32 う◯この山
わたしは絵皿の破片をしげしげと眺めてみる。
たしかに‥‥美しい絵だ。他の焼き物では見られないような鮮やかな色で描かれた繊細な花の絵。
アリシアの推測ではそれでもこれは失敗作で、焼いている途中でヒビが入ったか、気に入らなくて陶工自身が割ったものだろうということだった。
そういう技術を持った陶工が王都に流れ着いて、それを知ったアノスタコビッチがその陶工にヴァイオレット嬢に贈る食器を焼かせたとして‥‥。
それのどこが口封じに陶工を殺さねばならぬほどの秘密になるのだ?
そんなことを考えている時に、マイアから急使が来た。
浄化槽で問題が起きたのですぐ来てほしい、という。手紙にはそれだけしか書いてなかった。
わたしは大急ぎでイヴァーシナの館へと向かう。
それにしてもこのぞろぞろついてくる護衛、どーにかなんねーのか?
「アリシアがいれば十分なのに。」
「しかし、今はわたし以外にも護衛がいた方がいいかもしれません。」
アリシアが馬車のすぐ脇にきて耳打ちするように言った。他のカルーネンから目をつけられている可能性がゼロではない——というのだ。
イヴァーシナの館に着いてみると、たしかに大変なことになっていた。
浄化槽の第一槽付近から汚水があふれているのだ。
「これは‥‥?」
「詰まっちゃったみたい‥‥。」とマイア。
わたしは邪魔な長いスカートをまくり上げ、あふれた汚水の水たまりに踏み込んだ。ブーツ1つダメにしてもアノスタコビッチなんだから大丈夫だろう。
それよりも‥‥
わたしが槽のフタになっている板に手をかけて持ち上げようとすると、アリシアとドレイクの悲鳴が同時に聞こえた。
「お嬢様!」
「アナスタシア様!」
「き‥‥気でもふれられたのですか!? 高貴なご身分の方が、このような物を直接‥‥!」
「わたしの設計の何かが間違っていたんだ。それを確かめる責任がある! 戦だって貴族は真っ先に駆け出すだろう?」
ドレイクの顔に、驚きと感動が広がるのがわかった。
「私どもにやらせてください! お館様をお守りするために私ども兵は存在するのです!」
いや‥‥、お館様ではないんだけどね‥‥?
フタを開けてみると、中にう◯こがみっちりと詰まっていた。
皆の顔が一瞬歪む。
そうか‥‥
そうだよな。
第一槽は固形物がそのまま流れ込むんだ。そんなところにろ材(焼き物のカケラや石ころ)をいっぱいに入れちゃったのが間違いだった。
少し考えればわかりそうなことなのに‥‥。何やってんだ、わたし。
わたしは近くにあった鋤を手に取って、第一槽へと向かう。
再びアリシアとドレイクの悲鳴が上がった。
「お嬢様!」
「アナスタシア様! な、何を‥‥!」
「ろ材をかき出して減らす。固形物がある程度分解されるまで、許容できるだけのスペースを作らなかったことが失敗の原因だ。」
ドレイクがわたしの手から鋤をひったくった。
「そ、そんなことは私どもがやります! アナスタシア様は下知のみされれば良いのです。戦うのは兵士の仕事です!」
戦う?
う◯ことか?
これは設計責任というものだと思うのだが‥‥。(´・ω・`)
ドレイクとその配下の兵たちが第一槽のろ材をかき出し始めると、アリシアとうちの護衛たちも参加しないわけにはいかなくなった。
皆すごい形相でう◯こまみれのろ材と格闘している。
なんだか申し訳ない‥‥。
「わたくしも何かお手伝いしたいのですが‥‥‥」
「なりません! お嬢様。」
アリシアが怖い顔でびしりと言う。
「靴だけでなくお召し物まで汚して帰られたら、帰ってからシンシアに叱られますよ?」
‥‥‥だよね。
シンシアにも気苦労かけてるもんなぁ。
マイアが、そそっと寄ってきて小さな声でわたしに言った。
「杏奈。少しはこちらの常識にも慣れないと‥‥」
「はい‥‥。」




