第六話 試行
四人を見送った私たちはおもむろにその場に座った。
前回は十分も経たずに出てきたことになっていたが今回もそうとは限らない。
なので、立ちっぱなしは少ししんどい。
「影追いって初めて聞いたけどすごい能力だね」
秋冬さんがスヲウさんに言った。
「私も初めて聞きました!でも上篝さんは知ってたし知る人ぞ知るって感じなんですかね」
私も続けると、なぜか上篝さんがふふんと嬉しそうに鼻を鳴らした。
「そうだよ。影追いは探偵や警察垂涎の魔法だが、それ以外にはあまり使わないからね」
「そうですね。あまり小さい出来事……例えば失せ物とかに使うと気味悪がられるケースも多いので使い所も難しいですしね」
自分で探し物を頼んでおいて見つかったら気味悪がるなんて矛盾した人がいるのか……。
頼まれていなくても探し物を見つけてくれたら嬉しいと思う私は少数派なのだろうか。
「まあ、要するに潰しが効かない魔法なんだよ。特定の職業以外にはあまり歓迎されない能力だね」
上篝さんが肩をすくめる。
「だからスヲウくん。ぜひうちの事務所に就職してくれ!!」
手を前で組み、スヲウさんに再度頼み込む。
考えておきます、でいなされるも、上篝さんのあの目は絶対に諦めていない。
「今回もすぐ戻ってくるかな?」
秋冬さんが小首を傾げる。
少し不安げな表情を浮かべているがそれもまたかわいい。
「中にいた私達の体感は3〜4時間くらいありましたよね?でも、現実では十分ちょっとってところでしたもんね」
私の言葉に秋冬さんが頷く。
「時間の歪みも気になるが、何より前みたいに変な魔物みたいなのが出ないかだな。前回は春晩夏くんの圧倒的な制圧力があったから良かったが……」
上篝さんが髪をくるくると指に巻き付けながら思案している。
「でも今回も春日井さんが戦闘向きの魔法使えますよね?それ込みで面子を決めたんだと思ってました」
スヲウさんがそう言った。
確かに春日井さんは身体強化と武器強化、更に武器創造まで持っていて明らかに戦闘向きの能力をしていた。
だが、竜人族である秋冬さんよりはさすがに戦闘力は低いのではないだろうか。
竜人族は翼による機動力があることに加えて、膂力も人間とは桁違いである。
更に秋冬さんは魔法も使えるのだから鬼に金棒である。
「それに安丹さんの治癒もありますからね」
私もそう言った。
「いや、能力が制限されるパターンがあるんじゃないかと思ってね。杞憂だといいんだが」
言われてみればシヲさんの浮遊魔法と秋冬さんの翼が開かなかった時があった。
秋冬さんの翼は魔法ではないから別種の制限なのだろうが、確かに一度あった以上、他でも起こる可能性は考えられる。
「そういえばシヲの浮遊魔法が不発になった時ありましたね」
スヲウさんも同じことを思い出したようだ。
「それと僕の影追いもそうですしね」
言われてみればそうだ。
スヲウさんの魔法も何故か使えないと言っていた。
春日井さんの武器創造も同じく使えないと言っていたが、逆に扉の中では使えたりするのだろうか。
「十分経ったね。さすがにまだかな」
「前回も十五分近く経ってそうでしたもんね」
時計を見ながら秋冬さんが言った言葉をフォローする。
前回と同じ程度ならあと五分程度で戻ってくる計算になる。
「戻ってきた時って冷たい物と温かい物どちらが飲みたいですかね?先に用意しておいてあげたいですね」
スヲウさんが提案した。
考えもしなかった発想だが、中ではそれ相応に時間が進んでいることを考えると確かに水分が用意されているのは嬉しい。
「とりあえず水で、戻ってきたら皆さんに聞くのがいいんじゃないでしょうか?向こうの環境分からないですし……」
前回は至って普通の気候だったが今回もそうとは限らない。
極寒や灼熱であるという可能性も考えられる。
「そうですね。それがいいかもしれません」
同じ結論に行き着いたのかスヲウさんがそう言った。
ちょっと水をとってきます、と行って2階へ上がって行った。
「ところで、今回来なかった四人はどうするのかね?6くらいなら何とかなるだろうが、8はかなりきついし、12に至っては開けることも出来んぞ」
一番の課題点だ。
今回来なかった四人を説得しなければ確実に開かない扉がある。
宝条さん、ココットさんは扉のことをある程度把握できるようになり、危険因子を排除しやすくなれば説得の余地はありそうだ。
問題は雨久さんとシヲさんの二人だ。
雨久さんは時計塔さんと私、シヲさんはスヲウさんが再度説得を行なったもののとりつく島もないといった様子だった。
雨久さんは前回の干し首の花の件がトラウマになっているようだ。
シヲさんはとにかく矢面に立って戦闘をしなくてはいけない可能性を嫌がっているようだった。
「とりあえず今回ので危険性がわかれば宝条さんとココットさんだけでも説得できるかも、ですよね!」
私の言葉に上篝さんが悲しそうな顔で言った。
「どうだろう。あの二人は頑固そうだからねぇ。案外お兄ちゃんに懐いてるシヲくんの方が先に折れるかもしれないよ。閃きではなく勘だが」
そうだろうか。
シヲさんが現状一番嫌がっているような……?
「そうでしょうか……?シヲは暖簾に腕押し状態でしたが……」
スヲウさんが言う。
シヲさんの説得はスヲウさんが担当したと言っていたが、てんでダメだったと言っていたし、今の言い方から本当に話にもならなかったのだろう。
「いつもはあんなに強固な態度は取らないのですが……。このタイミングで反抗期が来たとか?」
スヲウさんが困ったように小さく笑った。
「逆なんじゃないかな?甘えてるんだよ。君が何とかしてくれるって思っているとか」
秋冬さんがそう言った。
確かにその線もあるかもしれない。
その時、時計塔さん達が出発したのと同じ扉がガチャリと開いた。
時計を見やると出発してから十五分程経っている。
「おかえりなさい。皆さんご無事ですか?」
「ただいま〜!!るねちが治療中なのと嗣ちにちょっとだけメンタルダメージ入った以外は問題無し〜」
百田さんが両手でピースを作り答えた。
扉から無事に四人が出てくると、扉はひとりでにガチャリと閉じ、一つ目の扉と同じく色が灰色になった。
「春日井さんは軽傷なのでわたしの治癒魔法でちょちょいのちょいだと思いますよ」
手元から治癒魔法特有の緑の光を発している安丹さんが言った。
「春日井には無理をさせたな。すまない」
時計塔さんが頭を下げた。
春日井さんはギョッとした表情を浮かべている。
「いや、あのくらい気にしないでくれよ。怪我するかもって覚悟はしてたつもりだしさ」
安丹さんに治療をされながら、春日井さんは笑顔で答えた。
この様子なら軽傷と見ても良さそうだ。
事前に話していた通り、スヲウさんが全員に水を配っている。
同時に飲みたいものも聞けたようで早速二階へと上がって行った。
「あ〜っ!!お水おいしい〜!!結局嗣ちが持ち込んだやつ、なんかほとんど消えたもんね」
「そうだな。リュック本体が残ったのが温情って感じの消えっぷりだったな」
その辺の話はまとめて休憩がてらしようということになった。
「とりあえず談話室にでも行くか」
時計塔さんの提案を受け、みんなで談話室へ向かう。
春日井さんも治療が終わったらしく、一応隣に安丹さんがいるものの普通に一人で歩いている。
談話室に着くと飲み物を入れ終えたスヲウさんも待っていた。
みんな口々にお礼を言いつつ、席へ座る。
「とりあえずオレの怪我は治してもらったからもう大丈夫」
「はい、わたしの目から見ても問題ないと思います」
るねさんの言葉に安丹さんが付け足した。
「よし、それでは今回の探索の報告をしよう」
時計塔さんが順を追って説明する。
大まかな話の内容はこうだ。
・スタート地点はよくわからないが恐らく邪神崇拝施設。
・持って行ったものはバッグ以外はポケットティッシュしか残らなかった。
・探索を進めるとまさに今日儀式が行われるので、それを止めないといけないことが分かる。
・邪神を完全に出さない事はできず、幼体のような不完全な状態で復活し、戦闘になった。
・春日井さんをメインに戦闘を行い勝利。
・その途端、地面が揺れて扉が現れた。
といったことらしい。
「るねちがMVPだね〜」
「ですね!春日井さんの頑張りのおかげでわたし達も無事なわけですし」
百田さんと安丹さんがキャッキャっと言っている。
春日井さんも感謝されて満更でもなさそうだ。
「他のところが同じか分からないけど、戦闘は基本的に俺じゃキツいね。一対一の対人戦ならともかく数で来られたり、モンスターみたいなの出てきたら対応できないな」
春日井さんが疲れた様子で言った。
「なるほど。そうなると、やっぱりシヲの説得が必要そうですね……」
スヲウさんが困ったように言う。
詳しいことは分からないが、シヲさんは制圧能力が高い能力を持っているらしい。
秋冬さんに全ての戦闘を任せるのは負担が重過ぎるし、もしいてもらえたらすごく助かる能力だ。
「そうだな……。負担をかけるがシヲ、あと攻撃魔法の出力が高い最川には協力してもらいたいところだな」
時計塔さんもそう言った。
そうなれば次の目標は決まりだ。
次の扉への挑戦のために、シヲさんの説得を行うことになった。




