18 クピドの悩み
‥‥‥‥‥‥
マジかっ!
いや‥‥。まだそうと決まったわけではない。
しかし‥‥!
ここまでは、見い出した共通点の条件にはぴったり当てはまる。
‥‥‥‥‥‥
婚約者ぁ———?
よりによって、わたしの? いや、ちょっと待て! それは‥‥。
めちゃくちゃややこしい問題が発生してしまうぞ?
もし、エイドリアン・カルホース伯爵令息様が、英人くんだったら‥‥
あのロープウエイでほぼ成功しかかってたキューピッドの業務成果はどうなる?
麻耶の恋は、どうなるんだぁ——————!?
しかも!
婚約者? このアナスタシアの? あの‥‥‥
わたし、「男」ダメなんだけど——!?
いや‥‥この問題は、記憶が混ざったときからあったんだけど‥‥。ずっと見ないようにして逃げてた。
そしてそこに、さらにややこしい問題が加わってしまった‥‥。
どうしたもんだろう?
‥‥‥‥‥‥
わたしはしばらく呆然としたのち、いずれにしてもこれははっきりさせる必要があると思った。
「アリシア、相談があります。」
アリシアが歩きながら馬車の窓に顔を寄せてきた。
「話しにくいから、乗ってくださいな。」
わたしは馬車の扉を開ける。
「しかし‥‥」とアリシアは言ったが、すぐに話の内容を聞かれたくないのだと悟って、動いている馬車にひょいと身軽に体を乗せた。
わたしは奥に体をにじらせて、扉を閉めて窓の覆いを下ろすように言う。
2人乗りの馬車ではあるけれど、わたしの身の寄せ方が少なかったので少し窮屈になった。
「あ、ごめん。もう少し寄るね。」
わたしがもう一回体をずらそうとする前に、アリシアが「大丈夫です!」と言った。
頬が少し赤い。
あれ?
これは、もしかして‥‥。
わたし‥‥こちらでの素敵なお友達、見つけちゃったかも‥‥。( *´艸`)
「アリシア。頼みがある。」
「何でございましょう?」
アリシアはもう有能な護衛の顔に戻っている。
「エイドリアン・カルホース様について情報を集めてほしい。」
「浄化槽の材料についてではなく?」
「それもやってほしいんだけど、そっちはシンシアに頼んでもできるから。」
「お嬢様の婚約者であらせられるところのカルホース様のことでございますよね? 何か問題でも?」
「いや‥‥、というか、婚約者であることがそもそも問題なんだけど‥‥」
「‥‥?」
「いや、いいんだ。とにかく、わかることは全て——。」
「現時点でわかっておりますことは、お嬢様の婚約者であらせられること、幼年学校と中等学校を主席で卒業されたこと。文武両道のお方で、書物をよく読まれるせいか少しお目が悪いらしいこと‥‥などですが。特に問題のあるようなお噂は耳にいたしませんが‥‥。」
「特に、最近何か変わったことを始めたりしていないか——わたしたちみたいに。そこのところを調べてみてほしいんだ。」
「それは‥‥エイドリアン様が転生者であるかもしれない‥‥ということですか?」
「頼む。こんなことを頼めるのは、アリシアしかいないんだ。」
アリシアの瞳が光を帯びて、ちらとわたしの方を見てすぐ正面に向き直った。
「御意。」
それだけを言って、アリシアは馬車の扉を開け、ひょいと身軽に飛び降りると脇を歩きながら恭しい手つきで扉を閉めた。
窓の覆いを少しだけ上げて覗いてみると、アリシアは馬車からほんの1フィート半ほどのところを護衛らしく普通に歩いている。
ただ、そのその表情の中にわたしは小さな微笑みを見つけて、わたしもまた口の端が上がってしまう。
さて‥‥。
エイドリアンがもし英人くんだとすると‥‥。それをどうやって確かめるか? そして今、彼は何をどう考えているのだろう?
彼がもし英人くんなら‥‥、自分が転生したのだと知った時から麻耶を探そうとするんじゃないだろうか?
そういう動きがあれば、アリシアがつかんできてくれるのではないか。
わたしはそれを期待している。
そしてもしエイドリアンが転生者ではなかった場合‥‥
それはそれで問題なんだけど、わたし的には‥‥。
結婚して? お世継ぎを産んで? ‥‥‥やめてほしい! お妾さん紹介するから! あ、武家社会と違ってそういう文化はないのかな? ここには‥‥。
いやでも、そんなことより今は‥‥。
エイドリアンが英人くんではなかった場合、いったい何を手がかりに探せばいいのか‥‥?




