第6話 可能性
僕の本気を、認めさせてみせる。
そう心の中で呟いた直後、真奈ちゃんが小さく息を吐いた。
「……分かった」
その声は、諦めたようにも聞こえる。
真奈ちゃんは、ゆっくりと僕とホロウさんを見比べる。
「颯ちゃんがそこまで言うなら、私も止めない」
言いながら真奈ちゃんは僕を見据える。
「けど颯ちゃん。自分が吐いた言葉は呑み込めないよ。怪我をしても文句は言わないでね」
最終警告のように真奈ちゃんが言うが、ここまで来て後戻りするつもりはない。
「もちろん。覚悟してるよ」
僕の意思が分かってくれたようで、もう一度小さく息を吐く。
真奈ちゃんは片手を軽く上げる。
「なら、ここでやるわけにはいかないから、戦える場所に移動するよ」
そう言って、真奈ちゃんは指先を軽く鳴らした。
澄んだ音が、部屋に響く。
瞬きをした直後、場面が切り替わるように目の前の光景が変わった。
「え、なに!?」
先ほどまで何処かの部屋にいたはずが、一瞬で、四方を石の壁が囲む部屋へと移動していた。
床も天井も石畳で、広さは体育館ほどだった。
「これって……もしかして魔法?」
一瞬で気づかぬ内に移動なんてありえない。
僕が困惑と歓喜で言葉を失っていると、真奈ちゃんは僕へと近づく。
「ここは城の地下にある訓練場。ここで二人には戦ってもらうよ」
城って、やっぱりここは城だったんだ。ってことは、さながら魔王城かな?
訓練場は物が何も置かれてなく殺風景だった。
僕たち以外にも、さっきの部屋にいた使用人を数人連れて来ているが、他は誰もいない。
こんな所で、僕とホロウさんは試練とも言える手合わせをするのか。
「試合形式は一対一の試合で、颯ちゃんの勝利条件はホロウに一本取ること。ホロウの勝利条件は、颯ちゃんを気絶させるか、降参させるか」
真奈ちゃんはホロウさんを見る。
「ホロウ。くれぐれも颯ちゃんを殺さないようにね」
「善処します」
軽々とした会話に僕は身震いする。
実際、本気を出せば僕程度簡単に殺せるのだろうか。
「じゃあ、早速武器を準備しようか」
真奈ちゃんはそう言ってポンと一拍手する。
すると、天井からカランカランと何かが降ってくる。
見れば、剣、槍、盾、棍棒など、木製の武器だった。
「互いに好きな武器を選んで戦って。勿論、素手でもいいよ」
武器を用意してくれるのはありがたい。
鎧の人相手に素手なんて、殴れば僕の手が壊れるのは目に見えているからね。
ホロウさんは僕に先に選んで良いと言った視線を送る。
僕は頷き、出された武器を選ぶ。
正直、実戦なんて初めてだからどの武器を選んでも殆ど変わりはない。
「なら、僕はこれを使わせてもらいます」
この中でなら授業での剣道や少年時代に遊びで勇者ごっことかで木の棒を振っていたから、木刀が使い慣れているかもしれない。
「なら、私はこちらを使わせてもらいます」
僕が木刀を手に取ると、ホロウさんは身長程の長さの棒、たしか棍ってやつだったか、軽快にそれを回転させていた。
「それじゃあ、互いに武器を選び終えたところで……ここで颯ちゃんが勝った時の褒美をおさらいしようか」
「勝った時の褒美って……魔界への滞在許可と記憶消去はなしって話じゃ……」
僕が言うと、真奈ちゃんは「そうだね」と頷いた。
けど、真奈ちゃんは目を細くする。
「人間が魔族に勝負を挑むんだから、それ相応の危険を伴うのに、褒美がそれだけじゃ、ちょっと味気ないと思うんだ」
真奈ちゃんは何故かニコリと笑った。
その笑顔を見た瞬間、少し嫌な予感がした。
真奈ちゃんが何を言い出すのかと身構えていると、唇が開かれる。
「もし、万が一に颯ちゃんがホロウに勝てば、颯ちゃんを魔王の従者に迎え入れようと思うの」
「…………え?」
「…………は?」
僕とホロウさんの声が同時に重なった。
……今、真奈ちゃんは何て言った?
魔王の従者? この僕を?
「ま、真奈ちゃん? えっと、それって……」
「言葉の通りだよ」
僕の戸惑いを弾き飛ばすように平然としていた。
「颯ちゃんがホロウに一撃を入れる。つまり、魔王の従者であるホロウを破るってわけだ。そんな優秀な人材を、ただ城に置いておくのは勿体ないからね」
いやいやいやいや!
真奈ちゃんは何を言ってるんだ!?
言葉を悪くしてごめんだけど、トチ狂ったじゃないか!
なんで魔界滞在の話から、急に魔王の従者になってるんだ!
段階を3つ、4つ飛ばしてないだろうか。
「魔王様! 何を仰っているのですか!? 立花様を魔王の従者に迎えるなど、そのような重大な決定をこの場の勝負で――――」
「重大だからこそ、相応の条件を付けてるんだよ」
ホロウさんの言葉を遮り、真奈ちゃんは穏やかに返す。
「ホロウに勝つってことは、それだけの価値がある。だったら、相応の褒美を与えないとね」
「だとしても……!」
「それとも――――ホロウは人間なんかに負けるって言うの?」
真奈ちゃんの表情がいつもの柔らかい優等生ではなく、王としての側面と言うべきか、言い返せない圧を感じた。
我儘過ぎる提案に、ホロウさんは納得は出来てない様子だが、主に従うしかないとばかりに額に手を当てる。
「……魔王様」
ホロウさんの声が低くなる。
「そのように言われては、私は手加減できる保証はありません。よろしいんですね?」
「元からそのつもりだったんでしょ」
会話に決着が付いたのか、ホロウさんは僕へ向き直る。
未だに状況を理解できてない僕だが、直後全身で感じ取る。
さっきまでの丁寧で柔らかい雰囲気が消えていた。
「立花様。魔王様のお戯れに戸惑っているでしょうが、魔王の第一従者として先ず謝罪します」
ホロウさんは小さく頭を下げる。
「私は貴方に魔族の恐ろしさを身に沁みさせるために手荒くするつもりでしたが、命に関わる攻撃はしないつもりでした。ですが、魔王様より仰せつかった以上、その保証ができなくなりました」
ホロウさんが顔を上げた瞬間、ぞくり、と僕の本能が危険だと叫んだ。
「なので、文字通り命がけで抗ってください。貴方が口にした覚悟が本物かどうか、全力で見定めるために」
ホロウさんは言い切ると僕に棍を突きつける。
喉が一気に乾く。
緊張と恐怖で手足の震えが止まらない。
これが……戦うってやつか。
「手加減されては僕も納得できません。なので、必死に足搔いてみせます!」
戦うと決めた以上、命と体の保証は捨てて来た。
少し自棄っぱちだけど、生き残れることを祈って全力で戦うだけだ!
審判役の真奈ちゃんが僕たちの間に立ち、すっと手を挙げる。
「それじゃあ――――始め!」
「うぉおおおおおお!」
彼女の合図と同時に僕は前に出た。
授業の剣道以外で誰かに斬りかかるなんてしたことがない。
しかもその剣道だって大抵返り討ちにあって、一本も取ったことがない。
そんな僕が出来ることは、気合と根性で力一杯木刀を振るだけ。
一気に距離が詰まり、間合いに入った。
長い棍だとこの距離なら動きにくいはずだ。
この時の僕は、僅かでも勝利の道筋が見えたことで、自惚れていたかもしれない。
「魔王様も会談があって時間を取らせるわけにはいきません」
ホロウさんの声に焦りはなく、淡々としていた。
そして迫る僕に対してゆっくりと棍を右へと振りかぶる。
そして――――
「1分で片を付けます」
ゆっくりと振り出された棍であるが、相当な力が込められているのは分かった。
「くっ!」
僕は咄嗟に漫画で見た木刀を逆さまにして行う防御態勢を取った。
これで直撃はない。
そう思ったが……木刀と棍が接触した瞬間、僕は思い知った。
人間と魔族の根本的な力の差を。
「嘘……だろ」
あり得るのか、防御の上から攻撃を与えるなんて。
あり得るのか、片手と棍だけで人間の体を浮かすなんて。
あり得るのか――――人間を十数メートル離れた壁へと打ち飛ばすなんて。
「ガ……ハッ!」
壁へと衝突した僕は一瞬、内臓全てが弾け飛んだと錯覚させる程の衝撃だった。
木刀の上から棍を脇へと打ち込まれ、骨、若しくは絶対に痣ができてる程にジンジンとする。更に背中から来る激痛。
今の一撃で僕は床に片膝をついてしまった。
「どうしました、これでおしまいですか?」
挑発をしてるのか、ホロウさんがそんなことを言う。
呼吸ができず、覚束ない僕だが、このままでは終われない。
「まだまだ……です」
絞り出すように声を出して僕は立ち上がる。
「立ち上がったのは褒めてあげます。ですが、無駄に立ち上がればただ苦しむだけ」
ホロウさんは再び棍を構える。
「出来るだけ早く諦めてください」
そして、ホロウさんの棍が僕へと襲い掛かる。
「…………これが現実だね」
真奈ちゃんが呟いた。
それを僕は、冷たい石畳に倒れながらに聞いていた。
「ですが、少々驚きました。当初は1分で片を付けるつもりが――――まさか、10分も粘られるとは」
最初の一撃から時間は10分が経っていたらしい。
必死過ぎて時間なんて考える暇もなかった。
けど、今は何とか意識を保っているけど、体全体が悲鳴を上げている。
正直、左腕に関しては感覚がない。痛すぎてそうなっているのか。
何発ホロウさんに殴られただろうか、五発くらった後は数える気力もなかった。
一撃一撃がまるで車に轢かれたような衝撃。
人間が出せる力じゃない。これが魔族の力なのか……勝てっこなかった。
「立花様。これ以上は命に関わります。残念ですが、此処は素直に降参してください」
倒れている僕だが意識があることにホロウさんは気づいてるようだ。
たしかに、ここで参ったすれば、これ以上痛い思いをしなくて済む。
魔族の基本スペックがこれなら、魔界で僕が生き残れる確率は低い。
頑張った。僕は良くやった。これで悔いはないはずだ。
……なんて、そう簡単に受け入れはできなかった。
「まだまだ……です。僕はまだ、やれます」
体中に痣があって、骨もヒビが入っている体で僕は立ち上がる。
ハハッ、真奈ちゃんが驚いてるよ。
僕だって自分の事なのに驚いてるんだから当然か。
「何故……なぜそこまで立ち上がるのですか」
ホロウさんは棍先を下げて僕に言う。
「魔王様への恋慕、魔界や魔族への憧憬なのかは分かりませんが、何故立ち上がるのですか! ここまで傷ついて……自分の命が惜しくないのですか!?」
今まで冷静だったホロウさんが僕に初めて声を荒げる。
何度も何度も叩き伏せても立ち上がるのだから不気味に思ってもおかしくないか。
「確かにそれもあります。けど、それだけじゃありません」
僕は痛みで震える手で木刀を握りしめる。
「確かに全てを忘れて人間界で日常を過ごした方が幸せなのかもしれません。けど……知ってしまったんです」
「夢物語だと思っていた魔族をですか?」
「違います」
僕は否定した。いや、それもまるっきり違うとは言い切れないけど。
それだけじゃない。
僕は、公園で僕を襲って来た謎の男を思い出す。
あいつは、多分、真奈ちゃんの敵だと思う。
何かしらの目的があって僕を襲った。そして、最終的には真奈ちゃんの首を獲るつもりのはずだ。それが僕は、自分の命よりも見逃せなかった。
「もしかしたら、僕を襲った奴以外にも、真奈ちゃんには敵が沢山いるのかもしれない」
大切な人には敵がいて、僕の知らない所で危険な目に遭っている。
僕なんかに心配される云われはないだろうけど、してしまうんだ。
「だから……それを知って、はい分かりました、人間界で平凡に暮らしますなんて言えるわけがない。僕なんかに何が出来るのかは分からないけど、目を逸らしたくないんだ」
そのために僕は立ち上がる。
魔族の従者なんて大それた物はいらない。
ただ、記憶を消して完全な部外者にはなりたくない、それだけだ。
「だから意地でも一本取らせてもらいます。もう少し僕に付き合ってください!」
気勢を張って木刀を構えるけど、足取りが覚束ない。
痛みや血が抜けたことで視界も悪い。
てか、謎の男に斬られた傷が開いてるんじゃないか? 傷がズキズキするし。
「……立花様。貴方の覚悟は分かりました。なので、別の質問をします」
別の質問? まだ何を聞きたいんだ。
ホロウさんは一呼吸入れて僕に言う。
「もし仮に貴方が魔王様に付き添えることができたとします。ですが、貴方には耐えることができるでしょうか?」
「耐えるってなにを……?」
「貴方が仰るとおり、魔王様には敵が多くいます。故に、これから数多くの戦場に出て、その者らと戦うことになる。その時、目の当たりする――――敵の返り血で汚れた魔王様を」
それを言われ僕は想像してしまう。
「その時、貴方は受け入れることができるのですか? 自らが崇拝する者が血に濡れ、
僕はチラリと真奈ちゃんを見る。
僕と目が合うと、真奈ちゃんは辛そうな表情で顔を逸らした。
そうだよね。真奈ちゃんは魔王なんだから、全てを綺麗事で終わらせることはできない。これから先、僕には想像ができない程の苦難が待ち受けている。
魔王になったからには逃げることは許されない。
だったら、
「なら猶更、僕は引くわけにはいきません」
木刀を握る力が強くなる。
「真奈ちゃんがそれで辛い思いをするなら、僕も一緒に背負う。真奈ちゃんが辛そうな顔をするなら僕が笑わせる。どんなに血で汚れても、僕が拭いてあげて、支える」
自分で言ってて恥ずかしいけど、全てが本音。
「真奈ちゃんがどうなろうと関係ない。僕が好きになったのは、学園のアイドルでも、魔王でもない。三陸真奈って言う一人の女の子なんだから!」
学園のアイドルと言う人間として振舞っている三陸真奈も。
魔王として国を背負っているマナルデリシアも。
全てをひっくるめて彼女なんだ。
だから、僕は全てを受け入れるつもりだ。
馬鹿だと言いたければ好きにしろ。
僕が言い切ると、ホロウさんは無言になる。
……滑りましたか? 恥ずかしいから何か言って欲しいんですが。
「……羨ましい」
自分の発言に羞恥を抱く僕にホロウさんがボソリと呟いた。
羨ましい?
何を言ってるんだ。僕からすれば魔族である貴方たちの方が全然羨ましいけど。
「魔王様が何故貴方を選んだのか、少し分かった気がします……。ですが、それとこれとは話が別です」
ホロウさんが今まで以上の気迫を発する。
「貴方がどれだけ大層なことを並べても、ここで私に勝てなければ意味がありません」
下げていた棍を指で回転させて、ホロウさんは構える。
「来なさい。貴方が持てる全霊の力をもって!」
心無しかホロウさんが熱くなっているように感じた。
僕を認めてくれたのだろうか?
……いや、多分、ホロウさんは言葉だけで折れるような人じゃないと思う。
なら、恰好の良いことを言ったんだ。
僕に出来ることは一つ。自分の言葉が嘘ではないと証明する。
「胸を借ります、ホロウさん!」
正直、体力や体の状態からもう長く意識を持つことができない。
これが最後の一撃。これで決まらなかったら終わる。
背水の覚悟を持って、僕は前に足を踏み出す。
一歩一歩、足を踏み出す時。
僕の脳裏に変なイメージが浮かび上がる。
謎の黒い扉。
扉は鎖で頑丈に締め付けられ、鎖に3つの南京錠が備わっている。
そんな扉が脈打ち、僅かに開いた隙間から黒い瘴気が漏れる。
「……なんですか、あれは……黒い、気?」
ホロウさんが僕を見て何やら驚いている様子。
てか、こんな土壇場な時に僕は何を考えてるんだ。集中しないと。
けど、不思議と内から力が沸いて来る。
今までに感じたことがない力。火事場の馬鹿力ってやつか。
「行きます! 僕の、覚悟と全力の力を!」
ホロウさんに隙が生まれ、そこを僕は力一杯に木刀を振り上げる。
「くっ! させません!」
僕の攻撃に反応したホロウさんは棍で防御しようとする。
防がれることは分かった。ここで剣筋を変えるなんて僕にはできない。
なら――――知ったことか! このまま行くだけだ!
「うぉおおおおおおお!」
文字通り、体全体の力を込めた全身全霊の一撃。
これが最後。奇跡起きろ!
――――ガツン!
硬い物同士がぶつかった甲高い音が訓練場に響く。
僕の木刀とホロウさんの棍が衝突したはずだが、僕は木刀を最後まで振り上げられた……ってことは!
僕は直ぐにホロウさんを見る。
ホロウさんの手には先ほどまで握られていた棍がなかった。
直後、カランカランと僕の背後で何かが落ちて転がる音が聞こえた。
見ると、僕の後方にホロウさんの棍が落ちている。
つまり、僕があれを弾き飛ばすことが出来たんだ。
「………ッ!」
けど終わりじゃない。
この勝負に勝つには僕が一本取る必要がある。
僕は直ぐに切り替えて、ホロウさんへ追撃する。
武器が無くても避けることができるはずなのに、なぜかホロウさんは動こうとしない。
何故だ……って、そんな考えてるほど余裕はない。
これが最初で最後のチャンスなんだ。頼む、当たってくれ!
僕が振り出した木刀はホロウさんへと迫る。
あと少しで当たる。最後まで気を抜くな!
そう思い、ホロウさんに一撃を与えようとした寸前に、僕の体が硬直した。
訓練場に沈黙の空気が流れるが、ホロウさんが理解できないとした声で口を開く。
「…………何故、私を攻撃しないのですか?」
僕は最後のチャンスを棒に振ってしまった。
木刀がホロウさんに当たる直前に、止めてしまっていた。
……そうか。僕には覚悟がなかったようだ。
「すみません……。本当はそうしないといけないと頭では理解できてるはずなのに、誰かを傷つけることができないみたいです。ましてや真奈ちゃんの仲間を、認めさせるとはいえ……」
自分が傷つくことは我慢できる。
けど、誰かを傷つける覚悟はできていなかった。
つまり、この勝負は最初から僕の負けだったのだ。
「立花様」
ホロウさんに呼ばれて僕は顔を上げる。
そして僕は目を見開いた。
ホロウさんが掲げる手に黒い霧が集まり、それが棍へと姿を変える。
「その甘さは、嫌いではありません。ですが――魔界では、命取りになります」
それってどういう……。
そもそも、てか、今のはなんなんだ。もしかして、それも魔法なのか?
言葉の意味や状況が理解できないまま、ホロウさんはいつの間にか握っていた棍を僕の背中へと叩きつけた。
「ガッ!」
短い絶叫しか漏らせなかった。
違った。今までと明らかに叩く力が全然。
体の奥の奥に鈍く、鋭く、深く届いた衝撃。
……そうだったのか。
遂に限界が来たのか、遠のく記憶の中で僕はホロウさんを見た。
ホロウさん……なんだかんだ言って、手加減してくれてたんですね。優しい方です、貴方は……。
そんな事を考えながら、僕の意識は途絶えたのだった。




