プロローグ③
「こちらこそ、よろしく。ところでポケットとかバッグに紙が入ってなかった?」
「紙、ですの?少しお待ちくださいまし」
秋冬さんの問いに宝条さんが自分のポシェットを探る。
彼女はフリルの着いた白いワンピースを着ており、服にはポケットが付いていなさそうな造形をしている。
「ありましたわ!」
「これかな?」
宝条さんと最川さんが同時に声を上げた。
二人が紙を開き、軽く目を通している。
そして宝条さんが紙をこちらに差し出してきた。
そこには私と秋冬さんのものと全く同じ文言が記されていた。
「やっぱり同じだね。全員これをもらっていると思って良さそう」
「私達のも。どうぞ」
秋冬さんと私の分を宝条さんと最川さんに見せる。
二人とも不思議そうな表情をしている。
「なんですの?これ」
宝条さんが先に口を開いた。
「私達にも詳しいことは分からない。でも、とりあえず中庭はあったよ」
秋冬さんが簡潔に現状分かってることを伝えた。
「私達は一度中庭に行った後、残ってる人達を探しに来たんです。宝条さんと最川さん以外はまだ見つけていないですが……」
ついでに状況を補足する。
二人とも冷静でパニックになる様子がなく、状況の飲み込みが早い。
おかげで説明が楽で助かる。
「もう、白ちゃん!!ボクのことはココットって呼んでってば!!」
最川さんが少し頬を膨らませる。
苗字が好きではないとか、事情があるのだろうか。
「すみません、ココット……さん」
呼び捨ては性に合わず、さんを付けてみる。
「うむ、苦しゅうないぞ⭐︎」
ココットさんは満足気に頷いた。
さん付けは問題なかったようで一安心だ。
「とりあえずわたくし達も一度中庭に行ってみませんこと?時間が経っているなら自力で出てきた方がいるかもしれませんわ」
宝条さんが三人に向けて提案した。
芯の強そうなラベンダー色の凛とした瞳に見据えられると思わず何も考えず「はい」と言いたくなってしまう。
「それもそうですね。秋冬さん、どうですか?」
少し思案した後、宝条さんの意見に賛成した。
ココットさん達が自力で脱出したも同然であることを考えると、自分達で気がつき中庭へ来ている人がいてもおかしくはない。
「そうだね。私も賛成」
「ボクも!反対する理由無いし」
秋冬さんとココットさんも賛同してくれた。
「あっ、でもこの部屋を簡単に調べてから行きたいです」
私が提案する。
「私と秋冬さんがいた部屋とほぼ同じ形状や広さをしている気がします。なので、同じかどうかを調べたいです」
「言われてみればそうだね。私も手伝う」
秋冬さんが申し出てくれた。
「ここ、もう一つ奥に部屋があるよ。ボクも美々三も最初はそこにいたみたい。暗すぎて周りはよく見えなかったけど、変なのがいてさあ。すぐにこっちの部屋に追い立てられてきちゃった」
「そうですわね。わたくしもココットさんを認識したのはこっちの部屋に入ってからですもの」
二人が教えてくれる。
ココットさんが言う『変なの』は暗闇であったことから私を最初に襲ったものと同一である可能性がある。
「なるほど。少なくとも奥の部屋は私達の時と同じ状況ですね」
「うん。部屋全部真っ暗なら私の炎程度じゃ大した明かりにはならないし、探索はやめておこう」
秋冬さんと相談し、この部屋だけを軽く調べることにした。
一番廊下側の部屋は来る時に簡単にだが調べてあるため、とりあえず省いても問題ないだろうと判断し、一番奥側の部屋は暗すぎて調べることが不可能であると判断した。
また私は逃げる時にパニックに陥っており、あまり覚えていなかったため、秋冬さんを中心に見て回ることとなった。
自分が不甲斐ない……。
「ほぼ同じだね」
部屋をぐるっと一回りした秋冬さんがそう言った。
厳密にはココットさんが吹き飛ばされてきたドアの残骸がある点が異なるが、ほぼ同じであるという結論になった。
「ということは他の部屋も同じ構造かもしれませんね」
私の言葉に秋冬さんが頷いた。
「廊下とか他の部屋に繋がらない部屋3連って構造おかしくない?生活不便そー」
ココットさんが言う。
生活導線のことが一切考慮されていない、という点は同意だ。
「化物がいる時点で普通じゃありませんの。生活するためのお屋敷では無くて、何か別の目的のためのお屋敷だと思いますわ」
「そうだろうね。手前の部屋は露骨に魔法陣があったし……まず間違いないと思うよ」
秋冬さんと宝条さんが意見をまとめてくれる。
意義はないので私も頷く。
「怖っ!!とりあえず中庭出ようよ。怖い話聞いたら外の空気吸いたくなっちゃったよ〜」
ココットさんが嫌そうな顔をして、手前側の部屋の扉を指差す。
「そうですね。大丈夫だとは思いますが……念のため私が先行します」
「ありがとう、白。よろしく頼むよ」
秋冬さんがそう言った。
ココットさんも宝条さんも頷いてくれたので、中庭へ先導する。
思っていた通り、特に何も起こらず、あっさりと中庭へたどり着いた。
扉を開けるとそこには六人の人がいた。
「良かった。みんな自力で出て来れたんだ」
秋冬さんが小さく安堵のため息を吐いた。
しかし六人と言うことはあと二人まだ中に残っていると言うことだ。
「君達、無事か?私は時計塔嗣。一旦この六人を代表して挨拶させてもらう」
時計塔嗣、と名乗った凛とした女性がそう言った。
私と秋冬さん、ココットさん、宝条さんが順繰りに挨拶をして、一通り終わったところで彼女に問いかける。
「あの、なんかポケットとかに入ってた紙はもう見ましたか?」
「あぁ。中庭に向かえ、十二人いる、というものを確認してここに来た。こちらは全員同じものを持っていたな」
「私達も同じです。あと二人足りないってことですよね」
「そうだな。中に残っている、と言うことだと思うが……」
時計塔さんとこちらの情報を擦り合わせたところ、齟齬は無いようだ。
そしてやはり二人足りないようだ。
「そこで、今みんなで中に戻るか話し合っていたところだ」
時計塔さんがそう言った。
「なるほど。それなら、みんながいた扉の位置を教えて欲しい。恐らく残った扉に取り残されている人がいると思うんだ」
「うむ。確かに皆出てきた扉が違ったな」
秋冬さんの提案に時計塔さんが乗る。
廊下へと繋がる中庭の扉を二人で開け、指差しで確認しているようだ。
「白、分かったよ。一番右側が残ってる」
二人で確認したあと、秋冬さんが私の元に歩み寄り教えてくれた。
恐らく秋冬さんも私と同じことを考えている。
「私と一緒に来てくれる?」
「はい!!」
間髪入れずに肯定する。
もとより全員見つけられるまで探すつもりだった。
「待たせたな!!君たちィ!!」
その時、中庭へ威勢のいい女性の声と同時に人影が現れた。
「ヤァヤァ、主役は遅れて登場するものだからね。待てるのは光栄だと思いたまえよ」
茶髪のウルフカットの女性が大仰な仕草でそう言った。
山吹色の瞳がうっとりと細められている。
「ごめんなさい。彼女のことは気にしないで」
白いふわふわのロングヘアを靡かせて、後ろからもう一人現れた。
白髪の女性は茶髪の女性を諌めるように鋭い視線を送った。
「ふふ、冗談じゃあないか」
ややたじろいだように茶髪の女性が肩をすくめる。
だが、白髪の女性は変わらず視線は茶髪の女性を射すくめるように見据えている。
「ワタシたちはこの紙を頼りに中庭に来てみたのだけれど。皆さんもそうかしら?」
白髪の女性が見覚えのある中庭に向かえと記された紙を提示し問うてきた。
「そうだ。君達で十二人揃ったことになるな」
時計塔さんが首肯し、答えた。
すると白髪の女性が首を傾げて、不思議そうな表情をした。
「ということは、これから何かが起こるってことかしら?」
紙には中庭へ向かえということと人数が十二人いるということしか記されていなかった。
中庭に全員が集まった後どうするか、何が起こるかについては未知数の状態だ。
「どうだろうな。まだ分かッ」
時計塔さんの言葉が突然切れた。
その瞬間、中庭が大きく揺れた。
何かが這い出てこようと足掻いているかのような不自然な揺れだ。
そして、次の瞬間、私達がいる中庭の底が抜けた。
文字通り、突然床が消え失せ、浮遊感と落下していく感覚に襲われる。
思わず息が止まる。
「白ッ!!」
秋冬さんが私に手を伸ばしている。
「秋冬さん……!!」
私も秋冬さんの方へ手を伸ばす。
あと少しで届くのに、その少しがどうしようもなく遠い。
そして、その手が届いた瞬間、私達十二人はこれから起こる奇々怪界な出来事の元凶である『王立時計塔学院』の床にへたり込んでいたのである。




