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学園のアイドルに告白したらOKされた。けれど彼女は魔王で、僕は従者になりました。  作者: ナックルボーラー


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2話 日常の崩壊

――――僕達、本当に付き合ってるんだよな。


 そんな疑問が、最近やたらと頭をよぎる。


「はぁ……」


 午後の授業を終えた僕――立花颯太は、一人で帰り道を歩いていた。

 夕方の風は少しぬるくて、春も終わりに近いんだなと思う。

 けれど、僕の気分は全然晴れていなかった。


「こう何回もデート断られると、流石にちょっと自信なくなるって……」


 思わず独り言が漏れる。


 いや、別に真奈ちゃんを責めたいわけじゃない。

 真奈ちゃんは毎回ちゃんと申し訳なさそうに謝ってくれるし、昼休みだって毎日一緒にいてくれる。


 電話もする。

 メッセージだって返してくれる。


 ……でも。


「せめて、一緒に帰るぐらいはしたいんだけどなぁ……」


 付き合って一か月。


 僕達は未だに、一度もデートをしたことがなかった。


 放課後になると、真奈ちゃんはいつもすぐ帰ってしまう。

 僕が荷物をまとめ終わる頃には、もう教室からいなくなっていることも多い。


 何回か「一緒に帰ろう」って誘ってみたけど、その度に、


『ごめんね。今日は家の用事があって……』


 と、申し訳なさそうに断られてしまう。


「家の用事、かぁ……」


 あれだけ完璧な人だ。

 もしかしたら、かなり厳しい家柄なのかもしれない。


 休日に彼氏と遊びに行けないレベルで。


 ……いや。


「って、僕めちゃくちゃ重い男みたいじゃん……」


 自分で言っててちょっと引いた。


 付き合えただけでも奇跡みたいな話なのに、もっと一緒にいたいとか思ってしまう辺り、人間の欲って怖い。


 そんなことを考えながら歩いていると、帰り道の途中にある公園が見えてきた。


「そういえば、碧依に漫画買ってこいって言われてたんだった」


 妹のくせに反抗期なのか人使いが荒いんだよな。


 僕は小さくため息を吐きながら、公園の中へ足を踏み入れる。

 が、直ぐに足が止まる。


「……あれ?」


 違和感を覚えた。


 普段なら、夕方のこの時間は子供連れや学生でそれなりに人がいるはずだ。


 なのに、今日は妙に静かだった。

 誰もいない。

 風の音だけがやけに耳につく。


「偶然……だよな?」


 自分に言い聞かせるように呟いた、その時だった。


「オイ、貴様」


「ひゃっ!?」


 突然背後から声を掛けられ、僕は情けない声を上げながら振り返った。


 そこに立っていたのは、全身を黒いローブみたいな服で覆った男だった。


 しかもフードを深く被っていて、顔もよく見えない。


(いや怪しすぎるだろ!?)


 今日かなり暑いんだけど!?

 不審者ですって自己紹介してるような格好だった。


「え、えっと……僕ですか?」


 警戒しながら後ずさる。

 男は、じっと僕を見ていた。


「答えろ。貴様が“魔王に近しき人間”だな?」


「……はい?」


 思わず聞き返してしまった。


 魔王?

 なにそれ。


 え、最近そういう宗教でも流行ってる?


「いや、えっと……何言ってるのか全然分からないんですけど」


 僕が言うと、男の目が、ゆっくり細められた。


 その瞬間、背筋に、ぞわりと悪寒が走る。


 怖い。

 本能がそう叫んでいた。


「貴様の身柄は拘束させてもらう」


 冗談を言っている感じじゃなかった。


(なんかやばいこの人!)


 直感だった。この人、本当に危ない。

 僕は反射的に踵を返した。

 けれど、


「貴様、誰の許可を得て去ろうとしている」


 声が、目の前から聞こえた。


「――え?」


 さっきまで数メートル先にいたはずの男が、いつの間にか僕の正面に立っていた。


 理解が追いつかない。


 さっきは手に何もなかったはずなのに、いつの間にか男の手には、巨大な鎌が握られていた。


 あまりにも現実離れした光景に、脳が硬直する。


「――っ」



 僕が状況を理解する間もなく、が振り下ろされた。


 ザシュッ――――。


「――――は?」


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 視界が白く弾ける。


 斬られた?

 え、なんで。


 肩から腹にかけて、焼けた鉄を押し付けられたみたいな激痛が走った。


「が……ぁ……!?」


 息が詰まる。

 膝から力が抜け、その場に崩れ落ちた。


 熱い! 痛い!

 意味が分からない! なんだよこれ!


 震える視線を落とす。

 制服が、真っ赤に染まっていた。


「い、いきなり……何を……」


 男は、僕を見下ろしていた。

 まるで虫でも見るみたいな目だった。


「脆いな。魔王に近い存在と聞いていたが、ただの愛玩動物か」


 再び、鎌が持ち上がる。

 そこでようやく理解した。


 こいつは不審者なんて生易しいやつじゃない、殺人者だ!


 ――殺される。


「ま、待っ――」


 反射的に後ろへ飛んだ。

 僕が尻餅を付いたと同時に、轟音と共に地面が砕けた。


「っ……!」


 もし避けてなかったら。

 今ので、僕の体は真っ二つだった。


 喉が引き攣る。


「な、なんなんだよお前……!」


 意味が分からない。

 なんでこんなことになってる。


 僕、さっきまで彼女とのデート断られて落ち込んでただけなんだけど!?


「安心しろ。まだ殺しはせん」


 全然安心できないことを言いながら、男の左目が紫色に光った。

 気づいた時には、空気が裂けていた。


「がぁあああああっ!!」


 いつの間にか、右足に穴が開いていた。


 熱い。

 焼けるように痛い。


 いや、焼けてる!?

 肉の焦げる臭いするんだけど!?


「痛っ……ぁぁぁぁ!!」


 視界が涙で滲む。

 男はそんな僕を見て、愉快そうに笑っていた。


「ハハッ! 喚け、人間!」


 再び紫の光が走る。


 左足、肩、腹。  

 次々と謎の光が貫いた。


「がぁぁぁぁぁぁ!!」


 もう何が何だか分からなかった。


 熱い、痛い、苦しい、怖い。

 色々なことが起きて、頭がおかしくなりそうだった。


 なんで目からビーム出るんだよ!

 人間じゃないだろこんなの!!


 体が地面へ崩れ落ちる。

 もう立てないそうにない。


「チッ。もう終わりか」


 男はつまらなそうに舌打ちした。


「まあいい。十分遊べた」


 鎌が、ゆっくり振り上げられる。


「動ける部位は邪魔だ。削るとしよう」


(――死ぬ、のか……)


 こんな所で、僕はなにもできず死ぬのか……。

 まだ死にたくなかった。


 真奈ちゃんと、もっと一緒にいたかった。


(真奈ちゃん……最後に君の顔をもう一度……)


 僕はぎゅっと目を閉じる。


 ――いつまで経っても、痛みは来なかった。


「人払いの結界が張られた気配を察知して来てみれば……これはどういう料簡かな?」


 聞き慣れた声だった。


 しかし、いつもの優しい声とは、まるで違っていた。


 恐る恐る目を開ける。


 そこに立っていたのは、小さな背中だった。


 細くて、華奢で。

 普段なら「守ってあげたくなる」なんて思ってしまうような女の子の背中。

 なのに今は、その背中が信じられないくらい大きく見えた。


「真奈……ちゃん」


 真奈ちゃんだった。

 彼女は僕と男の間に立ち、振り下ろされた巨大な鎌を、たった二本の指で受け止めていた。


「な――っ!?」


 男が驚愕の声を上げる。

 ギリギリ、と金属が軋む音が響くと、


 ――パキン。


 乾いた音と共に、鎌の刃が砕け散った。


「……は?」


 男の間抜けな声が漏れる。


 いや、分かる。僕も同じ気持ちだ。


 けれど、一番意味が分からなかったのは。

 ゆっくり振り返った真奈ちゃんの瞳が、赤く光っていたことだった。


「真奈ちゃん……きみはいったい?」


 掠れた声で言うが、真奈ちゃんは返事をしなかった。


 ほんの一瞬だけ。

 泣きそうな顔で視線を逸らした。

 まるで、見られたくないものを見られてしまったみたいに。


「貴様ァ!!」


 鎌を砕かれた男が激昂する。

 拳を振り上げ、真奈ちゃんへ飛び掛かった。


「真奈ちゃん! 逃げ――」


 叫びかけた瞬間だった。


「黙れ」


 真奈ちゃんは男を見ることすらせず、片手を軽く振った。

 ――ドンッ!!

 空気そのものが爆発したみたいな轟音。


「がぁぁぁっ!?」


 男の体が吹き飛ぶ。

 しかもそれだけじゃない。

 周囲の木々が激しく揺れ、公園の砂が舞い上がる。

 風圧だけで、そんなことが起きていた。


(……なんだよ、これ)


 こんな事が現実であるのか。

 目の前にいるのは、本当に僕の知ってる真奈ちゃんなんだろうか。


「……目的は大体察するよ」


 真奈ちゃんの声は、静かだった。

 けど、その場の空気が、じわじわ熱を帯びていく。


「颯ちゃんを人質にして、私に何か要求するつもりだったんだろうけど」


 赤い瞳が、ゆっくり男を見据える。


「本当に、最悪」


 ぞくり、とした。

 怒っている。

 真奈ちゃんは、今、本気で怒っている。


「魔界と無関係な彼氏に手を出すとか……私、自分が悪く言われるよりそっちの方がムカつくんだよね」


 言い終わると同時に、真奈ちゃんの掌に、炎が灯った。


「――っ!?」


 思わず息を呑む。

 何もない空間から、突然火が生まれていた。

 手品なんてレベルじゃない。


「ただで済むなんて、思ってないよね?」


 炎が、膨れ上がる。


 熱い。

 距離があるはずなのに、肌が焼けるみたいだった。

 男の顔から、余裕が消えた。


「その姿……人間界用の擬装か」


 男が低く呟く。


「まさか貴様だったとはな……魔王マナルデリシア」


 ――魔王。

 その言葉が、頭の中で反響する。


(……魔王。真奈ちゃんが?)


 何かの設定かと思った。

 けど、男の焦りようがそれを否定した。


 しかも、鎌を指で砕いて、空気だけで人を吹き飛ばして、掌から炎を出している。


 そんなの、人間に出来るわけがない。


「貰っていた情報では、この時間は魔界に戻っているはずだったが……予定が狂ったか」


 男は忌々しそうに舌打ちする。

 けれど、その目は僕を見て笑った。


「だが、情報は正しかったようだな」


 ねっとりした視線が、僕へ向く。


「その人間は、貴様にとって弱点らしい」


 真奈ちゃんの目が、細くなった。


「颯ちゃんは関係ない一般人だよ。私達の事情に巻き込む理由なんてない」


 掌の炎がさらに大きく膨れ上がる。

 空気に陽炎を生み、景色が歪んで見えた。


「ふん。温い炎だな。ごっこ遊びでもするのか?」


 男は鼻で笑った。


「減らず口を」


 真奈ちゃんの声が、一段低くなる。

 そして、炎が弾丸みたいな速度で放たれる。


「遅い!」


 男の背中から黒い翼が広げ、空へ飛び退く。

 直後、火球が地面へ直撃した。

 炎は弾け、轟音が響く。

 地面が抉れ、熱風が吹き荒れる。


(……嘘だろ)


 目の前で起きてることは現実とは思えなかった。

 煙の向こうで、男が空中から真奈ちゃんを睨みつける。


「これ以上暴れれば、天界の連中が嗅ぎつける。今日は退いてやる」


「逃すわけ––––––」


 真奈ちゃんが踏み込もうとした、その時。


「追うのは勝手だが、その人間は見殺しでいいのか?」


 男が僕の方へと指差す。


 真奈ちゃんの動きが止まる。

 彼女は、はっとしたように僕を振り返った。


 地面には大量の血。

 それを見た瞬間、真奈ちゃんの顔から、血の気が引いた。


「……っ、颯ちゃん!」


 男のことなんて完全に忘れたみたいに、真奈ちゃんが駆け寄ってくる。

 膝をつき、震える手で僕の体に触れた。


「大丈夫!? しっかりして!」


 声が震えていた。

 さっきまでの冷たい声とは全然違う。

 いつもの、優しい真奈ちゃんの声だった。


「……真奈、ちゃん……」


 うまく喋れない。

 喉が焼けるみたいに痛い。

 血も無くなったのか、意識が遠く……。


「しゃべらないで! 今助けるから……!」


 真奈ちゃんが必死に僕に呼びかける。


 それに答える力は、残されてなかった……。


 魔王とか、炎とか、赤い目とか。


 訳分からないことだらけだけど。

 僕を助けに来てくれたのは、間違いなく真奈ちゃんだった。


「……助けて、くれて……ありがと……」


「だから喋っちゃ駄目だってば……!」


 視界が、どんどん暗くなる。

 音も遠くなって、体の感覚も薄れていく。


(もっと……一緒にいたかったな……)


 最後に見えたのは、泣きそうな顔で僕を抱き抱える、真奈ちゃんの姿だった。


 そして僕の意識は、静かに闇へ沈んでいった。

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