47 刺客と軍勢
ガルディーは焦っていた。
王宮内の動きを見るに、フェール公爵は王家の側に立つようにして公然とアノスタコビッチ家に反目するという姿勢をとったのだ。
そのことによって、それまでアノスタコビッチ家にすり寄るようにしていた多くの貴族たちが様子見を始めた。
軍事的実力はともかく、なんといってもフェール公爵家は王家の親族であり、執政の資格も持つ。
権威が違った。
そのフェール公爵が、王の御前でガルディーの献策に公然と異をとなえたのである。
グレバを得たことで気が大きくなったか?
ガルディーはフェール公爵の屋敷に流れの刺客を送り込んだが、1人も帰ってこなかった。
やはり、グレバはフェール公爵家にいる! とガルディーは確信した。
それにしても、なぜ裏切った?
グレバが1人で裏切るとは思えない。必ずカルーニエットが一枚かんでいるはずだ。
その証拠にヤツはフェール公爵家に派遣したカルーネンを呼び戻した様子もなければ、グレバに対して処刑人を放った形跡もない。
あれ以来、カルーニエットは自分の邸に手持ちのカルーネンと閉じこもったまま、ガルディーの呼び出しにも応えなくなっている。
ガルディーは雇った流れのならず者を使って、王都の中の富裕な商家に押し込み強盗を働かせた。
「奪ったものは半分持って逃げていい。逃げ道は密かに準備しておく。万一捕まっても、口を割らぬのが条件だ。」
こういう話に乗るヤツに頭のいいやつはいない。
ガルディーはセンドラ・カルーネンをその逃げ道に待ち伏せさせて、雇った流れを皆殺しにさせた。
さらに間髪を容れず軍勢を差し向けて強奪された金品を回収させる。
そのまま王都へと引き返し、押し込まれた商家の前に立った。
「押し込んだ者どもは運がなかったのでしょうな。我が手の者と鉢合わせをし、そやつらをことごとく退治てくれましたぞ。奪われたものはこれで全てでございましょうかな?」
商家の主人は驚き、ほとんど平伏するように地面に頭をこすりつけた。
「これは! アノスタコビッチ卿! まさか、これが返ってくるとは‥‥! なんとお礼を申して良いやら‥‥。殺された奉公人の命は戻ってはきませんが、その仇までとっていただいて。」
主人は涙ぐみながらガルディーを見上げた。
「さようか‥‥。それはお気の毒な。」
ガルディーは見るからに同情しているような顔を見せる。このあたり、この男は稀代の役者でもあった。
「お礼としては失礼かもしれませんが‥‥」
そう言って主人は取り返してもらった財宝の中から金銀の入った袋を指し、
「どうかこれだけでもお持ちくださいませ。後ほどまた改めてお礼に伺わせていただきます。」
主人としては感謝の気持ちはもちろんだが、多少の打算もある。
これを奇貨として今をときめくアノスタコビッチ卿とお近づきになり、今後に何かと便宜を図っていただこうと考えたのだ。
一種の投資である。
「そのようなものは必要ありませぬよ。王国を守る者の1人として、義務を果たしたに過ぎませぬ。殺された奉公人の遺族に分け与えておあげなさい。」
今度こそ主人は感動してしまった。
強欲などというウワサもあったが、なんという徳の高い人だろうか!
ガルディーはそのまま軍勢を率いてカルーニエットの邸を取り囲んだ。
すでにカルホースには使いを送ってある。
『王都から不逞の輩を排除する。カルホース卿におかれても、軍勢を率いて王都までお越しあれ。』
フェール卿側にグレバがいたとしても、所詮はただ1人の暗殺者。軍勢の前には木っ葉のようなものに過ぎない。
アノスタコビッチとカルホースの軍勢がそろえば、日和見をしている勢力も雪崩をうってこちらに来よう。
フェールが何をやろうと、所詮は小細工に過ぎない。
王家の直属軍などはわずかであるし、フェールだけの軍勢では太刀打ちはできぬ。最後は力だ。
突然軍勢に囲まれたカルーニエットは腰が抜けるほどに驚いた。
そのカルーニエットの耳に届けとばかり、ガルディー・アノスタコビッチ伯爵は声を張り上げた。
「その方の手のカルーネンが王都内で押し込みを働いた嫌疑がある。おとなしく縄について詮議を受けよ。」




