28 絵皿の謎
シンシアが拾ってきた噂の中に、わたしの直感に引っかかるものがあった。
王都の邸宅での大宴会で、特定の者にしか使わせない皿がある——というものだ。
「?」
最近、王都の邸宅から田舎の城の方に転属になった調理人が、不満のついでに漏らした話だという。
「特定の者って誰?」
「伯爵さまご自身なのでは?」
とシンシアが答える。
「それなら、『御当主様』とか言うだろう。それに伯爵や姉にしか使わせないというなら、別に話のネタにするほどのことでもない。『特定の者』というのが引っかかる。誰のことだか、それとなく探りを入れてみてもらえる?」
言われてみれば——という顔をシンシアもした。
「承知いたしました、お嬢様。」
どうやったか知らないが、その日のうちにシンシアは『特定の者』が誰であるかをつかんできた。
「ヴァイオレットさまのようです。」
「フェール公爵家のヴァイオレット嬢のことか?」
「はい。鮮やかな絵柄の、とても美しいお皿だそうです。」
フェール公爵家のヴァイオレット嬢といえば‥‥
有力な王太子妃候補。つまり、うちのお姉様のライバルではないか。
なぜ、うちの当主はそんな人を大宴会に招いて、しかも特別な皿でもてなすなどという特別扱いをしているのか?
「お父様やお姉様の皿も、それに負けず劣らず美しいのか?」
わたしがそう聞くとシンシアは首を傾げた。
「さあ‥‥それは聞いておりませんが‥‥。訊ねてみましょうか?」
「いや、変に勘ぐられてもまずい。そのへんはアリシアに調べさせる。」
「その調理人は『旦那様はヴァイオレット嬢に気があるんじゃねーか?』などと申しておりました。いくらなんでも、王太子妃候補とも言われる方に‥‥いくら旦那様でも‥‥あの調理人、口が軽すぎますわ!」
シンシアは少し怒っている。
わたしは「いくら旦那様でも」というところに笑ってしまう。
その日、情報収集から一旦戻って何食わぬ顔でわたしの護衛についたアリシアにもこの件を話してみた。
「たしかに変ですね。王都で探ってみましょう。」
「頼む。でもくれぐれも気をつけてね。」
翌日、アリシアは再び王都に出かけていった。
アノスタコビッチ城と王都との距離は近いとはいえ、片道1日はかかる。
アリシアは足が速いから丸1日かからないとしても、王都での情報収集活動と合わせれば3日はこの城を空けることになる。
わたしとシンシアはその間、護衛のアリシアの不在を上手く誤魔化さなければならない。
幸いなことに、この世界(貴族社会)では家族がそろって食事をするというような習慣は普通ないようだった。
アノスタコビッチ家でも同じで、家族がそろってあのクソでかいテーブルで食事するのは当主である伯爵が王都から城に帰ってきた時くらいだった。この時は主だった重臣も脇テーブルに並んで一緒に食事をする。
席は家内の順位によって決められていて、わたしの席が当主から見えないくらい遠いというのは、わたしのアノスタコビッチ家における地位がめったんこ低いという意味なのだ。
こういう時は、家族の個人護衛は部屋の隅に立って控えていなければならないのだが(もちろん護衛は水も飲むことすら許されない)そういう機会がなければ、アリシアの不在はおおむね隠し通すことができた。
そういう点、イヴァーシナ家のアットホームな食卓は全く別物だった。
家格が低いから——というのもあるのかもしれないが、それにしてもこの時代、この貴族社会において、常識からはかなり逸脱している。
イヴァーシナ男爵もかなりぶっ飛んでるな。
わたしとタメ張るじゃん。
3日目の夜。
アリシアが帰ってくるだろう、とわたしは少しわくわくしながら待っていた。
疲れているだろうから、報告を聞いたらすぐここで一緒に寝かせてあげよう。
絶対に遠慮してベッドは使わないはずだから、ベッド脇に毛布を敷いて‥‥。
ん〜〜〜。1枚じゃまだ床が硬いよね。うん、何枚か敷いてふかふかにしておいてあげよう。
わたしはシンシアに言ってあと2枚毛布を持ってきてもらい、ベッド脇にアリシア用の簡易ベッドをしつらえた。
知らない間に鼻歌が出てしまっている。
「お嬢さま‥‥?」
「あ、シンシアも一緒にお泊まりする?」
「な、な、な‥‥何を‥‥! とんでもございませんっ! アリシアは護衛ですから! お部屋にいなければなりませんのでごらざいますが‥‥! わたっ‥‥わたくしはっ‥‥!」
シンシアの慌てぶりを面白がりながら、わたしはアリシアの帰りを待った。
しかし‥‥‥
夜が明けても、アリシアは帰ってこなかった。
いやな胸騒ぎがする‥‥。




