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学園のアイドルに告白したらOKされた。けれど彼女は魔王で、僕は従者になりました。  作者: ナックルボーラー


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第8話 淫魔

 目が覚めれば、またしても知らない天井だった。

 

「ここは……」


 白い天井と壁。そして、半個室のように仕切られた藍色のカーテン。

 一見して病室とも言える部屋だけど、僕は確か訓練場でホロウさんにボコボコにされてたはず……。

 ヤバい。頭がくらくらする所為で記憶が曖昧だ。

 勝負の結果はどうなったんだ? もしかして、ここは人間界なのか。

 それとも、今までのは全て夢だったのか?

 

 僕がそんな疑問を抱いてると、横から声が聞こえる。


「お目覚めですか立花様。ご気分はどうでしょうか?」


 知らない声だった。

 僕は寝ながら顔を横に向けると、僕が眠るベッドの横にメイド服を着た女性が座っていた。

 知らない人だった。この人は一体誰なんだ?


「私はベルと申します。魔王城に仕える使用人で、魔王様のご命令で気を失っていた立花様を訓練場より治療室までお運びいたしました」


 僕の心を見透かしたように自己紹介と経緯を話すベルさんと名乗る女性。

 ここはまだ魔王城で、どうやら夢ではなかったみたいだ。

 てか、体が全然動かないんだけど……ミシミシと骨や筋肉が軋んでる感じだ。


「まだ万全ではないので安静にしてください。暫くすれば薬も効いて動けるようになるはずです」


「は、はぁ……ありがとうございます」

 

 何にお礼を言ってるのか僕は思わず口にする。

 このベルさんって人、服装なのか気品が感じる女性だけど、何処か吸い込まれるような気配を感じる。色々な体験で敏感になってるのかな?


「えっと、ベルさん……? 確か僕とホロウさんは諸々の事を賭けて戦ったのですが、結果は知ってますか?」


 そんなことは一旦置いておいて、僕は気になることを尋ねた。

 

「私はお二人の戦いを観戦させていただきましたが、正直に申し上げますと、立花様の完敗ですね。遂にはホロウ様に一撃を与えることができなかったので」


 勝敗の結果を言われて僕はショックを受けた。

 段々意識が鮮明になってきたのか、気を失う直前の事を思い出した。

 そうだ。僕はホロウさんを傷つけることを躊躇って攻撃を止めたんだった。だから僕は勝負には勝ってない。

 そもそも、あれだけボコボコにされたのに、僕の方は一撃与えるだけで良いなってのがハンデとはいえ虫が良すぎる。


「うぅ……ってことは、僕は結局、記憶を消されて人間界に戻されるんだな……さよなら、僕の魔界ライフ。忘れるけど、楽しかったよ」


 一人悲観的になるけど、ベルさんが呆れたように息を吐く。


「立花様の処遇は魔王様たちも決め兼ねておりましたから、どうなるのかはまだ分かりません。確かに一方的ではありましたが、人間の貴方様があそこまで善戦したので、多少の情状はあるのではないでしょうか?」


「本当ですか!? なら希望はありますね! それに、良いのか悪いのかは分かりませんが、戦いを褒められるのは無かったので、素直に嬉しいです!」


 褒められたことが嬉しくて痛みを忘れて上体を起こし、顔をベルさんの顔付近まで近づける僕。

 ベルさんってかなりの美人なんだな。

 真奈ちゃん程じゃないけど、女優に抜擢されるぐらいの顔の良さだ。


 ……けど、なぜかベルさんの眉が引きついているぞ?


「ッ。近いです」


 え? 


「不快だからキモイ顔を近づけるな」


 辛辣! 

 今まで丁寧な感じだったのに、素のベルさんの口調なのか、ベッドから起き上がった僕の上体を力技で叩きつけたんだけど!

 痛い! 滅茶苦茶痛い! 傷ついてる体に障ったのかジンジンする!


 悶絶する僕を横に、ベルさんは咳払いを入れる。


「手荒な真似申し訳ございません。あとで魔王様にご報告しなければ。立花様より熱烈な接近があり、思わず制止してしまった、と」


「本当に勘弁してください。下手すればこれ以上に痛い目に遭いますので」


 心の底から謝罪する。 

 ベルさんも仕事モードなのかまた丁寧な口調に戻っていた。

 報連相は大事だけど、僕にとっては死刑宣告になるのでマジで勘弁してほしい。


「冗談です。では私は仕事に戻りますので、体が癒えるまではご安静にしてください」


 そう言ってベルさんは立ち上がりカーテンの奥へと行く。

 ベルさんは気を失っていた僕をここまで運んでくれただけで、元の仕事に戻るらしい。

 ありがとうも言う隙も無く行ってしまっため、モヤモヤする僕だが、扉が開く音が聞こえた。多分ベルさんが部屋から出て行ったと思う。

 

「はぁ……これから僕はどうなるのかな。魔王の従者にするってのは、流石に冗談だろうけど、出来れば記憶を消されないで済みたいな……」


 一人になったことでごちる僕。

 起きた直後よりも痛みは引いてきて、少し楽になっては来たけど、勝手に部屋を出るわけにはいかない。正直暇だった。


「……寝るかな」


 暇すぎて寝るしかないと思い、僕は横たわって瞼を閉じる。

 けど、ガチャと扉が開く音が聞こえた。誰か来たのか?

 直後、僕を囲むカーテンが開かれる。


「あ、目覚めてたみたいだね、颯ちゃん。気分はどうかな?」


 部屋に入ってきたのは真奈ちゃんだった。

 知り合いがいない魔界で彼女の顔を見ただけでも安心感が凄い。

 

「気分の方は正直分からないや。あそこまでボコボコにされると――――」


 僕は言いかけるけど口を止めた。


「どうしたの颯ちゃん? もしかして気分が悪かったりする?」

 

 彼女は心配そうに首を傾げる。

 この――――真奈ちゃんに似た誰かが。


「真奈ちゃんじゃない……貴女は、誰ですか?」


 何故そう感じたのかは分からないけど、何となく、この人が真奈ちゃんじゃないと思った。

 顔、髪、声。

 何もかも彼女そのもののはずなのに、違和感は拭えなかった。


「何を言ってる颯ちゃん。私は真奈だよ、真奈。れっきとした貴方の可愛い彼女なんだから、そんなこと言われると哀しいな」


 目の前の女性は両頬に指を当てて可愛らしい仕草をする。

 正直、ちょっとぐっと来たけど、やっぱりこの人は真奈ちゃんじゃない。


「本人から言われたら素直に喜びましたが、やっぱり真奈ちゃんじゃない。真奈ちゃんは自分の容姿をひけらかす人じゃない」


 今度は確信した自信から強く言った。

 真奈ちゃんもどきは数回瞬かせると、ニヒリと笑った。


「――――へえ? 良く分かったわね、私があの子じゃないって」


 顔とかはそのままに、声だけは真奈ちゃんよりも低い女性になった。


「やっぱり真奈ちゃんじゃなかったんですね! まさか、僕を襲いに!」


 こんな真似して僕に接近するってことは、この人は敵かもしれない。

 僕は痛みが染みる体を無理やり動かしてベッドから立ち上がる。

 恐らくこの人も魔族だろうから、僕なんかに何ができるかは分からないけど、自分の身は自分で守るしかない。


 僕が迎撃態勢を構えるが、真奈ちゃんもどきは手を突き出す。


「ちょっと待ちなさい。私は別に貴方の敵じゃないわ」


「敵じゃないってなら、なんで真奈ちゃんに変装して入って来たんですか!? 何かしらの目的があって来たんですよね!?」


 僕は信用できずに強い口調で言い返す。

 真奈ちゃんもどきは困ったように指で頬を掻く。


「目的、か。そうね」


 真奈ちゃんもどきはチラリと僕を見る。

 

「私の目的は二つあるわ。一つは今後同僚となりえる人物の品定めと、もう一つは味見よ」


 真奈ちゃんもどきは僕に微笑みかける。

 けどその微笑みに可愛らしいなんて感想はなく、嫌な予感がした。

 なんだ今の悪寒は……。

 公園で謎の男に襲われた時の恐怖とは違う、こう……あそこがキュッとなる感じ。

 真奈ちゃんもどきが色々と気になる事を言ってたけど、そもそもな話だ。


「え、えっと……言ってる意味が分からないんですが、その前に、いつまで真奈ちゃんの恰好をしてるんですか? 敵じゃないって言うなら、正体を現してください」


「それもそうね。そもそも、味見をするなら、あの子の姿の方が喜ぶと思ってたけど、気づかれたなら、このままじゃなくていいわね」


 真奈ちゃんもどきがそう言うと、彼女は自分の頭から胸まで手をゆっくりと下ろす。

 すると、彼女の姿は徐々に変化を始めた。

 最初は身長が高くなり、次に胸も少し大きくなる。

 肩までの髪が腰まで長くなり、黒色がオレンジ色に変色する。

 顔つきも可愛い系ではなく、妖艶な大人の雰囲気があるものへと変わった。

 服装も、真奈ちゃんの王様衣装じゃなくて、舞踏会で見るかのような露出があるドレスへ衣替え……。


「あ、あなたは……?」


 変装にしては骨格そのものが違い過ぎて開いた口が閉じない。

 これも魔法なのか? 変身する系の。

 本来の姿を現した女性は、変装が窮屈だったかのように背筋を伸ばす。


「改めて自己紹介するわね。私はヨル。種族は淫魔(サキュバス)。よろしくね、颯太君」


「……淫魔?」


 ……今、この人はなんて言った?

 淫魔? それって、あの男のロマンとして語られる悪魔の?

 

 イヤイヤ、あれは空想上の存在で、男の妄想が具現化された存在がいるわけがない……って、そう考えてた時期が僕にもありました。

 ここは魔界で、魔族がいます。

 それに、この男を惑わす煽情的な容姿に説得力があった。

 見てるだけで、女性経験が無い僕には刺激が強い人だ。


「ふふっ、可愛らしい反応するわね颯太君。やっぱり私好みかも」


 舌なめずりするヨルさんはさながら狩人の目をしている。つまりは僕は獲物だ。

 

「えっとヨ、ヨルさんって言いましたっけ? なんか目が怖いと言いますか、僕に何かするつもりですか?」

 

 恐る恐る尋ねるとヨルさんは嬉々とした表情を浮かばせる。


「安心して颯太君。するにしても、痛い思いはさせないから、逆に極楽に行くぐらいの体験をしてあげるわ」


 魔族が極楽ってワードを使うのはシュールだな。

 って、そんな感想を思ってる場合じゃない。

 

 淫魔は男のロマンだと言う連中をネットの掲示板でよく見かける。

 実際僕も、今の状況に陥るまでは心の隅で少なからずそんな妄想をしていた。

 だが、実物が目の前に現れて、僕は身動きができない。


 なんで元々露出の多い胸部分を少し緩める。

 ベッドに上がる。なんでジリジリと僕に近づく!


「あ、あの……ヨルさん? 僕がどんな立場なのか知ってるんですか? 僕はこの城の主である魔王マナルデリシアの恋人なんですよ?」


 僕は防衛手段として真奈ちゃんの名前を出す。

 これで怯えて止まってくれれば良い。そう期待していたけど。


「えぇ、そんなこと知ってるわよ」


「……へ?」


 ヨルさんは躊躇いも無くバッサリと切り捨てた。

 

「私が前情報も無く襲うと思ってるのかしら? 貴方のこと、ホロウから色々と聞いてるのよ」


「ホロウさんから……?」


 ホロウさんはこの人に何を言ってるんだ。そんな八つ当たりなのはさて置いて。

 この人、ホロウさんを呼び捨てにしたよな?

 ホロウさんは魔王の従者で城でもそこそこの地位だからおいそれと呼び捨てできないはず。


「……もしかして、ヨルさんもそこそこ偉い感じの人ですか?」


「偉いもなにも、私、魔王の従者ですもの」


 そう言ってヨルさんは肩を僕に見せる。

 彼女の肩には悪魔と龍が円になってる紋章が刻まれていた。

 あれは、僕が最初に目覚めた部屋の壁に飾られていたのと同じだ。

 紋章の意味は分からなかったけど、もしあれが真奈ちゃんを表すものなら、この人が言ってることは嘘じゃない。


「マジですか?」


「マジよ」


 嘘が見られない真っすぐな目だった。

 正直全幅に信用はできないけど、疑う材料もない。

 ここは一旦受け入れるしかなかった。


「な、なら猶更……魔王の従者の貴方が、魔王の恋人な僕を襲うと色々マズいんじゃ……?」


「そうね。魔王の従者云々関係なく、人様の彼氏を襲えば、ただじゃ済まないかもしれないわね」


 なら止めた方がいいのでは、と僕は心の中で祈る。

 しかし、そんな期待を裏切る様に「けど」とヨルさんは拳を強く握りしめる。


「だからこそ燃えるんじゃない! 彼女持ちの人、しかも相手が魔王の彼氏となれば、もう興奮で燃え上がるわ! 人の大事なものを私色に染める快感! 彼氏も心の中で恋人に罪悪感を抱きながらも、体は快楽に負ける。あぁ! 何度体験しても病みつきになるわ!」


 目の前で体をクネクネさせて一人興奮するヨルさん。

 この人はあれだ。駄目な人だ。身を亡ぼすギャンブルタイプ的な。

 

「ふふっ。だから無駄な抵抗はせずに私に身を任せるが吉よ。大丈夫。経験豊富な私が一個一個丁寧に教えてあげるから。どうせ君、生息子なんでしょ?」


 生息子は初耳だけど、会話の流れから恐らく童貞って言いたいのだろうか。

 吐息が掛かる程の距離で囁かれ僕の心臓がバクつく。

 

「こんなチャンス逃す手はないはずよ。人間の言葉で『据え膳食わぬは男の恥』って言うのでしょ?」


 ゴクリ、と僕は唾を呑みこむ。

 ほ、ほら、ね……あれだよ。

 僕だって思春期の高校生だから、こんなスタイル抜群の美女に迫られた、ね?

 

 けど、僕の脳裏は真奈ちゃんが過って、理性が上回った。


「それでも駄目です! こんなのモラル的にアウトです! そもそも、初体験なら真奈ちゃんとしたいです!」


「なら、さっきみたいにあの子に姿を変えてあげましょうか? そっちの方が盛り上がりそうだし」


 ヨルさんの姿が霞んでいく。

 これは、また真奈ちゃんに姿を変える予兆なのか。

 姿を変えようとする間も、ヨルさんは僕に近づき、覆い被ろうとする。


「そういう意味じゃありません! 離れてください! 僕は真奈ちゃんを裏切りたくありません!」


「きゃっ!」


 僕は覆い被ろうとするヨルさんの両腕を掴み、力一杯に押し返す。

 

 非力な僕が魔族に力で勝てるとは思わなかったけど、何とかヨルさんをベッドに押さえつけることができた。

 ヨルさんが力が強いイメージがない淫魔だからかな?


 ヨルさんは僕に押さえつけられて、数度瞼を瞬かせる。

 

「まさか人間の貴方に押されるなんて、意外に力強いわね。流石男の子」


 残念がると思ったけど、何故かこれはこれでと言った楽しそうに笑い。


「たまには趣向を変えて、逆に分からされるのもアリね」


 ……何を言ってるんだこの人は?

 

「さあ、来なさい。貴方の中に眠る本能を全て開放するのよ」


「襲いません! 開放しません ! てか、こんな所を真奈ちゃんに見られたら――――」


「……私が、なんだって?」


 その声に僕は青ざめた。ついでにヨルさんの体も一瞬跳ねる。

 

 僕とヨルさんは恐る恐ると顔を上げると、そこに彼女がいた。


 僕の彼女であり、この城の主でもある魔王様こと真奈ちゃんが仁王立ちしてました。


「真奈ちゃん!?」


「魔王!?」


 僕たちは口を揃えて驚きの声をあげる。

 ヨルさんはベッドに倒れながら、真奈ちゃんを見上げる形で口を開く。


「魔王。貴方は来客の対応をしていたはず……なんで此処に?」


「終わったんだよ。だから颯ちゃんの様子見に来たんだけど――――」


 ギロリ、と効果音が似合う程の眼力を向けられる。


「んで二人とも。これはどういう状況か私が納得できるように説明をよろしく」


 あれ? 

 もしかして真奈ちゃんは、怒ってらっしゃる?

 不思議と部屋が暑いというか、空気が重いというか。


 ……いや、この僕がヨルさんを押さえつけてるのは、完全に誤解を与えるよな。

 ここは真奈ちゃんに弁明しないと。


「魔王。私は颯太君の看病に来ただけなの。なのに、颯太君が私に欲情して襲い掛かって来て……」


 僕が弁明する前にヨルさんがとんでもないことを言い出した。


「な、なに言ってるんですか! 貴方が入ってくるなり、品定めだったり味見とか言ってぐもぐもぐも」


 弁明をするつもりがヨルさんの手で口を塞がれて声が出せない。


「ほら、こんな感じで興奮してるでしょ? 私が良い女だからって」


 無実です! 冤罪です!

 僕は真奈ちゃんを裏切ってはいません!本当です、信じてください!

 声を出せない僕は必至に目で訴える。

 

 しばらく黙り込んだ真奈ちゃんは、はぁ……と溜息を吐く。


「そう。なら、お仕置きをしないとね」


 まさか、本当に真奈ちゃんに誤解されたのか。

 ゆっくりと手が差し出そうとするが、その標的は僕……ではなく、下じへと向かった。


「魔王。なんで私の頭を――――ぎゃああ痛い痛い痛いッ! 頭が割れるわ!」


 真奈ちゃんの手はヨルさんの頭に添えられ、直後ヨルさんは絶叫を上げる。

 真奈ちゃんは笑っているけど、目が笑ってなかった。


「颯ちゃんが私を裏切るようなことをするわけがないでしょ。私が20センチまで近づくと、ドギマギして顔を赤らめるヘタレなんだから」


 ……なんだろう。信頼してくれるのは嬉しいけど、なんだか涙が出て来た。

 

「それに男性関係で貴方程信用できる人はいないからね。貴方、私が魔王に就任してから何回男性トラブルを起こしたのか覚えているかな?」


「……10回ぐらい?」


「100回超えたあたりから数えてないよ!」


「ぎゃああああ!」


 大体予想はしてたけど、ヨルさんは節操がないらしい。


「いや……だってね。私って淫魔なのよ? 男を誘惑して生気を吸うのが種族としての性と言うか、こうしてる時が一番楽しいというか……」

 

 もごもごするヨルさんに真奈ちゃんの額に青筋が立つ。


「少しは反省の色を見せてもいいんじゃないかな!? この口!? この口がごめんなさいも言えない駄目なお口かな!?」


「いたたたたっ! ひっぱらないで! ごめ、ごめんなさい!」


 真奈ちゃんに頬を引っ張られ涙目のヨルさん。

 そして、再びヨルさんの頭を掴んだ真奈ちゃんは、ズルズルと彼女を引きずり。


「それじゃあ颯ちゃん。本当は今後の事を話すつもりだったけど、先ず私はこの、人の彼氏を寝取ろうとした性悪女を教育しないといけないから、行くね」


 痛い痛い! と尚も叫ぶヨルさんをお構いなく引き摺る真奈ちゃんは、部屋を出て行こうとする。

 けど、出る前に僕へと振り返る。


「明日迎えを寄こすから、今日はこのままゆっくりしてね。お休み」


「お、お休み……」


 笑顔で小さく手を振る真奈ちゃんに僕は引き攣った笑みで返す。

 するつもりはないが、決して真奈ちゃんを裏切らないようにしよう。

 そう僕は心に誓う。


 二人が部屋を出た数分後、微かにヨルさんの断末魔が聞こえた気がしたが、聞こえないふりをして眠りにつくのだった。


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