35 もう1人の転生者
「ずいぶん物騒な話をしているな。魔法の浄化装置のことを話していると思ったのに。」
ふいに入り口で声がして、わたしたちはギョッとして振り向いた。
「お父様!」
部屋のドアを開けて立っていたのはマイアの父上、イヴァーシナ男爵だった。
わたしたちは全員が青ざめた。
聞かれた? どこまで——?
「お‥‥お父様‥‥。あの‥‥これは‥‥‥」
しかしそのあと、イヴァーシナ男爵の口から出た言葉は再びわたしたちが息を呑むのに十分なものだった。
「君たちは、転生者なのか?」
「「「え?」」」
なぜ、そのことを‥‥?
「話の内容がこの時代のこの世界のものではなかったので‥‥。いや盗み聞きするつもりではなかったんだ。浄化装置の話に混ぜてもらおうかと思って来てみただけなんだが‥‥。ここにいる護衛たちは皆知っているのかい?」
「あの‥‥お父様‥‥」
「いいんだ。数ヶ月前から、マイアが少し変化したような気がしていた。」
イヴァーシナ男爵は優しい目でマイアを見る。
「エイドリアン卿も同じ頃から魔法を使われるようになったと伺っています。アナスタシア様も、以前にもましてへ‥‥独創的になられたとか。」
今、「変人」って言おうとしたな‥‥?(^^;)
「3人同時に転生して合流したんだね?」
わたしは思わずマイアを見てしまった。
マイアが「わたし言ってない!」という顔をする。
「私も転生者だから、わかるのだよ。」
「「「「「「えっ?」」」」」」
6人が異口同音に声を出してしまった。
「私が以前いたところは21世紀の日本という国で、7歳で向こうで死んで、こちらの7歳のシエンに合流した。今から25年ほど前の話だ。」
それで‥‥!
イヴァーシナ卿のぶっ飛んだ感覚(この世界では)は、そのせいだったんだ。
21世紀の日本から来たなら、食卓が家族団欒なのは当たり前だよね——。
「私の向こうでの名前は、勇魚駿だった。シエン・イヴァーシナ。ちょっと響きも似てるだろ?」
「駿兄ちゃん!?」
マイアがほとんど素っ頓狂とも言える声を出した。
「え? 麻耶? おまえ、麻耶なのか?」
「駿兄ちゃん!」
マイアがシエン卿の胸に飛び込んでいった。いや、この場合お兄さん‥‥か?
向こうではシエン卿は麻耶の4つ上のお兄さんで、妹の麻耶をすごくかわいがっていたそうだ。
麻耶も「しゅん兄ちゃん」「しゅん兄ちゃん」と言ってくっついて回っていたらしい。
「わたし‥‥駿兄ちゃんの娘として生まれてたんだね。」
麻耶が頬を染めて少し口の端を上げながら言った。少し哀しげな目の色があるのは、両親のことを思ってだろう。
麻耶のご両親は子どもを2人とも失ってしまったわけなのだから‥‥。
「麻耶には、元気で長生きしてほしかったのに‥‥わずか12歳でなんて‥‥」
シエン卿が少し悲しい目をする。
「私が、生まれた娘にかわいい妹の名に似せてマイアと名付けたのがいけなかったんだろうか‥‥」
「いや‥‥わたしそんなに若くして死んでないから。もっと長生きしたし、素敵な友だちにも恵まれてたし‥‥」
16歳って、長生きか?
とわたしは思わず心の中でツッコむ。
でもわたしたちは自分たちが死んだ年をシエン卿には言わなかった。
シエン卿は25年という歳月を、麻耶が向こうで生きた年月だろうと思ったようだったから——。
「マイアには話したことがなかったかもしれないが‥‥」
とシエン卿は話し始めた。
「私はフェール公爵家には少しツテがあるのだ。若い頃、今のフェール公爵の危機を救ったことがあってね。身分差はあるが、今も懇意にしていただいている。」
絵皿の危険性については、シエン卿がフェール公爵にそれとなく忠告してみるということだった。
「東方の商人から聞いた話として、体に良くないと伝えてヴァイオレット嬢に使用を止めるよう促してみる。君たち2人は表立って動かない方がいいだろう。」
30代の大人が話に加わってくれたことは、わたしたちにとってはかなり心強いことになった。




