46 説得(あるいは本音)
どんな感じ‥‥と言われても‥‥‥。
わたし、政治向きのことは詳しくないし‥‥。
「あの‥‥、わたくし‥‥」
「そうですな。13歳のお嬢さんにこのような漠然とした聞き方をした私が間違っていました。フェール卿はどんなお方でした? アナスタシア嬢からご覧になって‥‥。」
「どんな‥‥とおっしゃられても‥‥。良い人です。お腹の中の考えが今ひとつわからないところがありますが、基本的には良い方だと思います。王国と民のことを第一に考えておられて——。」
こんな小娘の観察など参考にならないかもしれない、と思いながらもわたしは続ける。
「そうでなければ、浄化装置にお金を出そうなどとは考えないでしょう。この装置を普及させられれば、疫病の蔓延を防ぐことができるとわたくしは考えております。」
「そのことはエイドリアンからも聞いています。天才的で行動力のあるお嬢さんだと。」
天才‥‥? いや、そんなすごいもんじゃないです。
たぶんわたしはまた少し赤くなった。これについてしっかり覚えていたのは、むしろマイアの方だ。
「お父上はお金は出されないのですか?」
「あのく‥‥」
あぶねー、あぶねー。危うく「くそオヤジ」と言ってしまうとこだった。
「あの人はわたしのやることなんかに興味はありません。何をやっているかも知らないと思います。あの人の興味は中央の権勢だけです。わたしは疎まれていますし、邪魔になれば蹴散らして通るでしょう。わたしに人質の価値なんてありません!」
思わず力が入ってしまう。
少なくとも、フェール公爵はわたしを人質にしようなどとは考えていなかった。
これだけは小娘でも断言できる。
レグルス卿は少し驚いた表情を見せた。
「子を愛おしいと思わぬ親はないのでは‥‥?」
「父にはそういうものは見えません。あの人は権勢のためなら誰であろうと平気で犠牲にしてゆきます。それがたとえ王であろうと——。」
「穏やかならぬことを言う。お父上が嫌いなのですか?」
「大っっっっっきらいです!」
思わず力が入ってしまった。
レグルス卿が驚きで笑顔のままでひきつる。
言いすぎたかも‥‥とも思ったが、この際だから直球でいってみることにする。
「カルホース卿にお願いがあります。」
「ほう。何ですかな?」
「父の野望に力添えをしないでいただけませんか。」
レグルス卿が目を剥いた。
「カルホース伯爵家が力を添えなければ、父の野望は成就しないと思うのです。父が王国の権力を握ってしまえば、あの人は民の苦しみなんかに目を向けたりはしないでしょう。」
その返事を聞く前に、オプタートがイリスを連れて部屋に入ってきた。
「お父様。イリスったらすごいんですよ。あのパズル、もう完成させちゃいました!」
レグルス卿は優しい目でオプタートとイリスを見る。
「私たちは今大事な話をしているから、もう少しあちらでイリスと遊んでおあげ。」
「はい。行きましょう、イリス!」
そういえば‥‥とわたしは今さらながら気がついた。
ここには護衛がいない。
「部屋に護衛は置かないのですね?」
レグルス卿は穏やかに笑う。
「ここまで賊が入ってくるようなことはありませんからね。それに、個人護衛が必要なほど我々はヤワではありません。」
そう言って笑うレグルス卿は、衣服の上からでも筋肉の盛り上がりがわかるほどの体をしている。
中央のぶよぶよ太った貴族とはまるで雰囲気が違う。
「フェール公爵は父の野望と戦おうとしていらっしゃいます。身の安全を図るなら父にへつらう道もあるでしょうに——。あの子も‥‥イリスも、父が権力を掌握してしまえばく‥‥首を切られるかもしれません。父は、そういうことをする人です。」
レグルス卿の表情から笑いが消えた。
「そこまでおっしゃるか‥‥。」
ふう、とひとつ息をついた。
「あなたが王国の民を思うお気持ちには感服いたします。エイドリアンから聞いたとおりのお方ですな。しかしそれは‥‥‥」
レグルス卿が真剣な表情でわたしを正面から見る。
「それはあなたにとって悲しいことになるかもしれませんぞ?」
「と、おっしゃいますと?」
「エイドリアンとの婚約を解消することになるかもしれません。」
おお!?
それ!
それこそがわたしの望みですとも——!
「望むところです。」
本音です!
レグルス卿が苦笑とも感嘆ともとれるような微笑を見せた。
「大したお嬢さんだ。あなたがアノスタコビッチの当主だったらいいのに‥‥。むしろ私があなたを嫁にしたいくらいです。」
いや‥‥
それ、もっとやめてほしい!




