26 あこがれの浄化槽
ドレイクが兵隊たちと共に泥まみれになって穴を掘っている。
地質は砂と礫と粘土の混じったもので、砂や礫の割合がやや多い。礫のせいで掘りにくそうだが、水の浸透はまあまあ良さそうで水はけのいい土地と言える。
休憩時間に木陰で椀の水を飲むドレイクにマイアが話しかけた。
「申し訳ないです。護衛長にこんな仕事までさせて。」
「なあに。昔の塹壕掘りを思い出して、いい汗かいてますよ!」
工程はまだ第一嫌気槽があらかた掘り終わったところだ。
見ていることしかできないわたしも、もどかしくてついドレイクに言ってしまう。
「わたしも中に入って手伝いたいけど‥‥」
「と、とんでもない! それこそ正気を疑われますよ?」
嫌気槽3つの穴を掘るだけで2日かかった。
それでも重機なしでこれを2日で掘り切ったのはさすがだと舌を巻く。この時代の工兵の力ってすごいな。
その間、わたしはイヴァーシナ家に泊まり込んでいる。
設計者の監修が必要——というイヴァーシナ男爵のお声がかりもあって、男爵自らアノスタコビッチ家にも連絡の使いを出してくれたので心置きなく逗留できる。
理解のある父上で羨ましいなぁ。
またアナスタシアが変なことやってるんだって——という姉たちの嘲笑が聞こえてくるようではあるけど‥‥。
さて。
嫌気槽の穴の内側にはタイルを貼っていく。
タイルといっても釉薬付きの装飾用タイルでは高いので、素焼きの板だけを買いそろえた。それにどろどろに溶かした粘土を塗って、掘った穴の土の壁面に貼ってゆくのだ。
「面白そうですわ。」
と言って、この作業にはわたしとマイアも参加させてもらった。
意外なことにアリシアが手際がよく、上手かった。
「どこかでやったことがあるの?」
「たいていのことは訓練を受けています、お嬢様。間諜として潜り込むには、いろんな作業に通じていた方が便利ですから。」
素焼きの板だけでは汚水がしみ出してしまうので、内側に船底用のアスファルトを塗って防水層として仕上げる。
この方が釉薬タイルを使うより安い、と分かったからだ。
アスファルトが固まったら、ろ材となる石ころや焼き物のカケラを入れて汲んできた川の水を流し込む。
「畑の土をふり撒くんですか?」
「これが魔法のタネになるの。」
浄化槽の主役となる土中微生物だが、この世界の人々が理解できるわけではないから「魔法のタネ」にしておく。
穴の上部は木の板を並べて渡しかけてフタをした。
一部だけは中を確認するため開けられるようにして、残りの部分には板の上に砕いた炭と土を敷いて臭いが出てこないようにする。
第一槽には厨房からの排水が流れ込むように溝をつける計画だ。
「アナスタシア様は‥‥あ、つまりアンナ様ですが、あちらでは博士のようなものであらせられたのですか?」
ドレイクが感心したようにわたしに言った。
「そんなすごいもんじゃないよ。ただの高校生だよ。」
「コーコーセー?」
「学生ですわ。」とマイア。
「16歳はまだ成人ですらないのですよ。あちらの世界では——。」
トレンチの方は60センチほどの深さなので、300メートルといっても1日で掘り上がった。広がりを持たせるために、一旦横に分岐させてから30メートルを10本作った。
その底の方40センチくらいの深さに素焼きの板を船底状に貼り付けて、アスファルトを塗る。これが素焼きの土管からしみ出る中間処理汚水の受け皿になる。
防水処理の受け皿の上に砂利と土を敷いて、その上に短い素焼きの土管をわずかずつ隙間を開けて並べる。
第三嫌気槽から流れ出した中間処理汚水は、この土管に流れ込んでその隙間から外にしみ出し、受け皿の上に溜まる。
溜まった汚水は毛管現象によって表土の中に吸い上げられてゆき、ここで好気性微生物による最終処理が行われるのだ。
つまり、曝気槽の代わりだ。
これで、第一嫌気槽の近くに‥‥トイレとなるきれいな建物をつくれば‥‥!
水洗トイレだって、夢じゃない!




