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大口兄様に恋をした~私にとっては禁断の恋(※私なんかが恋なんかしちゃダメ!)~  作者: ふるなゆ☆


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7話(後編)

 体育祭に向けての練習も活発になっていった。

 一年生の頃には無かった応援合戦。学級の半分が参加する。振り付けを必死に覚えていく。運動苦手だから乗る気になれないけど、やるからにはしっかりやらないといけない。流石に足を引っ張りたくない。役割分担決めの時に最終的に決まることはなく、結局先生の下でじゃんけんをして決めることになった。案の定、負けたのが運の尽きだ。ため息が出る。

 休み時間に復習のために手だけ動かして軽く踊る。それを乾に見られた。彼も見よう見真似で真似て踊る。

「あんたは応援合戦じゃないでしょ……。」

 ちょっとため息が出た。こっちは半分本気でやってるけど、目の前はほぼふざけ半分だ。さらに追い討ちをかけることにした。

「代表リレーの練習でもしたら?」

「こんな教室で、それも短い休み時間で何を練習するんすか?」と軽く笑われた。いや、バトンパスの練習とかならできると思うが……。

 代表リレーに出る人は応援合戦には参加できない。応援合戦自体は乾が好きそうだと思っているけど、出れないのだから仕方がない。

 私もやる事だけのことはやらなきゃな。

 そこで次の授業の始まりのチャイムが鳴った。





 球技大会とは比べ物にならない程の熱気だ。

 一年生の頃は入学間もなくやってくる行事と言うことでレクリエーションレベルの価値しかなかった。しかし、二年生と三年生の位置にいる私達にとっては、本気になる行事と感じている人がほとんどだ。本当に暑苦しい。

 熱気が暑苦しいためか半数以上は半袖半ズボンの体操服。だけど、私はさらにその上にジャージを着ている。

 二年生と三年生が合併して行う応援合戦。私達は緑色組として、他の三つの組と争うことになっている。競走が周りの熱気を高めている。その勢いについていけない。

「じゃっ、頑張れよ。」

 応援合戦の服装は学ランだ。男子は言わずもがな問題無いが、我々女子は男子から借りる必要がある。ということで、私は乾の学ランを借りた。

 乾の学ランに着替えた。不思議と臨戦態勢になる。彼の匂いに包まれる。

「行くぞ」と団長。それに続いて頑張って声を張る。

 青色組が終わって胸を撫で下ろしている。今は黄色組が踊っている。そして、終わった。つまり私達の番だ。

 運動場に囲むように存在する空間。私達がそこへと向かう。周りから見られている。緊張で心が萎縮しそう。けれども、身に(まと)う装備が私の心を温かく押してくれる気がする。

 バックグラウンドミュージックは太鼓の音。三年生がバチで叩くその音と振り付けに合わせて踊っていく。団長を中心に三年生、二年生と続いていく。私は後ろの方で目立ちにくい場所にいるとしても、失敗はできない。一生懸命踊りについていく。

 何とか最後のキメポーズを成功させた。早く赤組にバトンタッチしなくてはならない。けど、足並みを揃えなくてはならない。気をつけながら持ち場に戻った。

 ひとまず深呼吸。

「お疲れ。良かったぜ。」

 乾が笑顔で爽やかに微笑んだ。だから、私も微笑み返した。

 その瞬間、楽しい気持ちがフツフツと沸き立った。今まで行ってきた運動会及び体育祭からスポーツ系のイベントは楽しめないものだと思い込んできた。けど、この瞬間、私はとても楽しいと思えている。

「服、洗って返した方がいいよね……?」

「何言ってんだ? 学ランは普通、洗わないっすよ。そのまま返してくれりゃいいんすよ。」

 せめてファブリーズでもして返したいな、なんて思いながら私は体操服へと着替えに向かった。


 着替え終わり、席に戻った。

 囲まれたエリアに向けて(はや)し立てる声。その熱気が春の風を夏のように思わせる。一年生だけが行う障害物競走が白熱していた。それを穏やかに眺めていく。

 

 綱引き対決――。

 最初はアズアズのいる黄色組とだ。

 空のピストルの音で後ろに倒れる。そして引きづられて圧倒的大差で決着が着く。

 続くドベ決定戦では赤組とは何とか僅差で勝つことができた。


 玉入れ対決――。

 必死にボールを拾っては下から上へと投げるも全然入らない。最終的には男子と合わせて四十三個。まあ学年で三位と言う所だ。


 大縄跳び――。

 一斉に息を合わせて跳ぶ。真ん中にして貰っている私は端にいる人達よりも跳びやすいらしいけど、頑張らなければ引っかかってしまうので必死に食らいつく。結果は二十回。頑張った方だ。


 ようやく二年生の種目に入る。初めは男子の騎馬戦だ。一切に攻防が始まる。どこに誰がいるのか混戦していて分かりづらい。目をキョロキョロと動かしていく内に乾を見つけた。……とっくに負けていた。もうハハハと笑うしかない。

 続いて女子のタイヤ取り。乾の声援が聞こえた気がした。それだけで頑張れる気がする。

 一斉に動く。陣地に持っていくタイヤには色が塗られていて、それによって配点が変わる。やはり高得点となる金のタイヤは密集している。今の内に一点しか取れない黒のタイヤを……。

「やっぱり似た者同士だね。」

 黄色いハチマキを可愛く結んだアズアズが同じタイヤに触れた。簡単に引っ張られてしまう。頑張って引き寄せようとするもアズアズに軍杯が上がりそうだ。

「特進クラスだからって馬鹿にされるのはたまりませんから。ここで底力を見せておきますわ。」

 青色のハチマキが揺れる。そこに来たのは半井だった。彼女の登場で、タイヤはそのまま引き寄せられてしまった。結局、一つも取れないまま終わってしまった。


 三年生の種目である進化版障害物競走が始まった。その中にある借り物競走は相当盛り上がっていた。その後、昼の休憩を挟み、部活動対抗リレー。

 そして、学級対抗リレー。これは全員参加だ。恥をかかないように必死に走ってクラスメイトに緑のバトンを渡した。これでようやく私の番は終わり。ちょっと一安心だ。


 代表リレー――。

 乾がやる気の顔をしている。その様子を椅子から眺める。彼の出番がやって来た。

 応援しなきゃ。私は今日一の声を張り上げる。

 バトンを握りながら走る彼は風を切る。真っ直ぐな瞳が私に「頑張れ!」と言わせる。それと胸の中において、かっこいいな、なんて気持ちを強めさせる。

 

 全ての科目が終わった。閉会式も終える。緑色組は四位だった。簡単に言えば散々な結果だ。

 そのまま前を向いてゆったりと歩いていく。

「とっても楽しそうだね」とアズアズが笑って近づいた。

「うん。いつもなら体育祭はつまらないものだと思ってたけど、今日はなんか――楽しかったな。何でだろ。」

 どうしてだろうな。結果的にも惨敗で喜べる要素は少ない。考えていくと勝手に思い浮かばれていく乾の姿。

「恋をしてるからじゃない?」

 その言葉が心を穿(うが)つ。私にだけ水を差す。

「違う。これは恋なんかじゃ……。」

 急いで人のいない物陰へと隠れる。しゃがみ込んで目を瞑る。すぐに思い浮かばれるのは慎二君の姿だった。

 私は恋をしている?

 私は恋をしてはいけない。私はもう三人も失っている。このままじゃ乾を殺してしまう。何の反省もしていない自分が嫌になった。

 なんで楽しいなんて思ってるんだろう。

 呪いにかけられた私には楽しむ権利なんてないはずなのに。恋をしちゃいけないはずなのに。


 ひとまず落ち着いたので、そのまま教室に戻る。その時も、その後も、ずっと考えていた。

 私は恋をしてはいけない。けど、今日の楽しいが忘れられない。乾の姿が頭から離れてくれない。

 ジレンマが辛い。この葛藤はまるでパンジェント、いわゆるベリーホット。

 なんでこんなに苦しいのだろうか。楽しいがこんなにも辛いことだとは思わなかった。けど、この楽しいをもう一度経験したい欲求が止まってくれない。

 

 私――どうすればいいんだろう?





 振替休日。それは体育祭を土曜日に行った我々だけの特権の休み。世間は普通に通学通勤しているだろう。

 私達は県境を超えていき、三重県にまで来た。桑名市の磯の香りがとても心地よい。ここは日本でも最大級の遊園地。特にジェットコースターは一躍有名な場所だ。

「さぁ、行きましょう。」

 先頭で仕切るのはアズアズの友達だ。そこに私と乾が加わった四人で遊園地に遊びに来ているのだ。

 しかし、休日の半井遥陽(はるひ)はここまで意気揚々としているとは思いもしなかった。いや相変わらずなのかも知れない。アズアズが友達も一人連れていっていいか聞いたから、二つ返事で許諾したらまさかの彼女だった時は私の目も丸くなっていた。

 駆け抜けるジェットコースター。それと同時に吹き抜ける風。爽やかな風だ。

「最初に乗るとしたら、名物のスチールド――」

「俺さ、実はジェットコースター苦手なんすよねぇ。」

 彼女の言葉を遮って、あまり自慢にならない言葉を言う乾。それに対して「じゃあなんでここに来たの」とツッコミを入れた。「わざわざここじゃなくても別の所を提案すれば良かったよね」という話に「いやぁ、てっきりメリーゴーランドとかそういうのしかない所だと……」と横目で返された。

 ……。返す言葉が見つからなかった。

 パンフレットを見てあまり激しくないアトラクションを探していく。

「ジェットスキーとか面白そうじゃね。」

「じゃあ、ひとまずそこに行こうか。」

 ジェットコースターの音が聞こえる。見渡せば空飛ぶ乗り物が空を回っていたり、下から上へと急発進しては徐々に落ちていく乗り物があったりする。

 それなりに進むとジェットスキーというアトラクションが見えてきた。回転型の乗り物で、プールの上を操縦しながら回っていく。

 春のようようとした天気の中、水をかき分けて回っていく。私も思わず笑顔になる。この時だけは今までの嫌なことを忘れていられそうだ。

「案外面白いんだね」とアズアズが頷く。

 それでも「やっぱりジェットコースターがいいなぁ」なんて呟いている。

 同じ水に関するアトラクションへ行くことになった。ジェットコースターで降りる時に水に突っ込むアトラクションらしい。

 最中(もなか)を売ってそうな売店を通り過ぎ、そこへと向かう最中(さなか)、ある建物が目に映る。お化け屋敷だ――。みんなが視線を向けて乾が「あれなら、行けるぜ」と、アズアズが「では行こー」と言っている最中(さいちゅう)に半井が「待って! 行くのやめましょう」と告げる。しかし、突然の多数決により行くことが決まった。

 少しひんやりとした冷房がかかっている。

 周りは薄暗く足元のみが見えるだけだ。

 ここからお化けが出てくるのだろう。けれども、何も怖くない。例え、本物だとしても怖くないと思う。死にたい気持ちを感じることはなくなったが、生きたい気持ちは元々感じていない。未練がないから怖くない。――と思っていました。

 やっぱりどこかで未練があるのだろう。突然の襲来にちょっとだけ驚いてしまった。けれども、誰にも気づかれない程度の驚きだ。目の前の半井の挙動不審があまりにも大袈裟(おおげさ)すぎて苦笑いが出る。

 ゆっくりと歩む。乾の歩幅と私の歩幅が重なる。少しそれっぽいムードも出てきた。私はそれに身を委ねたい気持ちで溢れた。

 もしかしたらこのまま――。

 お化けが驚かす。それに呼応して半井が悲鳴を上げる。

「もう、もう無理!」

 一人先へと走り出してしまった。そこで叫ぶ音以外にも何かの衝突音も聞こえる。

「はー。あたし、行ってくる。」

 アズアズが追いかけるように先走っていった。

 取り残された私達二人。

「まっ、俺らはゆっくり行こうぜ!」

 暗闇で全く見えないのに、彼が無邪気に笑ったように思えた。

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