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第五話 決定

「あっ、起きた?」


気がつくと私は自分の部屋にいた。

秋冬さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。


「お風呂場で倒れたから運んできたの」


ふと時計を見てみる。

元々置いてあった場所に時計はない。

そうだ。移動中に時間を確認するためにお風呂場に持って行ったんだった。


「ごめんね。とりあえず下着だけは着せたんだけど……服は難しくてタオルだけ巻いてきた」


自分の身体を見ると確かにタオルが巻かれている。

下着だけでも着せておいてくれただけでもありがたい。

髪も乾かしていないからびしゃびしゃだが、ベッドの上にタオルを敷いておいてくれたおかげでベッドが濡れているということは無さそうだ。


「良かった、起きたんですね」

「頭とか打ってないか?」


ちょうど扉が開き、安丹さんと時計塔さんが入ってきた。

手にはスポーツドリンクや冷えピタを持っている。


「たぶん……大丈夫です」


頭が痛いなどの異常は特に感じられない。

なぜ急に気絶したのだろうか。

自分で思っているよりも疲れていたのだろうか……?


「時計塔さんの裸見ようとするからバチが当たったんじゃないですか?白さんのエッチ!!」


なぜか少し楽しそうに安丹さんが言う。

そうは言いながらも冷えピタを開けておでこに貼ってくれた。


「ありがとうございます」

「気にしないでください。体調悪いんですから、安静にしてくださいね」


冷えピタのお礼を言うと安丹さんが優しく微笑んだ。

ただでさえ絶世の美少女だと言うのに笑うとより愛らしい。


「スポドリは冷蔵庫に……お茶を一旦外に出して入れておく」


時計塔さんもいそいそと冷蔵庫を整理してくれる。

優しさが身に染みる。


「気をつけてくださいね?お風呂はヒートショックとか危ないって聞きますし」

「それに寧崎は間違いなく疲れてるだろうし安静にな。意識は戻ったようだし、私達は一旦失礼する。何か困ったら部屋にいるから呼んでくれ」


時計塔さんと安丹さんが立ち去る。

冷えピタを二箱置いていってくれたが、いくらなんでも多くないだろうか。


「白が思ったより元気そうで良かったよ。意識もすぐに戻ったしね」


秋冬さんが優しく笑った。

かわいい。


「はい。心配をおかけしました……」

「いいよ。そんなことよりゆっくり休んで」


何かあったら呼んでねと言い残して秋冬さんも自室に戻っていった。

みんなに心配をかけないように今日はドライヤーをして、服を着替えて早めに寝よう。

そして、明日こそ大浴場を満喫するのだ。


------


爽やかな朝。

とはいかないが、昨日倒れた割にはすっきりとした目覚めだ。

部屋にあった時計のアラームを朝の7時にセットしたのだが、どうやら少し早く目が覚めたらしい。

時計を確認すると6時50分。

やはり少しだけ早い。

アラーム機能を切り、ベッドから出る。

部屋の電気を着け、冷蔵庫の中の水を飲む。

朝一の水は体に染み渡る感覚がたまらない。

顔を洗い、歯を磨く。

寝巻きから元々着ていた制服に着替え、外に出る準備は万端だ。

朝ごはんの時間は決まっていないが、私はいつもと同じ7時過ぎくらいに食べたい。

食料倉庫を経由して、食堂へ向かう。

食糧倉庫ではロールパンと冷凍食品のオムレツを選んだ。

こんな時でも、いやこんな時だからこそ少しでもルーティンワークを守りたくてパンを選んでしまった。


「白ち、おはよう」

「まだオレたちだけ。良かったら一緒に食べない?」


食堂に入ると百田さんと春日井さんに声をかけられた。

特に断る理由もないので同席させてもらう。


「白ち、昨日ありがとうね。あてぃしも一晩考えてさ〜、嗣ちの案に賛成しようかなって」


百田さん笑顔でそう言った。


「ま、あてぃしは魔法は攻撃とかできる能力があるわけじゃないから役立てるかな〜って感じだけど!」


少しバツが悪そうに頭をポリポリとかく。


「オレも。賛成にしようと思ってる。なんか何もしないことに耐えらんなくてさ」


手に持ったスプーンをもてあそびながら春日井さんが言った。

春日井さんの持論は非常によく分かる。

私も何もしない、というのは苦手だ。

なんらかの形で前に進んでいないと安心できない。

極論正しい方向に進んでいなかったとしてもこっちではないという正しい気づきを得られると思っている。


「嗣ちに伝えたいんだけどさ〜、何時に起きてくるか分かんなくて。なんとなく早めに来てみたんだけどまだだったんだよ〜」


確かに時計塔さんは朝が早そうなイメージがある。

もしかして昨日私が倒れて看病してたせいでいつもより遅いとか……?


「まぁ、いつか来るっしょ。食べ終わっちゃったらダベってればいいし」


春日井さんがそう言った。

朝のスープの定番クルトンが浮かんだコーンスープが美味しそうだ。

時刻はまだ7時30分。

ここからみんな起きてくることだろう。

パンだけ持っていって自室で食べる人もいるだろうが、時計塔さんは十中八九食堂に食べにくる気がする。

付き合いはまだ浅いから偏見に近いが。


「あら、もう三人もいるんですか。おはようございます」

「おはよう」


噂をすればなんとやら。

安丹さんと時計塔さんが手に朝ごはんを持って食堂にやってきた。

安丹さんはコーンフレーク、時計塔さんはロールパンとミネストローネにしたようだ。


「おはよう、嗣ち。あのさ、今話しかけてもいい?」

「もちろん構わない」

「昨日の話なんだけど、あてぃしとるねちは賛成。役に立つかは分かんないけど……よろしくね!!」

「本当か!?百田、春日井ありがとう」


百田さんが春日井さんの分もまとめて伝える。

それを聞いた時計塔さんはとても喜んでいる。

もしかして保留にしてた人たちにはほとんど断られたとかだったりするのだろうか。


「そうだ。それなら寧崎もだが、今日のお昼前11時くらいに1階に来てくれないか。他の人達には朝食の後に声をかける」


時計塔さんがそう告げた。

賛成した人達で顔合わせや方針のすり合わせをするのだろう。

予定もないので、素直に分かりましたと答える。


「はーい」

「了解」


百田さんと春日井さんも返事をした。

この二人がいてくれるのは心強い。

対人関係においてバランサーを担ってくれる人物がいてくれるというのは、とてもありがたい。


私も含めて三人とも食事を終え、昨日決めた通りにゴミを食堂のゴミ袋に入れる。

ゴミについては、一旦ゴミ袋に入れ、そのあと空いている物置に持っていこうということになった。

急場凌ぎで悪臭の心配はあるが他にどうしようもないということで反対意見は挙がらなかった。


「じゃあ、るねち、白ち。あとでね〜」

「おー、三時間後にまたな」


二人にご飯に誘ってくれたお礼を言って手を振る。

二人とも話を振ってくれる上に拾ってくれる。

さらに意見をまとめることもしてくれるしで、非常に話がしやすかった。

あれがコミュ強というやつか。

それにしてもこのあと三時間はどう過ごそうか。

そうだ、昨日借りた本がある。

他の人も読みたいかもしれないし、早めに読んで返すとしよう。


--------


「よし、声をかけた者は全員いるな」


時計塔さんが言った。

周りを見渡すと私と時計塔さん以外には秋冬さん、安丹さん、上篝さん、百田さん、春日井さん、スヲウさんがいた。

やはり昨日反応が悪かったシヲさん、雨久さん、宝条さん、最川さんはいない。


「まずとにかくこの扉についてだ」


時計塔さんが昨日私たちが通った扉を示す。

外観が1個だけ他のものと異なっている。


「前回と同じなら隣の扉も四人で開くはずですけど……誰が行きますか?」

「うむ、それが今回集まってもらった理由だ。経験者……と言いたいところだが、寧崎は昨日倒れていることを鑑みるとインターバルをおいた方がいいだろうな」


時計塔さんがそう言った。

体調はもう問題ないと思っているが、万が一扉の中で倒れたら目も当てられない。

今回は大人しくメンツから外してもらおう。


「前回行ってない四人じゃダメなの?嗣ち、銀河ち、スヲウち、るねち、あとあてぃしの中から四人選んでの方が公平じゃない?」


百田さんの言葉に上篝さんが反論する。


「いや、経験者がいた方がいいんじゃないかね?同じような生物がいたりするもしれないからね」


どちらにも一理ある。

時計塔さん達もうーんと唸っている。


「ねぇ、五人の能力とか使える魔法で決めたらどう?」


秋冬さんの提案にそれとなく皆んなが乗る。


「はい!じゃあ、あてぃしから!あてぃしは通信魔法が使えるよ。それの応用で光魔法も多少って感じ!!」


通信魔法は非常に重宝される魔法だ。

電話よりも機密性が高く、電波など周りの状況にも影響されない。

発信者が使えれば受信者は魔法を使える必要がないのも大きいメリットだ。

卒業後の就職は引く手数多の能力だ。


「百田の次、発表しづらいな……」


春日井さんが苦笑いを浮かべつつ話しはじめた。

確かにトップバッターがあまりにも優秀な能力だったから次の人のハードルが上がってしまっている。


「オレは身体強化と武器強化。あとは短剣くらいだけど武器創造と簡単な日常魔法とかは一通り使える」

「武器?武器なんて持ち込めたのかね?」


上篝さんが聞く。

中庭にいた時に最低限の荷物以外なかったことを考えると武器の類は没収されていると考えるのが自然だろう。


「残念ながら無い。いつもなら短剣を武器創造で作るけど、ここでは出来ないらしい」


すでに試していたらしい。

持ち込みはおろか新しく作ることもできないとは徹底されている。


「私の能力は無い。魔法も使えない。つまり能力値としては最低値になる」


時計塔さんがそう宣言した。

周りのみんなはびっくりした様子だ。


「すまない、隠していたつもりはないのだが……。私には特殊な力は無い」

「ふふ、気にしないでください。嗣さんにはリーダーシップがあるじゃないですか」


苦虫を噛み潰したように時計塔さんが言い終わるや否や安丹さんがフォローを入れる。


「そうそう!嗣ちに引っ張ってもらわないとうまく纏まらないし!」


すかさず百田さんが追撃する。


「あ、ありがとう」


消え入りそうにお礼を言って、時計塔さんは恥ずかしそうに俯いた。


「次はわたしですね。わたしは治癒魔法です。とは言っても高位のものは使えないので、頑張っても軽度の骨折程度までですが」


治癒魔法は通信魔法よりも更に引く手数多の能力だ。

安丹さんはサラッと言ったが骨折を治せるのはそれなりに高位の魔法のはず。

治癒魔法を使える人がいてくれるというのはなんとも心強い。


「あとは僕ですね。僕は能力と魔法で二つあるんですが、能力はシヲがいないと使えません。魔法も影追いという魔法が使えるはずなんですが……ここや中庭で何度試してもダメなんです。なので、実質僕も無能力ですね」


スヲウさんが申し訳なさそうに言った。


「なに!?影追い!?影追いが使えるのか」


上篝さんが目を輝かせてスヲウさんに迫る。

スヲウさんは勢いに押されて引いている。


「君ィ、ここから無事に戻ったらうちの事務所で働かないか?探偵事務所は影追いが使える人材をいつでも求めているからね」


さりげなくスヲウさんのポケットに自身の事務所の名刺だろうか、紙を滑り込ませた。

スヲウさんは相変わらず苦笑いを浮かべている。


「影追いって何?」


百田さんが聞く。

私も聞いたことのない魔法だったので助かる。


「そうか。確かに一般には珍しいかもしれないね。影追いは物事の追跡探索ができる魔法だよ。これの素晴らしいところは過去にも未来にも影響を及ぼせるところだよ。例えば被害者を刺したナイフがあれば過去に刺した犯人は当然分かるし、ナイフを捨てた後の犯人の足取りだって追えてしまう。探偵にとっては絶対に欲しいチートスキルなんだがね、いかんせん取得適正持ちが少ない上に、優秀な人が多い故に他の魔法も取れるケースが多くてそっちに行きがちなんだよ。だから、スヲウくん!君はうちに就職してくれ」


上篝さんはいつも通り大げさな動きでスヲウさんに猛アピールをしている。


「え、ええ……。考えておきます……」


ドン引きした様子のスヲウさんが頑張って絞り出すように返事をした。


「次の扉は四……つまり四人選出しなくてはいけないわけだ」


時計塔さんが考え込む。


「百田、春日井、安丹、私でどうだろうか?」

「嗣さんも行くのですか?危ないですよ?」

「うむ。危険は承知だ。きっと前と同じ感じなら探索ではいくらか役に立てるだろう」


そう答えた時計塔さんだが、安丹さんはまだ不安そうにしている。


「あてぃしは意義なし!!」

「オレも問題なし」


他の二人は賛成のようだ。

時計塔さんと安丹さんも賛成をしたため、第二回の探索メンバーが決定した。

明日の10時頃に出発するということで決まりになった。

こちらのに残る面子も時間経過を確認したいということになったため、扉の外で待機するという形になった。


---------


翌日10時 1階扉前


「あてぃしは準備万端!!」

「オレもいつでも行けるよ」


百田さんと春日井さんが元気よくそう言った。


「わたしもオッケーです」

「うむ。私も問題ない」


安丹さんと時計塔さんもそう言う。

時計塔さんはアウトドアリュックを背負っている。

中には食料等が入っているとのことだ。

今までの話から持ち込めないと踏んだが、モノは試し。

一度持ち込みを試みてみようと言うことだ。


「本当に開いた!!」


四人が扉の前に立ち、百田さんがノブを回すとすんなりと扉が開いた。


「じゃあ行ってきまーす!!」


百田さんが扉のオーロラの膜のようなものをくぐる。

春日井さん、安丹さん、時計塔さんも続く。

最後の時計塔さんが入った後に扉がバタンと閉じた。


そして、私達は四人の帰りを待つべくその場に座ったのだった。

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