24 7人の秘密同盟
わたしたちは2つの方針を立てた。
1つは浄化槽を完成させて王国の水環境と衛生環境を改善し、イヴァーシナ家の家格を上げる。
それはとりもなおさず、わたしたち転生者のトイレ環境の改善にもつながるのだからモチベーションも大きい。
2つ目は、アノスタコビッチ家の不祥事を探り出す。これは主に内部諜報員としてのわたしの仕事だ。
それを理由に、エイドリアンがわたしとの婚約の解消を申し出る。表沙汰にはせず取引材料として使う方が効果的かもしれない。
わたしたちはもう一度、確認しあった。
エイドリアン、マイア、ストラッド、ドレイク、アリシア、シンシア、そしてわたし。
この7人は、身分は違っても同じ秘密と目的を共有する仲間であり、秘密同盟の同志である——と。
目的はこの王国の生活環境をより良いものに変えること。
そしてその結果を利用して、エイドリアンとマイアが結ばれる未来をつくること。(そこにわたしの婚約解消も含まれる)
最初の目的は表に出して、わたしたち若い3人が協力しあっている目的として世間にも見せておく。
その中心となっているのが民思いのイヴァーシナ男爵——という建てつけだ。
後の方の目的は‥‥7人だけの機密事項である。
イヴァーシナ男爵の許可を得て、浄化槽はイヴァーシナ家の菜園の隣に建設することになった。
嫌気槽が3槽、その先の土壌浸透溝が30メートル×10本で総長300メートル。トレンチの先に滲出水の検査をする焼き物製の検査マスを埋める。
検査マスは短い円筒形の素焼きの管を、3ミリくらいずつ隙間を開けて積むことで地中の水をしみ出しやすくする。深さは60センチほどで、そこに溜まった水の水質を検査することで浄化槽が期待通り機能しているかどうかを調べるのだ。
処理水のCODを測る試薬はエイドリアンが作ると言ってくれた。
「そんなのできるんだ? 薬品なんか売ってないこの世界でも‥‥?」
「僕が何部で活動してたか知ってるだろう?」
エイドリアンが親指を立てて見せる。
「ついでに消毒用の塩素も作っておくよ。割と簡単なんだ。」
さすが英人くん。頼もしい味方だ。
さて。
そうはいっても、小領主のイヴァーシナ男爵にとってはギリギリの財政運営の中で、こんな大規模な設備に——しかも上手くいくかどうかわからない実験的な装置に——投資するのはかなりの勇気がいるはずだ。
だからといって、こんなわけのわからないプロジェクトに資金を出そうなどという商人もいないだろう。
将来性がわかっているのは、今のところ21世紀からの転生者であるわたしたち3人だけなのだ。
なんとかイヴァーシナ家の財政負担を軽減したいが、この世界ではわたしのような貴族令嬢の使うお金は基本的には当主の決裁によってしか出してもらえない。
「いつまでも子供じみた変な趣味にうつつを抜かしていないで、花嫁修行に勤しみなさい——とのことでございます‥‥。」
シンシアが肩を落として復命してきた。
あのくそ当主め‥‥。
「まあ、仕方ないよね‥‥。この時代、女には何の力もないもんね。」
綿の布だけは「刺繍のお稽古」ということで大量に買うことを許されたが‥‥。
たぶん権力闘争で頭がいっぱいで、女のやることなんかに興味がないんだろう。普通に考えたら、刺繍のお稽古になんでこんなに布がいるのか不思議に思うだろうに‥‥。(^^;)
しかしこの件に関してはエイドリアンからの助力があった。
彼は「男」であり、すでに「成人」した16歳の次期当主だから動かせるお金が大きいのだ。
エイドリアンは婚約者であるわたしへのプレゼントとして、嫌気槽のろ材となる石ころや素焼きの焼き物のカケラ、防水用のアスファルトなどを贈ってきたのだ。
わたしがそれを、そっくり親友であるマイアに贈る。
——という迂回経路を通すことで、イヴァーシナ家の財政負担を援助した。
「婚約者から石ころと焼き物のカケラを贈られて喜ばれた方というのは、古今東西探してもアナスタシア様だけでございましょうな」とドレイクが面白がった——とあとでマイアから聞いた。
まあな‥‥。
いよいよ「変人」に磨きがかかってきたな。




