12 シンシアの困惑
どうなさったのでしょう? アナスタシアお嬢様は‥‥。
昔から変わったところのあるお方ではありましたが‥‥。
最近は常軌を逸しておられます!
伯爵家のご令嬢ともあろうお方が‥‥ご不浄のことに興味を持たれるなんて‥‥。
本当に‥‥どうなってしまわれたのでしょうか?
あのお可愛らしかったお嬢様は、何か悪いモノに取り憑かれてしまわれたのでしょうか?
もしかして‥‥あの「アンナ」というのは‥‥地獄から来た魔物なのではないでしょうか?
ニホンというところから来た霊魂で、アナスタシアお嬢様と同じ由来の魂だと申していますが‥‥わたしたちを謀っている悪霊なのではないかしらん‥‥。
ニホンというのは、地獄の別名なのではありますまいか?
たしかに‥‥お嬢様は水をきれいにする魔法の道具を作られました。
それは、お隣のイヴァーシナ男爵からも高い評価を受けていらっしゃるのも確かです。
しかし‥‥
伯爵家のご令嬢が、ご不浄に関わろうとなさるだなんて‥‥。
ああ!
お嬢様!
お嬢様!
わたしはどうしたらいいのでしょう?
お祓い?
でも‥‥わたしにそんなことをする力はありません。
誰かに相談しようにも、わたしはお嬢様に秘密を守る誓いを立ててしまっております。
ああ! ああ!
神様!
わたしはどうしたらいいのでしょう‥‥?
そういえば‥‥
アリシアは、畑の作物にご不浄を与えるとか申しておりましたよね?
イヴァーシナ男爵家でもお庭の一部でそんなことをなさっているとか‥‥先ほど、マイア様がおっしゃていませんでした?
それは‥‥、下賎の者の食べるものでございますよね?
‥‥‥‥‥‥
まさか‥‥、でも‥‥では、お城の調理で使うお野菜はどこから‥‥?
え?
まさか‥‥、わたしたちが食べてるものって‥‥つまりは‥‥
ご不浄‥‥?!?!?
* * *
「シンシア? シ・ン・シ・ア ? ‥‥おーい。」
シンシアの目が中空を彷徨っている。
「たぶん、侍従としての宮仕えしか知らないシンシアは話についていけてないんだと思います。わたしがひっぱたいて目を覚ましてやりましょうか?」
アリシアがそう言って一歩踏み出そうとするのを、わたしが止める。
「いや、暴力は‥‥(^^;)」
「わたくしが呼びかけてみますわ。シンシア様?」
マイアがシンシアのほっぺたを、つんつんと突ついた。
シンシアがハッとした表情になり、目の焦点が戻った。
「こ‥‥これは! お嬢様! 失礼を‥‥! お、嬢様? ‥‥え? マイア様?」
「しっかりしろ、シンシア。わたしはこっちだ。」
「お‥‥お嬢様も‥‥マイア様も‥‥み、みなさんどうなされたのですか? 高貴なるお身分の方が‥‥こんな‥‥きっと何かに取り憑かれて‥‥」
「どうなされたはおまえの方だ、シンシア。ご不浄の処理の話くらいで何を狼狽えているのだ。」
危うく「う◯こ」と言いそうになった。あぶねー、あぶねー。
「お姉さま。」
マイアが片手をひらひらさせて、わたしに苦笑する。
それからシンシアに向き直って、少し腰をかがめてその目を覗き込むように顔を見た。
「あのね。ご不浄のお話でちょっとお嫌かもしれませんけど、聞いてくださいな。シンシアさま。」
かわいいマイアの瞳にまっすぐ見つめられて、シンシアは涙目になりながらも聞く姿勢を見せた。
「ご不浄はそのままですと邪気を集めやすいのです。けれど、地の気のような良い気に触れますとそれは良い気を吸収して畑の作物を育てるような良い気の集まりになるのです。」
なるほど。
病気を引き起こす細菌と、有用微生物による作用をそういう言い方で説明するか——。
なかなかのコミュ力だなマイア。
「アナスタシアお姉さまがなさろうとしているのは、ご不浄を放置して邪気の集まりになるのを防ぎ、良い気の集まりに変えようという試みなのですわ。」
そういえば麻耶もマイアも、物事の本質を捉えて平易な言葉で表すことが巧かったな——。
2人が合体して、いよいよ磨きがかかってるぞ?




