13 魔法の装置
「ありがとう、マイア。今のマイアの言葉で、やるべきことがはっきりと姿をとったよ。」
わたしはシンシアのほっぺを挟むように手を添えて微笑んでいるマイアに言った。
「浄化槽を作ろう。」
「それは、いいですわね。お姉さま! でも‥‥できますか?」
「できるだろう。この世界の技術だけでも。わたしが設計図を描くから。アリシア。シンシアも。マイアも。ドレイクどのも。手伝ってもらえますか?」
「私?」とドレイクが自分を指差して驚いた顔をする。
「力強そうですし。兵隊の指揮もおできになるんでしょう?」
「ジョーカソー‥‥って?」
シンシアがそう問うと、またしてもマイアが適切な答えをしてくれた。
「ご不浄を、良い気を使ってきれいな水と良い肥料に変えてしまう魔法の装置ですのよ。杏奈と麻耶がいた21世紀の日本にあった魔法の装置。」
そうだね。わたしたちの知っている技術って、ここでは魔法のような夢の技術だよね。
さしずめこの世界では、わたしたちは‥‥ふふ‥‥
ド◯◯モンだぁ———!
「ジョーカソー!」
ちょっとかすれ声にしてそう言ったわたしを皆はきょとんと眺めたが、マイアだけが「ぷっ」と吹き出した。
「3日後にもう一度おいでくださいますか? それまでに粗々に図面を書いておきますわ。」
わたしはドレイクとマイアを交互に見てそう言った。
「もちろんまいりますわ、お姉さま!」
マイアが目を輝かせる。
ドレイクはまだ話がよく呑み込めないらしく、目を泳がせてわたしとマイアを交互に見た。
「シンシア。アリシア。わたしがこれから言う物を手に入れてほしい。まず船底に塗る防水用のアスファルト。織り目の粗い綿の布。1インチほどのゴツゴツした石や、焼き物のカケラ。量は図面を描いてから計算して伝えるから、まず入手先の情報だけでも集めてほしい。」
あ、お嬢様言葉忘れてる。でも、こういう指示を出す時にああいう回りくどい言い方はめんどくさい。
「承知いたしました、お嬢様。」
きびきびと返事をしたのはアリシアだ。
手元の紙片に何かを書きつけると、それをシンシアに手渡した。
「シンシア様。この3箇所のこの人物をあたってください。わたしは護衛があってすぐには動けないから。わたしからの紹介と言えば、粗略には扱われないはずです。」
それにしてもアリシアの情報力や人脈には舌を巻く。
1日のうちほとんどの時間をわたしについている。それでいて、こういう人脈も構築しているなんて‥‥。
いったい、いつ寝てるんだろう?
体壊さなきゃいいけど‥‥。
マイアたちが帰ったあと、わたしは便箋を広げて浄化槽の設計に取りかかった。
設計といったところで、杏奈だってただの高校生だったのだ。理系で環境問題に興味を持っていたとはいえ、浄化槽の構造まで具体的に知っていたわけじゃない。
中学の水環境学習の中で大雑把な原理について教えてもらってただけの知識しか持ち合わせていない。
たしか‥‥人間1人が1日に排出する排水の量はトイレと雑排水合わせて、200リットルくらいだったような‥‥。
くそ! ちゃんと覚えていない‥‥。
ここには調べるためのNETもなければ、資料もない。
なにしろ、ここではまだ存在しないものなのだ。
麻耶が言っていたように、本当にできるのか‥‥?
そうだ。あの水環境の出前授業、麻耶も一緒に受けてたんだった。
2人の記憶を合わせれば‥‥。少なくともわたし1人よりは正確な知識になるのでは‥‥?
「アリシア。誰か使いに行ってくれるように頼んでもらえないか。明日、マイアを訪ねたい。」




