10 難しい問題
さて、トイレだ。
これはなんとしても改善したい。
かといって、共同のボットン便所‥‥ってのも嫌だ。
しかし、水の貴重なこの世界で水洗トイレってのは‥‥さすがのアノスタコビッチ家の贅沢としてもヒンシュクものだろう。
む‥‥難しい問題だ‥‥。
そういえば‥‥。
異世界転生ものを読んでるときも、トイレの話は出てこなかったような‥‥。
この世界では、一般人のトイレはどうなっているんだろう?
わたしはシンシアに聞いてみることにした。
「お‥‥お嬢様‥‥。お気を確かに‥‥!」
「はあ?」
「い‥‥いくら秘密を共有するといわれましても‥‥、そのようなご不浄のお話を人前で‥‥。お嬢様! お嬢様!」
「あのなあ、おまえ。オジョーサマだろうがなんだろうが、人間ならう◯こくらいするだろ? 一般の者たちはそれをどうして処理しているのか——と聞いているだけだ。」
「ひいいい‥‥」
シンシアは耳をふさいで目を閉じてしまった。
アリシアは? と見ると、顔を歪めながらも一応わたしを見ている。シンシアと同じ反応では護衛にならないからだ。
「アリシア、わたしはそんなにとんでもないことを言っているのか?」
「ふ‥‥普通は‥‥、そのようなことを高貴なご婦人は口にいたしません。」
「そうか‥‥。」
わたしは話し方を変えてみることにした。
「杏奈が転生前にいた21世紀の日本というところでは、トイレはこう、白い椅子のような形をしていて、用が済むと水が吹き出してきてお尻を洗ってくれる。他にもトイレットペーパーという柔らかな紙も用意してある。お尻がきれいになって立ち上がれば、自動的に水が流れて汚物を下水道へ運んでくれる。」
「下水道‥‥とは?」
アリシアが興味を示した。
「汚れた水を流す地下の川のようなものだ。それは下水処理場というところに流れていって、そこできれいな水にして海や川に流している。これが21世紀の日本のトイレの仕組みだ。」
「ゲスイショリジョというところには魔法使いがいるのでございますか?」
シンシアが閉じていた目を開いてわたしに訊ねた。
「まあ‥‥そんなようなものだ。」
微生物とか言っても話は通じないし、今はそんな理解でいいだろう。
「この世界ではどうしているのだ? アナスタシアはそのようなことを知る立場になかったので知らないから聞いているのだ。問題が明確になれば改善する方法があるかもしれないから。」
「か‥‥改善など‥‥。そのようなご不浄のことは、お嬢様のような高貴なお方が考えられるようなことではありません!」
シンシアが顔を真っ赤にしてわたしに抗議する。
「それでなくてもお嬢様は‥‥」
「変わり者と言われている——か?」
「そ‥‥そのようなことまでは‥‥」
「わたしの村では肥料にしていました。」
アリシアが冷静な口調で話に割り込んだ。
「村中の家で出る汚物を溜める穴がありまして、そこでしばらく地の気に触れさせておくと良い肥料になるのです。畑の物成りも良くなります。」
なるほど。江戸システムの村落単位版だな。
「街や城ではどうしているのだ?」
農村へと持っていっているのだろうか?
しかしわたしの問いに、シンシアはただ顔を手でおおって首を振っているだけだった。
代わりにアリシアが答える。
「お城では庭に捨てる場所があって、そこに下僕たちがおまるを持っていって捨てています。」
「ただ捨てるだけなの?」
わたしの問いにアリシアは当然だろうという顔で「そうですが?」と答えた。
アリシアは護衛を務めるだけあって、世間の事情にも詳しい。
「街では庭がないので、窓から道に投げ捨てているようです。雨が降ればそれらはどこかに流れていきますが、長く雨が降らないと固まっちゃって大変みたいですね。」
道に投げ捨てる?
雨が降ったらどこかへ?
それ、川に流れ込むに決まってんだろ?
その川の水で水浴したり、その川の水でお風呂に入ってたわけか——?
きったね————————ぇ!




