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学園のアイドルに告白したらOKされた。けれど彼女は魔王で、僕は従者になりました。  作者: ナックルボーラー


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第3話 魔界と魔族

 意識が、ゆっくり浮かび上がっていく。


 頭が重い。

 瞼を開けるのも億劫で、体は鉛みたいにだるかった。

 けれど、ぼんやりした意識の中でも、誰かが話している声だけは聞こえてくる。


「ホロウ。颯ちゃんの容体、どうかな?」


「現状可能な処置は済ませております。あとは立花様ご自身の体力次第かと」


「そう……。ちゃんと目、覚ますよね?」


「脈拍、呼吸ともに安定しております。そう遠くはないかと」


 真奈ちゃんの声。

 それと、知らない女の人の声。

 聞き慣れない単語が混ざってる気もするけど、頭がぼんやりして上手く理解できない。


「う……」


「あ、噂をすればだね。颯ちゃん、起きれる?」


 その声に導かれるように、僕は重い瞼をゆっくり持ち上げた。

 眩しい。


「……ここは」


 最初に見えたのは、見知らぬ天井だった。

 白いわけじゃない。

 黒っぽい石みたいな材質で、所々に赤い装飾が施されている。


(……病院、じゃない?)


 ぼんやり考えていると、すぐ近くから覗き込む顔があった。


「おはよう、颯ちゃん」


「……真奈、ちゃん……?」


 その顔を見た瞬間、胸の奥に溜まっていた不安が少しだけ軽くなる。


「起きて早々だけど、気分どうかな?」


「えっと……なんか全身めちゃくちゃ重い……」


「そっか……だよね。あと、もう一つ聞くけど。颯ちゃんは気絶する前のことって、どこまで覚えてる?」


 そんなことを言われて直ぐには理解できなかった。

 けど、一気に思い出す。

 

 ……そうだ。

 僕は、公園で変な男に襲われて鎌で斬られたんだ!


「そうだ、傷!」


 僕は掛かっていた毛布を退かして腹を見る。

 けど、腹にそれらしい傷はなかった。

 確かに鎌で斬られたはず。

 斬られた痛みも、血の匂いもハッキリ覚えている。


「夢……じゃ、ないよな……?」


「夢ではありません」


 僕の呟きを否定したのは、真奈ちゃんじゃない誰かだった。

 真奈ちゃんの隣に、西洋の鎧が立っていた。

 置物かと思ってたけど……今、この人が言ったのか?


「えっと、じゃあ傷は……?」


 夢でないのなら、一日で治るような傷がどこに行ったのか。

 そんな事を思い、斬られたはずの部分を摩った瞬間―――


「――っ!? 痛ぁあああああ!」


 なんだこの痛みは!?


 筋肉痛なんてレベルじゃない。

 体の内側を無理矢理引っ張られるみたいな痛みだった。

 ヤバい、泣きそうだ……。


「大丈夫ですか立花様。今はあまり動かさないようにしてください」


 鎧の人が僕に駆け寄り、背中を摩ってくれる。

 金属の硬い感触なのに、手つきは不思議優しかった。


「表面は塞がっていますが、まだ完全ではありません。無理に動かせば、傷が開いてしまいます」


「けど……傷なんてどこに……」


「斬られた部分をよくご覧ください」


 鎧の人に言われて僕は斬られたはずの部分を見る。

 見た目はどうもない。けど、目を細くすれば白い線があるように見えた。

 

 確かにここを斬られたはず。

 興味本位に白い線を指で押すと……うん、痛みが染みて来るよ。


「痛みがあるなら、ちゃんと繋がっている証拠です。このまま安静にしていれば、後遺症は残らないでしょう」


「は、はぁ……ありがとうございます?」


 痛みはあるけど傷は塞がっている。

 ……うん、それでヨシとしよう。考えるのは止めた。

 たぶん今の僕の頭では処理しきれない。


 僕が現実逃避していると、真奈ちゃんが胸を撫で下ろした。


「とにかく、助かって良かったよ。本当に肝が冷えたんだから……」


 いつもはあまり焦ったりしない真奈ちゃんの頬に、うっすら汗が流れている。

 僕を心配してくれていたらしい。


「私、魔界に帰る直前に妙な気配を感じて、現場に向かったんだけど、そしたら颯ちゃんが襲われてるんだから焦ったよ」


「……魔界?」


 なにを言ってるのかな、真奈ちゃんは。

 魔界って、漫画とかゲームの中に出てくるあれだよね?

 などと思いかけたところで、僕は別の違和感に気づいた。


「ね、ねぇ……真奈ちゃん」


「ん?」


「頭のそれって……なに?」


 僕は自分の頭に指をさして尋ねた。

 あきらかに、いつもの真奈ちゃんにはない物が彼女の頭にあったからだ。


「ん? これのこと?」


 さも当然のように、真奈ちゃんは自分の頭から生えた二本の角に触れる。

 くるりと巻いた、黒い角。

 飾りにしては、あまりにも質感が生々しい。


「それって……本物?」


「うん。本物だよ」


 あっさり答えられた。

 あまりにもあっさりすぎて、逆に反応に困る。

 

「もうここまで来て隠す理由もないし、せっかくだから、こっちも見せるね」


 てか、それ以外にも見逃せない点があった。

 

 いつも見慣れた制服じゃなかった。

 黒を基調とした軍服に、王衣めいたマントを羽織っている。 


 演劇の衣装……とかじゃ、ないよな。


 僕が服装に気を取られていると、真奈ちゃんの背中がもぞりと動いた。

 バサッ、と空気を裂いた音。

 部屋に置かれていた書類が舞い上がり、床へばらばらと散っていく。

 

 真奈ちゃんの背中に、巨大なコウモリのような翼が生えていた。

 

 それだけじゃない。


 腰のあたりからは、先端の尖った尻尾が伸びている。

 蛇のようにしなやかに揺れるそれは、どう見ても作り物ではなかった。


「真奈ちゃん……君はいったい……」


 作りものじゃない質感あるそれに、僕の胸が騒めく。

 

 僕の心を見透かすように、真奈ちゃんは少しだけ楽しそうに笑った。


「颯ちゃんは、確かファンタジーが好きなんだから、私が何なのか分かるでしょ?」


 正直、真奈ちゃんの姿を見た時、脳裏に過ったものはあった。

 けどそれは、常識に考えれば馬鹿馬鹿すぎて言うのを躊躇う。

 しかし、目の前にして言わずにはいられなかった。


「……悪魔」


「正解。もっと言えば、魔族だけどね」


 真奈ちゃんは妖しく微笑んだ。


「そんなの……あり得ないよ。だって、悪魔……魔族は創作上の―――」


「じゃあ、颯ちゃんが気絶する前に見たものは、どう説明するのかな?」


 真奈ちゃんは肩を竦めると、掌を上に向けた。

 次の瞬間、その上に炎が灯った。


「……っ」


 ライターもない。マッチもない。

 燃えるものもない。

 それなのに、火が点いた。


 真奈ちゃんの掌の上で、赤い炎が静かに揺れていた。


「人間界では、私達みたいな存在は空想ってことになってる。でも、実際にはいるんだよ」


 真奈ちゃんが指を鳴らす。

 すると、部屋の隅で控えていたメイド姿の使用人が、無言で大きな窓を開け放った。


 生暖かい風が、一気に室内へ吹き込んでくる。

 僕は目を細めながら、そちらを向いた。


 そして――僕は信じられないものを目にする。


「……うそ」


 窓の向こうに広がる景色から、目を離せなくなった。

 痛みのことも忘れて、ベッドから身を起こす。


「立花様、まだ動かれては――」


 鎧の人が何か言った気がする。

 でも、耳に入らなかった。

 僕はふらつきながら、窓の外へ向かった。


「これは……現実なのか……?」


 そこに広がっていたのは、僕の常識の外側にある光景だった。


 赤黒い空。

 見たこともない形の建物。

 地上を歩く異形の影。


 そして、空を飛ぶ魔物達。


 翼を持つ人影。

 獣のような姿で宙を舞う影。

 遠くでは、巨大な竜が悠然と旋回している。


 絵本やゲームの中でしか見たことのなかった存在が、当たり前みたいにそこにいた。


「ガーゴイル……ハーピィ……グリフォン……それに、ドラゴンまで……」


 声が勝手に漏れる。


 怖い。怖いはずなのに。

 それ以上に、目を奪われていた。


 だって、目の前にあるのだ。

 ずっと空想の中にしかないと思っていたものが。

 子供の頃から胸を躍らせてきたものが。

 今、本当に、僕の目の前に広がっている。


 夢中になって、僕はふらりと前へ出た。


「うわっ!?」


 腹に硬い感触が当たった。

 いつの間にか、僕はバルコニーの柵まで来ていたらしい。

 勢いのまま上半身が前へ傾く。


「う、うわあああっ!?」


 落ちる。

 でも、僕の身体は宙で止まった。


「興奮するのはいいけど、不注意が過ぎるよ、颯ちゃん」


 真奈ちゃんが、僕の服の背を片手で掴んでいた。

 それだけで、僕の身体は軽々と持ち上げられている。

 ……いや、僕ってそんなに軽かったっけ?


「あ、ありがとう真奈ちゃん……って、うわっ、高っ!?」


 下を見た瞬間、背筋が凍った。


 地面がものすごく遠い。

 下にある小屋のような建物が、砂粒みたいに見える。


 人間界の高層ビルどころの話じゃない。

 落ちたら絶対に助からない。

 いや、そもそも落ちている途中で気絶する自信がある。


「そもそもここって、城かなにかなのか?」


 視線を巡らせると、僕達がいる場所の全貌が少しだけ分かった。

 黒を基調とした、巨大な城。今いるのはその一角。

 城というより、もはや要塞だった。

 学校がいくつ入るのか分からないほどの規模。


「引き上げるから、暴れないでね」


「ご、ごめん……本当に……」


 僕はあっさりとバルコニーの内側へ戻された。

 足が震えて、すぐには立ち上がれない。

 落ちかけた恐怖もある。


 でも、それ以上に、目の前の現実があまりにも非現実すぎた。


 真奈ちゃんは、ひらりと柵の上に飛び乗る。

 強い風にマントをはためかせながら、こちらを振り返った。


「これで、魔族と魔界が実在するって信じてくれたかな?」


「……ここまで見せられたら、信じるしかないよ」


 こんなのを見せられて信じないほど僕は頭は固くない。

 否定できない。否定する気も起きない。


 数々のあり得ないを目の当たりにして、「夢です」と言われる方が無理がある。

 いや、本来はそっちの方が自然なんだろうけど、体の痛みと胸の高鳴りが、それを全力で否定していた。


「改めて自己紹介するよ」


 城下に広がる異形の街を背に、彼女は堂々と立っている。


 その姿は、あまりにも絵になっていた。


 僕の知っている真奈ちゃんは、学校の中で誰もが振り返るような存在だった。


 でも、今の彼女は違う。


 この異世界の空気そのものが、彼女に従っているように見えた。


「黄昏谷高校2年C組、三陸真奈――それは人間界での仮の名前」

 

 風が吹き、黒いマントが、大きく翻る。


「私の本当の名前は、マナルデリシア・ラースド・サタルディーネ」


 僕が知っていたのは、彼女のほんの一部に過ぎなかった。

 

「魔界七大国の一つ、赤の国ルージュを治める――魔王だよ」


 一瞬で全てを掌握するような、魔性の微笑み。

 その笑みに、僕は言葉を失った。


「短い間だけど――よろしくね、颯ちゃん♪」

 

 軽い調子だった。

 

 けれど――――短い間。

 その言葉だけが、妙に耳に残った。

 

 その意味を、この時の僕はまだ知らなかった。

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