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伯爵令嬢のわたしは婚約を破棄されました  作者: Aju


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31 アリシアの帰還

 アリシアの真っ白な顔。

 蝋のように真っ白な顔。


 眠っているみたい。

 だけど、なんの表情もない。胸も動いていない。呼吸(いき)の音が聞こえない‥‥。

 肩から胸にかけて、大きな刀の傷跡‥‥。


 眠っているみたいにきれいな顔‥‥。アリシア‥‥


 行かせなきゃよかった‥‥。

 王都になんか行かせなきゃよかった!


 ひざまずいてその頬に触れる。

 ‥‥‥冷たい。


 首から胸へと、手のひらを移してゆく。

 (むご)く切り裂かれた胸は、もう動かない。

 眠っているみたいなのに‥‥


 起きてよ‥‥

 目を、開けてよ‥‥


 アリシア‥‥

 アリシア‥‥!


「アリシア——!!」


「お嬢様!」

 シンシアの声。

「アリシアが帰ってきたのですか?」


「え? ‥‥あ?」

 わたし、眠ってた? 窓に突っ伏して‥‥?

 ゆ‥‥夢だったのか‥‥。


「ここに。」

 扉の向こうで声がした。落ち着いたアリシアの声だ。

「ただいま戻りました。入ってよろしゅうございますか?」


「アリシア!」

 わたしはすっ飛んでいって自分で扉を開ける。

 そこに‥‥。いつもと変わらぬアリシアが立っていた。


「アリシア。‥‥よがっだぁ——!」

 わたしはシンシアの前にもかかわらず、アリシアに抱きついてしまった。

 シンシアが驚いた顔をしてから、急いで扉をパタンと閉める。


 涙がぽろぽろとこぼれてきて止められない。これじゃまるでお母さんにはぐれた子どもみたいだ。

 自分でそう思うけど、止められない。


「お‥‥お嬢様‥‥?」

 アリシアが、どうしていいかわからないといったふうに両手を宙に彷徨(さまよ)わせている。

 あの夢で、わたしははっきり自覚した。どんなにアリシアを大切に思っているのかを——。

 もう隠さない。この部屋の中でだけは——。


「お嬢様‥‥あの‥‥。ご‥‥ご心配かけて、申し訳ありません。少々‥‥トラブルがあって、回り道をいたしました。」


「トラブル?」

 わたしが顔を上げると、アリシアは真っ赤な顔をしてわたしを見ていた。


「え‥‥ええ‥‥。まずは落ち着いてください、お嬢様。落ち着かれましたら、ゆっくりご報告申し上げます。」


「わ‥‥わたし、お茶淹れてまいりますね。」

 シンシアがそう言って部屋から出ていった。


「ご‥‥ご報告申し上げるのは、シンシアが戻ってからにいたしますか?」

「うん。」

 わたしはもう一度アリシアをぎゅっと抱きしめる。

 うん。心臓、ちゃんと動いてる。

 ってゆーか、かなりドキドキしてるよ?


「あのね、アリシア。」

「はい。何でございましょう? お嬢様。」


 その続きを言おうとしてアリシアの真っ赤になった顔を見上げて、わたしは照れくさくなってしまってまたアリシアの胸に顔を(うず)めた。

 アナスタシア(わたし)の身体はまだ13歳だから、身長からしてそうなるんだ。

 アリシアの心臓の鼓動がまた跳ね上がった。

 きっと真っ赤な顔をしてる。わたしもね‥‥。



 シンシアがお茶を淹れて戻ってきた頃には、わたしも落ち着きを取り戻していた。

 3つのティーカップにお茶が注がれたところで、わたしたちはアリシアの報告を聞くことにした。


「まずは遅くなってご心配をおかけしたこと、申し訳ありませんでした。」


「そんなこと。ちゃんと無事に帰ってきてくれたんだから‥‥。」

 わたしはさっきの取り乱しを思い出して、少し顔が熱くなる。思わず目に涙がにじんでしまう。

 アリシアもちょっと頬を染めた。


「帰り道で刺客に襲われまして‥‥」


「「え?」」


 じゃあ、あの夢はあながち‥‥‥

 そう思ったら、また怖くなった。いや、アリシアは今ここにいるんだけどね。


「その刺客の死体の始末と、万が一尾行(つけ)られている可能性を考えて山の中をあちこち通って帰ってまいりました。間違ってもわたしとお嬢様がつながっていることを悟られてはいけませんから。」


「ああ、それで街道には姿が見えなかったのね。」


「城に入る際も、ナルツィセお嬢様の(やかた)近くから入るようにしました。」


「そこまで危険な情報を手に入れたの?」


「まだわかりません。ただ‥‥」

 アリシアは腰に着けていた袋の中から布に包まれた物を取り出した。

 布を開くと、鮮やかで美しい陶片が入っていた。


「きれい‥‥」


「これを作った陶工がご当主様がヴァイオレット嬢に贈られたという皿を作ったのだろうと推測できます。いい金になる仕事が入った、と周囲に漏らしていたようですから。」


「贈った?」

「はい。専用の皿を作っただけでなく、同じような美しい食器一式をヴァイオレット嬢に贈ったという話も聞きました。」


「や‥‥やっぱり、ご当主様はヴァイオレット嬢に懸想‥‥」

 シンシアが顔を歪める。


「いえ、そんな話ではありますまい。これを作った陶工は1ヶ月前に死んでいました。普段飲まない男が、酒に酔って川に落ちたそうです。」


「殺されたってこと?」


「おそらく。口封じでしょう。そしてそれを嗅ぎ回っていたというだけで、わたしもカルーネンの刺客に襲われたのですから。なまじな秘密ではないはずです。」



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― 新着の感想 ―
路線変更かとびっくりしましたが、ちゃんと戻りましたね。 安心しつつ、お皿の謎をひどく楽しみにします。
ヤダも〜、ビックリするじゃないですか(笑)。 よくぞあのおじさんをくだしましたねえ。 愛の力でしょうか?
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