27 動き出した秘密同盟
1週間後、王国初の浄化装置は完成し、実験運用が始まった。
この嫌気槽とトレンチによる土壌浄化装置の作りは、麻耶とわたしの覚えている限りの知識を集めたものに原理を基にわたしが考えて補足した方法を組み合わせることで一応の形を成したものだ。
トレンチの長さや嫌気槽の容量がこれでいいかどうかは、実際に運用してみなければわからない。
厨房からの排水溝が第一槽に流れ込むすぐ手前に、おまるの汚物を捨てる少し広い場所を作った。
捨てたものは厨房からの排水に流されて第一槽に流れ込む——という計算だ。
「ご不浄はここに捨ててくださいましね。」
笑顔で使用方法を説明するわたしを、さしものイヴァーシナ家といえども使用人たちは妙な顔をして見ていた。
(変わり者とは聞いてたけど‥‥)
(これほどとは‥‥)
聞こえてるよ? ヒソヒソ話——。
逗留している間に、イヴァーシナ領のことがだんだんよく分かってきた。
アノスタコビッチに比べればはるかに小さな領地ではあるが、よく治っていて領民たちの表情も明るい。
イヴァーシナ領には小さな丘や小山がいくつもある中に、小麦などの生産に適したなだらかな斜面や平地がある。
イヴァーシナ家の館はそういう小高い丘のひとつの上にあった。
決して豊かとは言えない小さな領地は、しかし領民たちの勤勉さもあって実りは多いようだった。
河川は多くなく、しかも小さいので、農地のそばには必ずため池が作られている。
これらのため池は代々のイヴァーシナ男爵が、家財を投入して整備してきたものだということだった。
話を聞くにつけ、わたしは自分の家が恥ずかしくなってくる。
アノスタコビッチがやってることといえば、王都の中心地に王の宮殿を模した贅沢な宴の間を作り、しょっちゅう大宴会を開いて権勢を誇示することばかりだ。
一番上の姉は王都の邸宅の方に連れていっていて、王子たちを招くパーティーには必ず出席させているという話だ。
当主の伯爵は半分以上は王都の邸宅にいる。
わたしのいる領地の城の方にはあまり帰ってこない。
たまに一家で食卓を囲むことがあっても、クソでかいテーブルの末席にいるわたしの顔なんて目の悪くなってきている当主には見えてもいないだろう。
城の隅っこにあるわたしの館に来たことなんかないし、そこでわたしが何をやっているかもほとんど興味がないようだった。
そういう家風であれば、当然のように使用人たちの精神もだれてくる。
城の食料や備品をくすねているやつもいれば、仕えている兄や姉の陰口をたたいているやつもいるらしい。
そういう情報はシンシアでもいくらでも拾ってこれたが、それは使用人のスキャンダルであって今回の目的の役には立たない。
「わたしが別の方向から少し探ってみましょう。」
アリシアはわたしの護衛のことを気にしながらもそう言う。スパイのスキルなんて持っていないわたしはアリシアの諜報力を頼らざるを得ない。
「部屋にはシンシアもいるし館の周囲には衛兵もいるから、わたしは大丈夫だけど‥‥。それよりアリシアこそ気をつけて‥‥。」
「尻尾つかまれるようなマネはしませんよ。」
そう言ってアリシアはどこへともなく出かけていった。
アリシアがわたしのそばにいることが少なくなったが、そのあたり他の侍従には悟られないよう、わたしもシンシアも気をつけるようにしている。
一方シンシアには、アノスタコビッチ家の中での様々な動きについて漏らさずわたしに教えてもらうように頼んでおいた。
そこから何かアノスタコビッチ伯爵のスキャンダルが見つかるかもしれない。
なんか、わたし性格悪くなりそう‥‥。
そんな頃、エイドリアンからCOD検査薬と次亜塩素酸ナトリウムが届いた。
次亜塩素酸ナトリウムはプールなんかで使われる消毒剤。いわゆる「塩素」ってやつだ。
これを浄化槽の最終検水マスに使えば、溜まった水を洗濯などに使うことも可能になるかもしれない。
COD検査薬は小さなガラスの筒の中に入っていて、口の部分が蝋で封印してある。それが色を塗った紙片と共にきれいな小箱に納められていた。
これって、パックテストキットだよね?
英人くんってば、こんなものまで作ってしまうんだ‥‥。




