夫ですか?」


肩を軽く揺すり声をかける。

意識はあるが、息が荒い。


「出なかった……。なんで……。翼が……」


荒い息の合間に小さく呟いた。

秋冬さんは竜人族だ。

竜人族は人間ベースも竜ベースもどちらもおり、どこまで竜の要素があるかは個人差が激しいが、角、尻尾、翼の3つはあることが多い。

秋冬さんは人間ベースの竜人族だが、少なくとも角と尻尾があるのは見て取れる。

竜人族の翼は格納出来るらしく、平時は仕舞っておき、飛ぶ時だけ翼を出すようにしている人が多い。

小学校時代に同じクラスにいた竜人族の子に聞いた話では、翼を仕舞う理由は場所を取るからだ、とか。

恐らく秋冬さんも普段は翼を格納しているのであろう。


「秋冬さん!!秋冬さん!!」


何度か呼びかけてみる。

するとハッと気がついたように、秋冬さんの視線がこちらを向いた。


「白……。あっ、ごめん……。大丈夫……?」

「私は大丈夫です。秋冬さんの方が顔色悪いですよ……?大丈夫ですか?」


秋冬さんは青い顔をしたまま、こちらを気遣ってくれている。

多少マシにはなった気がするが、息もまだ荒く心配だ。


「うん、大丈夫。ふふ、ごめんね……動揺しちゃった……」


秋冬さんが無理に笑う。

なんだか自分まで胸が苦しくなる。


「白……?」


思わず両手で秋冬さんの手を握る。

咄嗟の行動で自分でも何を言うつもりだったかも、するつもりだったかも分からない。


「あの……。落ち着くまで私が隣にいます」


考えてみても何が出来るわけでもなかったため、そう伝えた。

私では頼りないとは思うが、近くに人がいるだけでも違うと思ったのだ。


「……ありがとう。すごく嬉しいよ」


秋冬さんが手を握り返してくる。

表情も真っ青な状態から少しだが持ち直したようだ。


「皆!!無事か?無事なものはその場で構わない、手を挙げてくれ」


時計塔さんが大きな声で確認した。

私と秋冬さんは繋いでいない方の手を挙げる。

周りを見渡すと全員手を挙げているようだ。


「全員意識はあるな。軽微でも怪我のある者は後で申し出てくれ」


時計塔さんが続けてそう言った。

意志の強そうな深い青い瞳が改めて全員を見渡す。


「ひとまずここの探索……といきたいところだが、先に簡単に自己紹介をしよう。異議のある者はいるか?」


手は挙がらない。


「よし。ひとまず円になって座ろう。その方が互いの顔が見やすいだろうからな」


時計塔さんの指示に従い、各々場所を移動し適当な位置に座る。

私も秋冬さんと隣り合って座った。

移動する際に自然と手を離してしまったのが名残惜しい。

でも、顔色はかなり元の様子に戻っている様子で一安心だ。


「私から始めよう」


時計回りで、と時計塔さんが付け足した。


「私は時計塔嗣。年齢は十六歳だ。よろしく頼む」


時計塔さんが隣に目で合図を送る。

隣に座っていた白髪のふわふわロングヘアの女の子が軽く頷き、話し始めた。


「ワタシは雨久逆(アマヒササカサ)。年は十五歳。よろしくね」


そうして全員が挨拶をし終えて、十分ほど休憩となった。

ここにいる人たちの年齢は全員十五歳から十七歳の間で学年はまばらではあるが、同年代であった。

何より驚いたのは秋冬さんが私と同い年の十六歳で学年も同じ高校二年生ということ。

どこか大人びた雰囲気で、てっきり年上かと思っていた。

秋冬さんも驚いた表情をしていたので、恐らくは私を年下だと思っていたのだろう。


「すみません。あの、春晩夏さんに聞きたいことがあって……」


突如後ろから声がした。

声がした方を振り向くと男性が二人いた。

先ほどの自己紹介のおかげで名前だけは分かる。

ちなみに私の残念な記憶力では個々の年齢は覚えられていない。


「僕は神座(カンゼ)スヲウです。こっちは弟のシヲ」


黒みがかった紫色の髪が特徴的な男性――神座スヲウさんが改めて名乗ってくれる。

先ほど弟のシヲさんは双子だと言っていたが、全く似てない。

二人とも美形であることは間違いないが、スヲウさんは垂れ目で優しそうな雰囲気である反面、シヲさんはツリ目でツンとした雰囲気に感じる。

一卵性の双子であっても『能力』がある場合に髪色や目の色は異なるケースはままあることなので、そこが異なるのは理解できる。

背丈だけは同じくらいに見受けられるが、あまりにも二人の纏う雰囲気が違いすぎる。


「私に?」

「はい。あの、春晩夏さんは竜人族ですよね?」


スヲウさんの問いに秋冬さんがそうだよ、と頷いた。


「先ほどの中庭から落ちた時に翼で飛べましたか?」

「……ううん、無理だったよ」


秋冬さんがふるふると首を横に振る。

するとスヲウさんの後ろでツンと口をつぐんでいた黒髪の男性――シヲさんの方が口を開いた。


「俺の浮遊魔法も使えなかった」


それだけ言うと再びツンとそっぽを向いてしまった。

話をする気自体はあるようだが、どうやら話の主導権……というより主体はスヲウさんにあるらしい。


「そうなの?私だけじゃなかったんだ」


秋冬さんが安心したように言った。

そうなるとあの瞬間、翼や浮遊魔法など宙に浮くものは使えなかったのだろうか。

誰か、いや『なにか』が干渉してきたということなのだろうか。


「そうなると、何かしら……魔法とかの干渉があった可能性がありそうですね」


スヲウさんがそう言った。

確かに浮遊魔法も使えず、秋冬さんの翼もなぜか出なかったことを考えると飛ぶことを禁止もしくは中空に止まれなくするような魔法が干渉していた可能性がある。


「実はシヲの魔法が使えなくなったのかもと思って心配してたんです。違うみたいで安心しました。」


スヲウさんがちらっとシヲさんの方を見てそう言った。

シヲさんは相変わらず目を合わせずツンと澄ました表情のままだ。


「休憩の邪魔をして、すみませんでした。では、僕たちはこれで」


最後にスヲウさんがありがとうございました、と言い残して二人は元いた辺りに戻っていった。

シヲさんも去り際に軽く会釈をしていたのでコミュニケーションが苦手なだけで悪い人ではないのだろう。

中途半端なところですが、文字数が長くなりそうだったため二分割しています。

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