8 もう一人の魔女
船にサラが戻ったとき、クルー達が騒いでいた.ゴードンが消えて仕舞ったと言う。
――ゴードン、転移出来たのね。でも、何処へ転移してしまったのかしら?
「母上、どうかしましたか?」
「ああ、ゴードンがどっかへ行っちゃったみたいなの。転移出来たのは良いけど、何処へ行ったのかしらね」
「案外、ヤーガイへ行ったのかも」
「まさか、一回出来たくらいで長距離は無理よ。ダンカンでさえ未だに出来ないのよ、長い距離は」
「ゴードン叔父さんは、魔力器が元々大きいのでしょう? 多分相当な距離を移動出来ると思うんだけどな」
二日後ゴードンが戻ってきた。
「ヤーガイまで転移してきた」
サラは凄く驚いている。ゴードンは得意満面だ。ダンカンと転移の話をして、ダンカンが未だに長距離が出来ないという話を聞いたからだ。ダンカンは、
「全属性というのはそれほど良い物では無い」
と言っていたのだ。闇が常時使えなければ、魔力効率の悪い転移は難しいそうだ。
クラーケンを倒した話を皆にした。サラは厳しい顔をしている。
「ゴードン、もしまた行くというのなら、パーティーを組まなければダメよ。そんな危険な魔物を一人で倒すなんて、正気の沙汰とは思えないわ」
「ああ、今回のことで身にしみた。慢心は良くない」
「そうね。で?」
「何か? で、とは?」
「クラーケンを倒したなら、ドロップアイテムは凄い物に決まっているわ。何だったの?」
「それは知らない。持ってくる余裕は無かった」
「勿体ない! ねえ、また行きましょう。今度は私もついて行く」
「もし行くというのなら、長い槍が必要だ。剣ではギリギリだったぞ。あと、レオンからの伝言だ。「サラ、ソロソロ交代してくれ」だそうだ」
「ええーーっ! これから面白くなりそうだったのに」
サラは、「こめ」を仕入れたいから、一度連れて行って欲しいと言い出した。転移が出来る様になったゴードンにはたやすい願いだ。直ぐに魔女の湿原へサラを連れて行った。
サラは大量の「こめ」を仕入れてヤーガイへ戻っていった。
「火山へ行って見るか」
ボッサムもそれが良いという。彼等の子どもを宿した魔女がそこに居るはずだ。困っていないか様子を見たい。
直ぐに転移をして行きたいが、魔力が心許ない.歩いて行った方が良さそうだ。
半日待てば、魔力が補充されるが、そのまま歩くことにした。
火山が近くなってくると、火山から煙が上がっているのが見える。
「噴火したのか! 魔女は大丈夫なのか?」
急いで火山まで転移すると、噴火では無いことが分かった。
「戦っているようです.一体どんな魔物が……」
煙が上がっている場所まで近づくと、魔女達が向かい合って魔法の応酬をしていた.一方はゴードンも知っている魔女だが、もう一方は見たことがない、小柄な魔女だ。
――まだ、生き残りがいたようだ。だが、何故戦う? 同じ種属では無いか。
お互いの間に、異空間を作り出した。魔女達が放った魔法はそこに打つかって消えて仕舞った。
ビックリした魔女達は、振り返ってゴードンを見た。
「君達は何故戦っているのだ!」
「……」
「あ、貴方は。我らは子のために戦うのじゃ。子は魔力を多く必要とする。ここに二人も居たら、魔力が心許ない。だから戦って、場所を確保するのじゃ」
「こんなに魔力が濃くても、足りないというのか? 仲良く分け合うことはしないのか?」
「……これが魔女の性じゃ。より強い魔女を残すための戦いなのじゃ……仕方あるまい」
もう一方の魔女は瀕死の状態だった。それでも諦めてはいないようだった。黒い大きな一つ目を見開き身体に傷を負いながらも、魔法を放とうとしている。
ゴードンは、魔女が滅び掛かっているもう一つの理由に納得したが、このままにしておけば、小さな魔女はまもなく死ぬだろう。
子どものために、強いものだけが生き残るという魔女達に組み込まれた性。呪いのような生き様にに哀れを感じた。
「そうか、分かった。私が魔力が多い場所を知っている。そこへいく気は無いか?」
瀕死の魔女は、縋るような目で懇願した。
「私を、そこへ……連れて行って……くれ、ますか?」
「ああ、良いとも。だが、洞窟の中だが、構わないか?」
「ええ、魔力さえあれば生きていけます……このお腹の子も」
小柄な魔女に治癒魔法を掛け、暫く魔力が溜まるまで待ってもらい、ゴードンは魔女を連れてダンジョンへ転移した。
「ここは凄く魔力が濃い。こんな場所があったとは知りませんでした。ありがとう」
「感謝はここの場所のことを聞いてからにしてくれ。ここはダンジョンといって強い魔物が出る。それを倒さなければ、殺されて仕舞うのだぞ」
「そうですか。結構なことです。子が生れれば子を鍛えることも出来ます。願ってもない良い場所を教えていただきました」
小柄な魔女は、「惑わしの島」に住んでいるという。そこで、北の大陸と南の大陸の行き来をさせないようにする使命を先祖から受け継いでいるのだと言った。
何千年も連綿と受け継いだ使命を次代に受け継がせるためだけに生きている。
「私の島にはこの大陸の人々や、貴方の大陸から来た人もいます。彼等はあの島から出ないように囲って居るのです。私を非道だと思いますか?」
ゴードンには人を非難する資格は無い。ましてや魔女の生き様を非難など出来ない。魔女等は自分達の生き残りをかけて戦っているのだ。
「ここに居れば、私は子を産んだ後でも生きられそうです」
「もう一度子をもうければいいでは無いか」
「私達は、子を産むとき子袋ごと生み出すのです。一生涯に一度だけしか子を産めません」
何とも、神の摂理の苛酷さを感じる。魔女のような並外れた力はそれなりの代償が伴うのだろう。
魔女とは、大変苛酷な生き様をするようだった。
人生の殆どを孤独に過ごし、子をもうけて育て、その子とも直ぐに別れねばならない。
魔力が足りない場所に住む魔女は、子のために自ら魔力失調症になってまでも、子のためにその場所を明け渡すのだといった。小柄な魔女に聞いた話は、人間では考えられない物だった。
ヤーガイ国の魔の森もここに比べれば魔力が薄いのだろう。あそこに居た魔女の母親もそうやって死んでいったのかも知れない。
――見た目は殆ど人間と変わらなくても、やはり違う種属なのだな。
「私達は、偶にここへ来て魔物を倒す。君はここに居て他の人間に見付かっても大丈夫か?」
「ええ、認識阻害の魔法は得意です。だれにも見付けられないでしょうね」
魔女は初めの広い部屋へ行き、魔物を倒し、部屋の奥へ行き結界を張って静かにしているという。
じっと、子が育つまでそうしているというのだ。
――本人がそれで良いなら、こちらが何か言う権利は無い。放って置いても良さそうだ。
ゴードンは船へ戻る事にした。
暫くするとレオンが来た。また息子を連れてきている。ここでレベルを上げるのはとても効率が良いと言っている。
「後数年すれば、次の子をここへ連れてこようと考えているんだ」
そこでゴードンは魔女の話を切出した。魔女は認識阻害が得意だといったがレオンや子どもにはバレてしまうだろう。話して置いた方が良いと思った。
「何と! 魔女が此処に居ると言うのか。会って話を聞きたい」
「そっとしておけ、今腹に子が居るのだ。見ない振りをしてやれ」
「何年もかかるのか?」
「五年経たないと生れない。その後はダンジョンで子を鍛えながら、数十年掛けて色んな事を教え込むそうだ。大変な子育てだな」
「そんなに……魔女とは不思議な生きものだ。是非研究したいが、それは適わないのだな」
「ああ、彼女達は生きるのに精一杯なのだ。見ない振りが一番魔女のためになる」
ゴードンも自分の初めての子ではあるが、見に行ってはいけないだろうと考え直している。子が大きくなる頃はゴードンは生きてはいないだろう。種を与えただけの存在なのだ。
ゴードンはこの入り江から、出て行くことにした。もう転移は使える様になった。これ以上何も望むことは無かった。
最後に、小柄な魔女に聞いた、北端にあるニーノという町に立ち寄りヤーガイへ帰ることにする。
「やっと帰れそうでヤンス」
クルー達が話しているのが聞こえた。彼等に長い間付き合って貰った。ヤーガイへ戻ったら、宝箱を分け与えよう。
この南の大陸はこのままそっとしておいた方がいいだろう。ここに生れる人々はこれからも魔法とは縁が無い暮らしを続けていくだろう。
魔女の呪いのせいで、彼等には魔力器が出来なくなってしまったのだから。
魔女にとっても呪いだったろうが、増えすぎなければこのままこの大陸で、魔女は生きていけるだろう。
人間さえ魔女にちょっかいを出さなければ、時が止ったような世界が続くのだ。
ニーノの港に着いた。レオンも一緒だ。
「レオン、私は転移が使える様になったのだ。食糧は私が取りに行けるぞ。レオンはダンカンの面倒を見て居てくれれば良いのだ」
「そんなことを言わないでよ。僕だってここに興味があるんだ」
ニーノの宿屋へ泊まることにする。両替屋があったので、金塊をこの通貨と換金して貰ったところ、やはり、北の大陸とは違う通貨だった。
「金の含有量が多いな。金がよく採れるのか?」
「いや、そうとも限らないのでは無いか。金貨を使う頻度が少ないのかも知れない。金の価値は高そうだぞ」
高級そうな宿を取ってみたが、かなり安く泊まれた。金貨一枚でクルー二十人が泊まれたのだ。ヤーガイでは五人がせいぜいだ。
交代で陸に上がることになる。船に留まるクルーと街に泊まるクルーだ。クルー達は久し振りの街の雰囲気に喜びながら街の中へ消えていく。娼館を探しに行ったようだ。
――今夜は宿を取る必要はあったのか?
クルー達にはそれぞれ金貨を持たせているので、かなりサービスして貰えるだろう。
「ここは小さな街だが、これでも国では一番の街だそうだ。南の大陸の人口は全盛期の百分の一にも届いていないだろう。魔力枯渇の折に人口が激減したんだな」
その後も食糧は少なく人は増えなかったようだ。大陸の南や、海岸沿いにも国があるそうだ。それぞれと交流があるようだが、文化のレベルもかなり後退している。
「あの遺跡を見た後だと見劣りする。道はでこぼこだし建物は粗末な造りだ。法の整備すらいい加減なものだ」
「他にも森に飲まれてしまった遺跡があるだろうな」
「ああ、だが、どれも似たような物だろう」
「今度は僕一人で探索できそうだ」
レオンはゴードンが帰れば、入れ替わりでここへ調査に来るだろう。ゴードンにダンカンを押し付けて。
港に入港する前、船から海を眺めると、小さく島影が見えた。あれが認識阻害が掛かった小柄な魔女の島なのだろう。ここの船乗り達の話を聞いてみると、北の海域には危険な魔魚や魔物がいるため行かないのだと話していた。
彼等にはあの海域の島影は見えないようだ。危険な生物が居れば、態々近づかないのもうなずける。あそこに島があるとも思っていないのだろう。
「こんなに近くに在るのに」
「北には用がないのだろう。殆どの船は南航路だ。南に向かって交易しているようだ」
この町に一ヶ月滞在して、そろそろ帰ろうという頃、ニーノ奴隷市が開かれると聞いた。
ニーノ奴隷市は年に一度開かれるそうだ。この町にとって大々的な祭りで、大きな金額が動くのだという。
「奴隷とは、何処の世界にもある物だな。祭りだというのなら、クルー達も興味があるだろう。少し見てからヤーガイへ帰るか」




