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学園のアイドルに告白したらOKされた。けれど彼女は魔王で、僕は従者になりました。  作者: ナックルボーラー


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第4話 魔王

 城の上層に吹きつける風が、真奈ちゃんのマントを大きく煽っていた。


 夕焼けを背負って立つ彼女は、僕の知っている三陸真奈とはまるで別人のようだった。


 いや、別人ではない。


 彼女は間違いなく、僕が好きになった三陸真奈だ。


 だけど、同一人物でも、学校と今の纏う空気は異質なもの。

 彼女は普通の人間でもなく、異世界――魔界に棲む魔族。


 そして――魔王。


「真奈ちゃんが、魔王って……」


 ようやく絞り出した声は、自分でも情けないくらい掠れていた。


「魔王って言えば、ゲームとか漫画とかに出てくる……悪の親玉、だよね?」


 魔王。人間界ではあまりにも有名な称号だ。

 正直、少しだけ胸が高鳴る響きではある。


 だって魔王だ。男の子なら一度くらいは憧れる単語だと思う。

 でも、それと同時に、どうしても悪いイメージがついて回る。


 勇者に倒されるラスボス。

 世界を滅ぼそうとする存在。

 人間に害をなす、悪の象徴。


 そんなものと、目の前の真奈ちゃんがどうしても結びつかなかった。


 真奈ちゃんは心外だと言わんばかりに、口をへの字に曲げる。


「悪の親玉って言われるのは、正直かなり癪だけど……一旦、その認識でいいよ。実際、創作物だとラスボス扱いされることが多いしね」


 不服そうに肩を竦める。


「でも、私は別に悪逆非道なことはしていない。それだけは、ちゃんと言っておくよ」


 そう言って、真奈ちゃんはバルコニーの柵から軽やかに飛び降りた。


 普通なら足を挫きそうな高さだ。

 けれど彼女は、まるで階段を一段降りるみたいに着地する。


 その何気ない動きだけで、改めて思い知らされた。


 真奈ちゃんは、僕とは生物的に違うのだと。


「続きは部屋に戻ってからにしようか。夕焼けの風は、病み上がりの身体に障るからね」


 そう言って、真奈ちゃんは尻餅をついたままだった僕の横を通り過ぎ、室内へ戻っていく。僕もようやく足に力を入れて立ち上がった。

 まだ少しふらつく。というか、身体より頭の方がふらついている気がする。

 魔界だったり、魔族だったり、あまつさえ魔王って……情報過多すぎる。


 部屋へ戻ると、真奈ちゃんは中央のテーブルを挟んだソファの一方へ腰を下ろした。当然のように上座だった。

 ……いや、当然か。魔王だもんね。

 魔王が下座に座っていたら、それはそれでなんか嫌だ。


「立ち話もなんだし、ここからは座って話をしようか」


「う、うん……」


 促されるまま、僕は向かいのソファに腰を下ろす。

 僕が座ると、真奈ちゃんは顔を横に立つ鎧の人へ向ける。


「ホロウ。喉が渇いたから、お茶の用意をお願い。颯ちゃんの分もね」


「かしこまりました」


 静かな声と共に、鎧の人物が動き出す。


 この人は、この部屋で一番異質だと思った。

 

 中世の騎士が身に着けていそうな全身鎧。

 しかも兜までしっかり被っていて、肌は一切見えない。

 声からして、たぶん女性だと思う。


 いや、てかなんで部屋の中を鎧で徘徊してるんだ?

 

 魔界ではこれが普通なのか?

 

 僕が真奈ちゃんからホロウって呼ばれている人物を怪しんでると、真奈ちゃんは壁に掛けられた時計へ目を向ける。


「本当なら楽しく談話をしたいのは山々だけど、全部説明するのも大変だし、この後も仕事があるから……15分ってところか」


 真奈ちゃんは時計を見ながらぶつぶつと呟く。

 そして一回頷く。


「うん。一から十説明するのもなんだし、颯ちゃんからの質問を聞く形式で行こうか。質問できるのは2個程度だけど、何が聞きたい?」


 唐突過ぎる。心の準備ができていない。


「いきなりそう言われても……まだ頭がこんがらがってるし……」


 それもそうか、と真奈ちゃんは肩を竦める。

 うーん……聞きたい事があり過ぎて、2個なんて少なすぎる。

 けど、文句を言ったところで増やしてくれそうにないし……まあ、あれだよね。


「……それじゃあ、真奈ちゃんがなんで魔王をしているのか、かな?」


 魔族とか諸々も気になるけど、それが聞きたかった。

 僕からの最初の質問に、真奈ちゃんは「まあ、普通そこから聞くよね」とばかりに苦笑する。


「私の家は代々この国の王族で、家長が魔王となって国を治めてきた家系なんだ」


 言いながら、真奈ちゃんは部屋の壁に飾られた肖像画へ目をやる。

 肖像画には、真奈ちゃんと似た格好の威厳ある男性が描かれていた。

 真奈ちゃんの言い方だと、真奈ちゃんの家系が魔王ってことは、この人は……。


「私の父だよ。そして、先代の魔王」


 やっぱりそうだった。

 真奈ちゃんのお父さんは美形と言う、どちらかとイケオジ風で、絵なのにどことなく貫録を感じる。

 

「そうなんだ。その先代の魔王様もこの魔王城にいるのかな? もしかして、真奈ちゃんに王位を譲って、どこかに隠居しているとか?」


 僕は何気なしに言ったつもりだったが、それが地雷を踏んだらしい。

 真奈ちゃんとホロウさんは黙り込み、重苦しい空気が部屋を包み込む。

 数秒経った後に、ホロウさんが口を開く。


「えっとですね、立花様。先代の魔王様は――――」


「いいよ、ホロウ。私に気を使わないで。私が求めたんだから、私が答えるのが筋だよ」


 ホロウさんの態度は、真奈ちゃんに言わせるのが酷だから自分がって風に見えた。

 けど真奈ちゃんが遮り、彼女は一歩後ろに引いた。

 

 真奈ちゃんは一呼吸入れると、少し低い声で話し始める。


「先代魔王……私の父はもうこの世にはいない」


「……え、つまりそれって……」


 最悪な事態を想像して、自分の発言を後悔した。

 

「私の父は―――2年前に亡くなってるんだ」


 真奈ちゃんから語られる事実に胸が苦しくなった。

 真奈ちゃんのお父さんが亡くなっている事実ってよりも、彼女に自分の父が亡くなったいること話させたことへの罪悪感が強かった。


「……ごめん真奈ちゃん。知らなかったとはいえ、無神経に聞いて……」


「別に颯ちゃんは気に病む必要はないよ。気になるもんね普通。逆の立場だったら私も気になるよ」


 真奈ちゃんにフォローされて益々胸が苦しくなる。


「つまりは、その跡を継ぐ形で、私が魔王になったとさ。以上」


 真奈ちゃんはわざと軽い調子でそう締めた。

 けど、その軽さが逆に痛かった。


 たぶん、僕に気を遣わせないようにしている。

 そう分かるからこそ、余計に何を言えばいいのか分からなくなる。


 部屋の中に、少しだけ沈黙が落ちた。

 時計の針が動く音だけが、やけに大きく聞こえる。


 なにか言わないと。でも、なんて言えばいい?

 僕が言葉を探していると、真奈ちゃんが困ったように笑った。


「そんな顔しなくていいよ。颯ちゃんが悪いわけじゃないんだから」


「でも……」


「それより、質問はあと一つだけど。どうする?」


「あ、えっと……」


 そうだった。質問は2個まで。

 聞きたいことは山ほどある。

 魔族のこととか、僕を襲った謎の男のこととか。


 なのに、重い空気に焦った僕の口から出たのは――。


「……真奈ちゃんって、何歳?」


「…………はい?」


 真奈ちゃんの動きが止まった。


 いや、違う。

 止まったのは真奈ちゃんだけじゃない。

 部屋の空気も止まった気がする。


「……貴重な質問の最後がそれって、どうかと思うけど?」


「ご、ごめん!」


 僕は即座に頭を下げた。

 ヤバい、死にそうな程恥ずかしい!

 真奈ちゃんがどんな顔を僕に向けてるのか見れない。


 でも、仕方ない、と自分に言い訳をする。


「その……魔族って長生きって聞くし、見た目と年齢が釣り合わないのが定石というか……」


 言いながら、自分の失言がどんどん積み上がっていくのを感じた。

 これ以上喋るとまずい。

 真奈ちゃんはこめかみを押さえ、小さく息を吐いた。


「魔族が長寿っていうのは間違いじゃないけどさ……」


 呆れたように眉を寄せる。


「私は今年で17歳。颯ちゃんと同い年だよ。これでもね」


「えっ……そうなの!?」


「そうだよ」


 真奈ちゃんはじとっとした目を向けてくる。


「あと、魔族にも年齢を気にする人はいるから、デリカシーは持ってね」


「すみません……」


 ほとほとごめんなさい。デリカシーのない男で。


「それにしても信じられないよ」


 気を取り直してそんなことを言う。


「真奈ちゃんの正体が魔族だったってこともだけど……真奈ちゃんが、僕と同い年で、魔王だなんて」


 僕なんて、放課後に本屋へ寄るかどうかで悩むような普通の高校生だ。

 それなのに真奈ちゃんは、国を背負っている。

 同じ年なのに、見ているものが違いすぎる。


「そんな凄いことじゃないよ」


 その声は、さっきよりもずっと小さかった。


「気付いたら、私しか残ってなかっただけ」


「……私しか、残ってなかった?」


 その言い方が妙に引っかかった。


 真奈ちゃんは自分のことを誇っているようには見えなかった。

 むしろ、どこか自分を卑下しているように見える。


「他に候補がいなかったってこと? 真奈ちゃんには、兄弟とかは……」


「一応、私には5人の姉がいるよ」


 真奈ちゃんにもお姉さんがいるのか。

 真奈ちゃんのお姉さんだから、全員が真奈ちゃん似た感じなのかな?

 

 てか、真奈ちゃんの言い方だと、真奈ちゃんは末っ子なのかな。

 

「あまり王族の継承のルールは知らないけど、そういうのって一番上の人が継ぐとかじゃないのかな?」


「厳密にそう決められたわけじゃないけど、一応全員に継承権はあったよ。けど、私以外の全員が継承権を放棄したんだ。私に理由も言わずにね」



「つまり……繰り上げみたいな形で、真奈ちゃんが王になったってこと?」


「そういうこと。これが本当の実力で継承されていたなら、どれだけ自信を持てたのかなって思うよ」


 真奈ちゃんは自嘲するように笑う。


「そしたら、颯ちゃんを巻き込むこともなかったのにね」


 その言葉に、僕は何も返せなかった。

 真奈ちゃんは少し笑っているけど、それは自分を責めてる様に思えた。

 学校で見せていた完璧な笑顔の裏に、僕の知らない重さをずっと抱えていたのだ。


 多分、僕を襲ったアイツは、真奈ちゃんに不信感を抱いてたんだと思う。

 そこで、彼氏である僕を人質に、何かを要求するつもりだったんだ。


 なのに……僕は何もできなかった。


 自身の無力さに打ちひしがれていると、ホロウさんが僕たちの前にお茶を置いた。


「魔王様。確かに、貴方様が魔王に即位された経緯は、望まれた形ではなかったかもしれません」


 ホロウさんは、兜の奥から真奈ちゃんをまっすぐ見ているようだった。


「ですが、貴方様が王であることを望んだ者が大勢いたのは事実です。私もまた、貴方様を王と信じ、この身を捧げております」


 ホロウさんははっきりと言い切った。


「どうか、ご自身を軽んじないでくださいませ。貴方様は――この国を背負う王なのですから」


 その言葉には、僕でも分かるくらいの忠義が込められていた。

 真奈ちゃんは少しだけ目を見開いた後、柔らかく微笑んだ。


「……ホロウ。ありがとう」


 その表情は、さっきまでの張りつめたものではなかった。

 学校で見た、いつもの真奈ちゃんに少しだけ近い。


 僕はなぜか、少しだけ安心した。

 真奈ちゃんは用意されたお茶を一口飲む。


「じゃあ、僕も頂くよ」


 僕も恐る恐るカップを手に取った。


 匂いは普通にいい。

 毒とかは……たぶんない。


 いや、真奈ちゃんが出してくれたものを疑うのは失礼だ。


 そう思って一口飲む。

 普通に美味しかった。魔界のお茶、美味しい。


 そんな場違いな感想を抱いていると、真奈ちゃんが壁に掛けられた時計へ目を向けた。


「お喋りの時間はここまで。この後、来客があるから終わらせてもらうよ」


「あ……そっか」


 質問は2つ使い切った。

 真奈ちゃんは魔王だから忙しいのは当然だ。


 名残惜しさを感じながら、僕は立ち上がった。


「今日は色々ありがとう。正直、滅茶苦茶怖くて死ぬかと思ったけど……絶対に体験できないことだらけで、なんだかんだ楽しかったよ」


 これは本音だった。

 今日の中で僕の常識を何個も砕かれた。

 死ぬ思いをした。実際に真奈ちゃんがいなかったら死んでいた。


 正直、体験したくはなかった。

 けど、真奈ちゃんのことを少しだけ知れた気がして、結果オーライだと思った。


「それじゃあ、僕も家に帰らないと」


 そう言って、僕は部屋の出口へ向かおうとした。


「なにを言ってるの、颯ちゃん」


「ん?」


 呼び止められて振り返ると、真奈ちゃんは、座ったまま僕を見ていた。

 その顔には、いつものような微笑みが浮かんでいる。

 けど、その顔を見て、ぞくりと嫌な予感がした。


「家には帰してあげるよ。でも――――」


 真奈ちゃんが、ゆっくりと立ち上がった。


「颯ちゃんを――このまま普通に帰すと思ってるのかな?」


 今の真奈ちゃんから僕は目を離せない。

 だけどそれは、見惚れてるとかじゃない。

 蛇に睨まれたカエルと言えばいいのか、圧に押されて動けない。


「真奈、ちゃん……?」


 震える声で呼ぶが、答えずに距離を詰めるだけ。

 さっきまでの親しみやすい空気が、嘘みたいに消えていた。


「颯ちゃん」


 真奈ちゃんが、ゆっくりと指先を持ち上げる。

 その仕草は優雅で、綺麗で。


「ごめんね」


 彼女は、静かな声で告げる。


「これまでの記憶を――消させてもらうよ」

 



 

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