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第四話 暗転

あの会議のあと、秋冬さんと二十時にお風呂に行く約束をして部屋に戻った。

あと一時間程度あるから、二階の物置に色々と物を取りに行こう。

本当は食堂から戻りがてら寄るつもりだったのだが、秋冬さんと長く一緒にいたくてついつい部屋まで戻ってきてしまった。

とりあえず必要なのは歯ブラシと飲み物くらいだろうか。

そのくらいならわざわざバッグを探さなくても手に持って何回か往復すればいいだろう。


「あっ、白ちじゃーん!!」


歯ブラシを探すべく物置に入ると先客がいた。

百田さんが歯ブラシを持った手を振る。


「こんばんは。あの、私も歯ブラシ探しにきたんですけどどこにありました?」


これ幸いと尋ねる。


「この辺だよ〜。歯磨き粉と歯磨き用のコップもある!!あと歯ブラシは色選べるよ」


百田さんに手招きをされたので近くに行く。

せっかくなので歯ブラシは秋冬さんっぽいオレンジ色にした。

手に取った後に発想がキモいなと思ったが、二言はない。オレンジに決めた。


「ねー、白ち。今ちょっと話してもいい?」


必要なものを取り、そろそろ戻ろうかなと思ったタイミングで百田さんに声をかけられた。


「あっ、はい。二十時までなら大丈夫です」

「ほんと?ありがとー!!」


ひまわりのような笑顔が眩しい。


「あのさ、さっきの嗣ちの話に賛成って即答してたじゃん?その理由って聞いてもいい?」


夕食の時の話が気になっていたらしい。

特に隠すこともないので包み隠さずに話す。


「私は最初の扉に入っているので……その時の経験と時計塔さんの話が噛み合ってると思ったんです。それに扉を全て閉じたら何が起こるとかも分からないですけど……私はこう思うんです。扉を全て閉じたら大いなるモノをちゃんと封印し直せて、用済みになった私達は返してもらえるんじゃないかなーって。希望的観測ですけど、他に道もないですし」

「ほー、めっちゃちゃんと考えてて偉い!!ありがと、超参考になった!!」


百田さんが感心したように頷いてる。

なんかすごい褒めてくれて嬉しい。


「確かに扉を閉じてるもんね。開きかけた封印をもう一回閉じてってるっていうのは説得力あるかも」


うんうんと唸りながら百田さんが言った。

なにか腑に落ちるものがあったようだ。


「引き留めてごめんね。ありがと!!」

「あっ、いえ。こちらこそ歯ブラシありがとうございました」

「いいってことよ〜」


百田さんが手をヒラヒラと振る。

私も会釈で返し、物置を出た。

このまま飲み物も持って行きたいが、コップで手が塞がってしまったので一度部屋に戻り、荷物を置いて二階の食料物置に向かう。

そこには誰もいなかった。

ひとまず二リットルサイズの水と緑茶を一本ずつ選ぶ。

ジャスミンティーも捨て難いが、ひとまず二本もあれば明日までは余裕で持つだろう。

明日以降の分は明日また取りにこよう。

片手で一本ずつペットボトルを持ち階段を上がる。

ペットボトルは重いが、この後の秋冬さんとのお風呂のことを考えると足取りが軽くなる。

人と温泉とか入るの楽しいんだよね〜。

中にはそれが苦手な人もいるというのは分かっているのだが、秋冬さんは快諾してくれたので恐らくは好きな方なのではないだろうか。

そうだ。お風呂から出た後、また食料物置に寄ってアイス食べちゃおうかな。

そんなことを考えながら歩いていたらあっという間に部屋に着いた。

部屋にもビジネスホテルでよくみるサイズよりは少し大きい、小さめの冷蔵庫がある。

二リットルサイズが入るかやや不安だったが、しっかりと収まってくれた。

ただやはりというべきかこのサイズのペットボトルは二本までしか入らなそうだ。


……やることがない。

秋冬さんとの約束の時間まで二十分程度ある。

いつもならスマホ見てたら一瞬で溶ける時間だが、いまはそれが使えない。

さっき図書室に寄った時に何か借りてくるべきだった……。

寝転がったら寝てしまいそうだ。

やはり図書室に行って適当な暇つぶし用の本を見繕ってこよう。

再び二階に降りる。

図書室のドアは開いていた。

中に入ると先にスヲウさんとシヲさんがいた。

二人とも無言で距離感も離れている。

二人の間、いやこの図書室内になんとも気まずい空気が流れている。

なんとなく私も息を殺してさっき確認した雑誌を三冊手に取る。

そして、バレないうちに抜き足差し足で図書室を出た。

本を借りたいだけなのになんでこんな隠密活動をしているんだろう……と思いつつ、目的の雑誌は借りられたので良しとする。

あの二人、最初会った時は割と仲が良さそうに見えただけに、図書室での空気感は声がかけづらく感じた。


「白もやることなくなっちゃった?」


前方からやってきた秋冬さんに声をかけられた。

秋冬さんも暇になってしまったようだ。


「はい。暇つぶしに雑誌借りてきました。あっ、でも今図書室には行かない方が……」

「え?なんで?」

「シヲさんとスヲウさんがいるんですけど、すごい気まずい雰囲気で……」

「あー……。なるほど」


秋冬さんも合点がいったようだった。


「ねえ、ちょっと早いけどもうお風呂行かない?」

「いいですね!!ジャグジー、楽しみです!!」


雑誌を置くために一度部屋に戻り、すぐにお風呂場へ向かった。

秋冬さんにはお風呂場前で待っていてもらうようにお願いしてある。


「お待たせしました!!タオル、お風呂場にありますかね?」

「どうだろう?無くても物置すぐそこだから大丈夫だよ」


他愛もない話をしながらお風呂場へ向かって歩く。

そういえば部屋の脱衣所にバスタオルがあった気もする。

部屋まで取りに行かなくてはいけなくなるのは億劫だ。

大浴場にあるといいなぁ。


「先客はいるかな?」

「どうでしょう?空いているといいですね」


大浴場の一つ目の扉を開ける。

大浴場は着替えが見えないようにという配慮なのか扉が二重になっているのだ。

一つ目の扉を閉じてから二つ目の扉を開ける。

手前にはドライヤーと洗面台、それからロッカーが並んでいる。

ここにはまだ誰もいないようだ。

洗面台の近くに備品入れと書かれたロッカーがあだだので開けてみると、バスタオルとフェイスタオルが置いてあった。

秋冬さんと自分の分合わせて二組取り出し、一組をそのまま渡す。

秋冬さんはありがとう、と言って優しく笑う。

服を脱ぎ、お風呂場へ入るとすでに湯船に浸かっている先客がいた。

時計塔さんと安丹さんだ。

二人は和やかに雑談していたようだが、こちらに気がつくと軽く手を振ってくれた。


「また会ったな」


時計塔さんが優しい声色でそう言うと、浴室に声が反響した。


「ふふ、晩ご飯ぶりだね」


秋冬さんも手を振り返す。

もちろん私も会釈をする。

すると、安丹さんがおもむろに立ち上がった。

お湯がザバアと音を立てて波打つと中から白くて細い肢体が現れる。


「わたしの身体は好きなだけ見てもいいですけど、時計塔さんのは見ちゃダメですよ?」


イタズラっぽく笑う安丹さんは再びちゃぽんとお湯の中に戻った。

隣に座っている時計塔さんに微笑みかけ、まだ出ちゃダメですよと念押しをしている。

私はお風呂の前に身体を流す時、一緒に髪を洗ってしまいたい派だ。

シャワーを捻り、髪を濡らしてからシャンプー、リンスの順で手入れをする。

リンスを流し終えた後のスッキリ感がなんともたまらない。


「なんか子供扱いしてないか?」

「うーん、子供扱いというよりわたしから見たら実際子供みたいな感じです」


身体を洗っていると時計塔さんと安丹さんが微妙に噛み合わない会話が聞こえてくる。

安丹さんは絶世の美少女なのに、言動が変な時があるのがたまにキズだ。

シャワーで身体の泡を流す。

さて、やっとお風呂に入れるぞ!!

そう思うとワクワクが止まらない。


「これ以上はのぼせてしまう……。先に上がるぞ」

「あっ!!まだダメです!!」


安丹さんが引き止めようとするも、時計塔さんがやや赤い顔をして立ち上がった。

そして、時計塔さんの身体がお湯から出ようとしたその瞬間--なぜか前触れもなく私の意識が途切れたのだった。

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