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伯爵令嬢のわたしは婚約を破棄されました  作者: Aju


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11 語彙が見つからない

 これは、何がなんでも衛生状況を改善しなくては! 水環境を早急になんとかしなくては——。

 疫病とかが流行るわけだよ。お祈りしてるだけじゃ、どうにもなんねーって!


「お嬢様、どうなされました?」


「と‥‥とにかくだ。まずは捨てる場所をきちんと定めよう。アリシアの村のやり方を参考にする。」


 水洗トイレどころの騒ぎじゃない。

 街の衛生状況もなんとかする必要があるが、とりあえずはこの城の中だけでも衛生的にしなければ‥‥。


 イヴァーシナ家ではどうしているんだろう?

「シンシア。イヴァーシナ男爵に手紙を書くから‥‥書きますから、至急届けるよう手配してくれ‥‥くださいますかしら?」


 そうして便箋とペンを用意してから、わたしの手がふと止まった。

 う◯このことをどう書けば‥‥?


 伯爵家の令嬢が、隣の領地の男爵様にしたためる手紙の中に‥‥それを表す適切な語彙が、ない。


「宛先を変えます。マイアに届けてくださいな。」

 麻耶(マイア)に対してなら、目的を説明すれば直接的な言葉で聞くこともできる。


 受け取った瞬間、麻耶(あいつ)がくしゃっと手紙を握りつぶして顔を真っ赤にして悩む姿が目に浮かぶが‥‥。

 頼む! 麻耶(あんた)しかいないんだ。この問題を共有できそうな人は‥‥。

 なんとか状況を把握して、教えてくれ。



 マイアからの返事はそっけなかった。

『お伺いしてもよろしいでしょうか? 5人以外、人払いということで』


 やっぱり手紙に書く語彙が見つからないんだな。

 それに手紙だと、万が一誰かに見られたら——っていう危険があるものな。

 お(しとや)やかで評判なマイア嬢の手紙にう◯このことが書いてあった——なんてことが万一誰かに知られたりしたら‥‥。

 うん。そりゃあ、手紙ではとてもやり取りできないだろう。



 数日後、マイアがぞろぞろと護衛を連れてアノスタコビッチ家の城にやってきた。


「アナスタシアお姉さま。お招きいただき、ありがとうございます。」

 見事なカーテシー。


「マイア。よく来てくださいました。わたくしの部屋でお茶でもいたしませんこと? ドレイクどの、マイアと共に。他の護衛の方は、こちらでお寛ぎを——。」


 このやり方はいつものことなので、誰も不審には思わない。

 もちろん、用向きはお茶ではない。

 う◯このことだ。

 ‥‥‥‥‥‥


 麻耶(マイア)はわたしの部屋に入るなり、真剣な顔つきになった。


「アナスタシアお姉さま!」


「ここでは杏奈でいい。」


「混ざっちゃって、迂闊なところで出てしまってもいけませんから。」


 まあ、そうか。わたしも気をつけないと、使い分けてるつもりでもパニクった時なんかにうっかり出てしまってもいけないもんな。


「お父様に聞いてみましたら、我が家ではお庭の一角に場所を設けているということでしたわ。農民たちのやり方を参考にしておりますの。お庭の隅には直轄の畑もありまして、野菜などを作っておりますそうですわ。」


「アリシアの村のやり方と同じか‥‥。さすがはイヴァーシナ男爵。領民たちに慕われるわけだ。」

 私がそんなふうに言うと、マイアが少し嬉しそうな顔をした。


「シンシア、我が家でもその方式を取り入れることはできないかな——。‥‥シンシア?」


 呼びかけてもシンシアは答えず、なぜかぼーっとした表情をしている。

 目の焦点が定まっていない。



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