48 自白
カルーニエットは驚きとともに震え上がった。
使者が首になって帰ってきた後、一度だけは騎士について申し開きに出向いたが、その後は何かと理由をつけてアノスタコビッチ邸に出向くことをのらりくらりと遅らせてきていた。
ひとつには行けば殺されるのではないかという恐怖と、勝つのがどちらかが見えないことがあったからだ。
しかし、まさかアノスタコビッチが軍勢を連れて押しかけてくるとまでは考えていなかった。
門を開けさせ、ガルディー卿の前にひざまずいた。
「な‥‥何かの間違いです! ここにいるカルーネンは1人も外には出ておりませぬ。私はグレバを恐れてこの邸を守らせているだけでございます。」
これは嘘である。
それでは情報は収集できない。出入りがあるくらいのことはアノスタコビッチの側でも把握している。
宮廷戦争とは情報戦なのだ。
ガルディーは取り合わなかった。
「捕らえよ。申し開きは詮議の場でするがよい。」
護衛のカルーネンたちが身構えた。
「控えろ! 公務であるぞ。この軍勢を前に、おまえたち数人だけで立ち向かえるとでも思うのか!」
カルーネンたちがたじろいだ。
そもそも王都における警察権の行使の権限は王家とその執政のみにあり、アノスタコビッチにはない。
しかし、このカルーニエットに対する強権に異をとなえるほどの胆力の持ち主は今の王都にはいないであろう。
「おまえたちは奴隷に過ぎぬ。たとえおまえたちが死んだとしても、おまえたちの罪はそのまま主人の罪となる。それでもよいか?」
カルーニエットが両手を振って背後を抑えた。
「私は卿を裏切るようなことはしておりませぬ。どうか申開きをお聞き‥‥‥」
「捕らえよ。詮議の場でするがよい。」
兵士たちがカルーニエットを押さえつけ、後ろ手に縛り上げた。
「ひいぃ‥‥!」
カルーニエットはそのままアノスタコビッチ邸の牢に放り込まれ、取り調べ官という名の男たちに拷問されることになった。
「商家に押し入れと命令したのはおまえであろう!」
「そ‥‥そんなことは‥‥っ、ぐあああああっ!」
カルーニエットが何を言っても鞭が降ってくる。
「ど‥‥どうか‥‥! 申し開きを‥‥うぐあっ!」
激しい拷問に何度か気を失ったあと、地下牢にガルディー卿が下りてきた。
「どうだ? 吐いたか?」
「なかなか強情です。」
「わ‥‥私は‥‥何も‥‥知りません‥‥。あ‥‥、センドラ。助けてくれ。」
カルーニエットはガルディーの横に見知った顔を見つけて助けを求めたが、かつて僕だったはずのセンドラの答えは冷ややかだった。
「私の今のご主人様はガルディー卿です。」
そう言って、持っていた包みの布をはらりと開く。
ごろん、ごろん、と2つの首がカルーニエットの前に転がった。
「見覚えがあろう。おまえのところのカルーネンだな?」
「し‥‥知りません‥‥こんなやつ‥‥」
ガルディーが、くい、と顎をしゃくると、カルーニエットの背中に鞭が落ちてきた。
「ぐあっ!」
「王都で押し込みを働いた男たちだ。おまえのところのカルーネンだな?」
「し‥‥知りません! そんなこと‥‥命令もしていない‥‥ぐあっ!」
一発カルーニエットに鞭がくれられたあと、なぜかガルディーは急に優しい猫撫で声になった。
「おまえが命令したなどとは思っておらんよ、カルーニエット。押し込み強盗がおまえの罪だとも思っていない。」
カルーニエットはガルディー卿の真意がわからず、わからないということが恐怖を倍増させる。
「どこに貸し出したカルーネンだ? フェール公爵家ではないか?」
そういうことか——。
と、この貴族社会の裏を渡り歩いてきた商人は悟った。
これはもう、日和見は許されぬ。
今ここを生き延びるためには、答えはひとつしかない。
「はい‥‥。この者らはフェール公爵家に貸し出しました。その後のことは存じませんし、消息も途絶えておりました。」
ガルディー卿はにこにこと満足そうに笑った。
「縄を解いて傷の手当てをしてやれ。」
そしてちょうどその頃、放ってあった間諜がカルホース領の方から戻り朗報がもたらされた。
「カルホース卿が軍勢を率いて動きましてございます。」
「そうか。」
ガルディーは、もうひとつ満足そうな笑みを浮かべた。




