7 迷宮という新たな挑戦
次の日、レオンがまた転移してきた。
「サラに聞いてきたんだ。サラはこの洞窟はダンジョンだと言っていた」
「ダンジョン? なんだそれは。聞いたことが無いぞ。何故サラはそんなことを知っているのだ」
「・・・・・サラのことは他には話さないようにしていたけど、もう話しても良いだろう」
レオンが言うにはサラは、この世界では無いところで生れ、こちらに引き込まれて帰れなくなったのだと言った。とても信じられない話だった。だが、ダンカンさえも知っているという事実にゴードンは怒った。
「何故、今まで話してくれなかった? 私にまで秘密にすることか? 私がそれを知って不都合でもあるのか!」
「……いや、その内話そうとしたんだが、すっかり忘れて居ただけだ。ごめん。兎に角、サラのいた世界では、架空の話としてだが、迷宮という物が知られていたそうだ。迷宮、ダンジョンと同じ物だ」
「架空だと! それがここの洞窟だというのか?」
「ああ、サラもここへ来たがっているんだ。だからサラのゴーレムを持ってきた」
そう言ってサラが造ったという、子犬のゴーレムを渡された。
――サラがここへ来るというのか? 可愛い子犬だ。サラに似ている。
「まあ、態と黙っていたわけでは無いのなら、許そう。サラが来たがっているのなら、いつでも来て良いぞ」
「ゴードン……サラは僕の妻だからな!」
「何を当たり前のことを言っている。分かっておるわ」
二人で王宮を抜けられないために仕方なくレオンは了承したようだ。まだ、ダンカン一人にはしておけないと言うことだろう。
久し振りにサラと会えるとなってゴードンの機嫌は一気に良くなった。
「サラが言うには、「こめ」をもっと欲しいそうなんだ。彼女がいた世界ではよく食べられていたらしい。凄く興奮して、いくら止めても手に負えないんだ・・・・・」
――そうか、本当はサラにはここへ来て欲しくなかったんだな、レオンは。
翌日、サラが来た。長男のバスティアンを伴って。
「久し振りゴードン! どう? 順調に探検できている?」
サラは自分が作ったゴーレムを直ぐに回収して仕舞った。
多分子犬はサラのお気に入りなのだろう。
「ああ、新しい事実が分かってきてとても有意義な旅だ。私はまだ帰れないだろうな」
「そうね、凄く刺激的な経験だわ。うちの子にも経験させたくて連れてきてしまったの。足手纏いでしょうけど暫く一緒に居させて」
――暫く……と言うことは直ぐには帰らないと言うことか。そうか。
「良いとも、一緒に冒険しよう」
「ふふ、ゴードンったら、若返ったみたいよ。余程愉しいのね」
「ああ、愉しいよ。今まで国の為に自由が利かなかったが、今こそ自分の人生を謳歌していると実感している」
サラの一番小さな子は、まだ3歳にもなっていないはずだ。待望の女の子を置いてきてまで、ここへ来たかったと言うことだろう。
「サラ、君たちの愛娘、メグライアはどうしている?」
「とっても元気よ。レオンが凄く可愛がっている。メイドもいるし、大丈夫よ。それよりダンジョンよ! 今度はいつ行くの?」
「明日にでも行こうと思っている。準備が必要でね」
「食糧なら私、沢山持ってきたの心配しないで。それに、ダンジョンはレベル上げに最適だわ。その為にこの子を連れてきたの。ねえ、バスティアン!」
「はい、僕は属性が一つしか無いから、増やしたくて母に着いてきました。母には鍛えて貰って居ます。決して足手纏いにはなりません」
そう言えば、サラは剣豪の域に達していたほどの剣の使い手だった。可愛い見た目に騙されてはいけなかった。彼女はおてんばも良いところなのだった。
バスティアンの属性は光だという。今回は闇を取りたいのだと彼は言った。
「闇を? 空属性では無く?」
「はい、まず闇を取って、それから他の属性を取った方が効率が良いと父が言っておりました」
崖の上の農村にいたクルーが交代のため戻ってきた。彼等は村人から不可解な言い伝えを仕入れてきた。
「この入り江には呪いが掛かっているから誰も入ってはならないと言うことで。わし等がここに停泊しているというと辞めた方がいいと言われました」
ここの入り江はよく知られているようだ。昔ここへ来た海賊が総て一夜のうちに消えて仕舞ったと言う。
「ダンジョンに入って出られなくなったのだろう。呪いなどでは無い」
「……そうですか。ダンジョン?」
「まあいい、その内、呪いなどでは無いと教えてやれる。この入り江は村にとっても有益な物だ。危険が無いと知れば利用するようになるだろう」
「そうですな。ここは船にとっては理想的な入り江です。ここに船が来るようになれば、村も助かる事でしょう」
船長もゴードンの言うことに理解を示した。海の男は普段迷信に左右されやすいが、ゴードンやサラ達の話を聞いて、ダンジョンに興味が湧いたようだった。
次の日、サラと息子のバスティアン、ゴードン、ボッサムは、クルーの漕ぐ小舟に乗って洞窟へ入った。
クルー達はゴードン達を置いて船に帰って貰う。サラが居ればこの先転移で移動出来るためだ。一度場所が分かれば、転移出来る。転移とはなんと素晴らしい物だ。
「サラ、ダンジョンはどうやって出来る物なのだ?」
「さあ、よく知らないわ。私が昔居た世界には無かったもの」
「ッ! 無かったと? では知っているというのは嘘か?」
「知ってはいるのよ。空想の世界のものなの。私達の世界では、魔法も無かった。でも空想で色んな小説が書かれていた。偶に私も読んだものよ。ある小説には、ダンジョンは生きものだというのがあった。魔物の一種で、ダンジョンに入ってきた獲物を食べて成長するというのがあった。ここのダンジョンもそうかも知れないわ」
海賊の亡霊も、このダンジョンに食われたと言うことか?
サラは、ダンジョンの壁を叩いたり摩ったりしている。なにをしているのだ?
「何だかこのダンジョン、サザエの内側っぽい。貝の魔物かもね」
――貝、こんなに巨大な貝の魔物がいるというのか。
海の生き物は巨大になりやすい。サラが言う通りなのかも知れない。ここは魔力が濃い。この魔力は地力のせいもあるだろうが、魔物の内部だからというせいかも知れない。
「私が読んだ小説では、ゴードンが見付けた宝箱が出るのは、ボスを倒すと出てくる物よ。でも、始めに出てきたのは、海賊があそこに隠そうとした宝なのかもね。海賊達は洞窟が宝の隠し場所に丁度良いと考えてここに来て、ダンジョンに喰われて仕舞ったのでは無いかしら」
サラは独り言ち、そしてどんどんと奥へ歩いて行く。全く警戒しているようには見えなかった。
広い部屋に着いた。サラの周りに皆が陣取る。何があってもサラを守ってみせる。
亡霊が出てきた。前回と同じ亡霊だ。こいつは復活するのだろうか?
ゴードンがヒールを使おうとすると、バスティアンがすかさず
「ヒール!」
海賊の亡霊は瞬く間に消え、後には真珠の首飾りが落ちていた。
「宝箱は出なかった。残念!」
バスティアンはそう言って真珠の首飾りを拾い先を目指す。
前回は気が付かなかったが、先へ続く通路が現れていた。
通路を進む内、通路が広がっているように見える。
「母上、僕の剣でも倒せる魔物が出たら、例の奴お願いします」
「任せておいて」
そうだった。バスティアンはレベルを上げたがっていた。魔法で離れた処から倒していては、魔力器が膨れない。
サラはレオンやダンカンのように雷を使える様になったのだろうか?
「来たわよ! さあ準備して」
準備? 何の?
「闇の投網!」
気が付けば、魔魚と思われる三メートルほどの魚が空中で動けなくなっていた。
そこへバスティアンが剣で何度も突き刺している。そして大きな魔魚は消えて仕舞った。
「グワッ! 苦しい!」「バス!教えたとおりにやるのよ!」
「や、闇渡り・・・・・」
周りには次々と魔魚が湧き出してくる。それをサラの闇の投網が拘束していくのだ。ゴードンは慌てて剣で突き刺していく。ボッサムも同じように倒していった。
具合が悪そうだったバスティアンが回復したようだ。そしてまたサラの投網に拘束された魔魚を突き刺す。それを延々と繰り返し何時間経ったのだろう。
「そろそろ終わりそう。暫くここで休みましょう」
サラは結界を張ったと言うが、全く分からない。ゴードンの結界とは違うのだろうか?
「どれくらいまで出来る様になった? バス」
「闇の結界が出来る様になりました」
「そう、もう少しね。そこまで出来たら今度は空属性にする? それとも雷属性?」
「雷にしようかな。母上のような闇の投網はまだ使えません。雷ならレベルが低くても効果的に魔物を拘束できそうです。そうなれば、一人でもレベルが上げられます」
流石はレオンの子だ。論理的に考えて、いかに効率よくレベルが上げられるかを研究しているようだ。
「兎に角若い内は属性を増やす事に専念したい」
若いというのは良いな。成長が顕著だ。ゴードンは自分にはもう無理だろうと気落ちした。
――あれほど魔物を倒しても魔力器が反応しなくなったのだ。私の成長は終わったのだろうか。
「サラ、空属性を先にやらせなくて良いのか? 親和性の問題があるだろう?」
「そうね、今まではそう言われていた。でも、レオンは闇の収斂が出来る様になったの。彼が言うには親和性も大事だが、魔力器を大きくする方がもっと大事だそうよ。魔力は年を重ねても少しずつだけど成長し続ける。鍛えればね。これからは属性が多くても器用貧乏なんて言われないわ」
随分研究が進んでいたのだな。もっとレオンの話を聞くべきだった。ゴードンはもう一度頑張ってみても良いかもしれないと考え直した。
事実ボッサムが魔力硬化をしたのだ。彼は闇の属性が増えたのだ。
「ゴードン、魔魚のドロップした鱗、使えそうよ」
「ドロップ? 鱗など何に使うのだ?」
「綺麗だもの、きっと欲しがる人は居るわ。アクセサリーになるかも」
サラは二十㎝はあろうかという虹色に輝く鱗を光に翳してみている。
「欲しかったらサラが持っていけば良い」
ダンジョンでは魔物が消えて仕舞う。魔物が落す物をドロップアイテムと言って、価値が高い物があると言う。
ゴードンはもう宝箱を拾ったのだ、鱗など全く興味が無かった。この次こそ魔力器を大きくしてみせると、密かにゴードンは気炎を上げた。
一日中魔物を倒し続け、一息ついた一行は船に戻った。
「まだ何度もくる必要がある。もっとここでレベルを上げたい。母上、ゴードン叔父さんと一緒に居たい。僕を置いて行ってくれませんか?」
「ダメよ。約束したでしょう。無理はしないって」
「……はい」
「バスティアン。私はここに数ヶ月居る予定だ。いつでも来なさい。待っているから」
「ありがとうございます!」
サラ達は一旦ヤーガイへ帰っていった。
サラは帰るときゴードンに、
「レベルを上げるには雷が無くても良いのよ。影渡りで魔物を倒せば効果的なのに、バスは焦りすぎなのよ」
と教えてくれた。サラは子どもの自主性を大切にしているから余計なことは言わないようにしていたようだった。
ゴードンは、自分の属性を使い熟していなかった。折角闇を増やしたのに結界しか使っていない。サラ達は、沢山研究して使い熟し、新しい使い方まで発見しているというのに。
それからは、ゴードンとボッサム、若いクルーの四人は、ダンジョンでレベル上げに精を出した。
若いスティーロムとコーベックは直ぐにレベルが上がっていく。一ヶ月もすると、属性が増え始めた。彼等は元々が風属性だったが生まれつき魔力が少なかった。しかし、ここで魔物を倒していく間に魔力器がすこしづつ大きくなっていき、遂には新たな属性を増やす事が出来たのだ。
生まれつき魔力器が小さい者は属性を増やす事は不可能だと言われていたが、ここでもレオンの仮説が正しかったと証明されたのだ。二人は涙を流しながら喜んでいる。
勿論増やした属性は闇だ。闇があれば応用が利くのだ。更に魔力効率も良い。
「僕ら、国へ帰ったら、魔法大学校へ行きたい」
二人はそう言って将来の希望を語り合った。
「そうか、頑張れ。さあもう少し魔物を倒そう」
ゴードンは、ダンジョンの奥へと進んで行く。今まで危険だからと同じところで魔魚を倒していたが、そろそろ先へ行ってみても良いだろう。
広い部屋に辿り着き、そこに大きなエビが陣取っているのが見えた。
「ゴードン様、あれは……エビですよね」
「ああ、エビだな。十メートルはありそうだ」
広い部屋なのにとても狭く感じる。
「堅そうだ、剣の刃が通るのか?」
「普通の甲殻類は、目の間から腹に掛けて神経が通っていますが……魔物はどうなのか分からないですね」
話している間に、巨大エビは大きなハサミをカツンと打ち鳴らした。
その衝撃で、若い二人は気絶してしまった。
「衝撃波か! ボッサム二人を頼む!」
生きものなら、火には弱いはずだ。魔力を吸収出来ないが、この際そんなことには構っていられない。生きて帰ることが肝心だ。ゴードンは極大の火炎放射をエビに向けてはなった。
エビは苦しそうに縮こまろうとするが死にはしなかった。
「仕方が無い。目の間が急所だったな」
ゴードンは影渡りで巨大エビに近づき、剣を逆手に持ち替えて思いっきり眉間に突き刺した。
エビはビクンと飛び上がり仰向けになる。剣をそのまま腹まで一気に滑らした。腹は甲羅とは違い意外に剣が通った。
エビは消え、ゴードンに大量の魔力が流れ込んできた。あっという間に魔力器が硬化し始める。ゴードンは慌てて魔法を放つ。それでもまだ硬化していく。更に魔法を放ち、やっと硬化が収まった。
ゴードンは空属性の時空間収納が使えるようになっていた。目の前に一メートルほどの黒い空間がぽっかりと空いている。その中にエビのドロップアイテムを入れると瞬く間に吸い込まれていった。
「ここに何度も来てレベルを上げよう。転移が使える様になるかも知れない」
ゴードンの目には希望の輝きがあった。
エビが落したアイテムは、大きなハサミだった。
――これは何の役に立つのだ? 取り敢えずこのまま保管だな。
それからは、このエビの魔物はゴードンにとってレベル上げの格好の獲物になった。毎日泊まり込みでエビと戦い続けやっと転移が使える様になった。たった二メートルの距離だが。使える様になったのだ。ゴードンは天にも昇る心地だ。
まるで、ダンジョンに取り付かれたようになって、その先に進むことしか頭になかった。
「ゴードン様、まだ続けられますか?」
「ああ、もっとレベルを上げたいのだ。君たちは船に残ってくれて構わない」
あれから、レオンも食料を持って来たが、ろくに話もしないでダンジョンにのめり込んでいった。
船のクルー達は近くの村へ行ったり、村から更に先にある国へと行って情報を仕入れてきていたが、ゴードンは、それらにも興味をなくして仕舞っていた。
サラがまた転移してきた。今度もバスティアンを連れている。
「ゴードン叔父さん。またお世話になります」
「ああ、また一緒にダンジョンへ行こう」
「ゴードン話があるのだけど」
サラが、ゴードンを見ながらそう言った。
「ああ、では船長室で話そう」
「ゴードン、貴方もうそろそろヤーガイへ帰らない?」
「何故だ? 国でやっかいごとでもあったのか」
「それは無いけど。このままここにじっとしているのは変よ。ダンジョンに取り付かれてしまったみたいに見えるわ。レオンも心配していた。どうしてしまったの?」
「サラ。私は転移が使えるようになりたいのだ。君達のようにな。だから、もう暫くそっとしておいて欲しい。あと少しなのだ」
「そうだったの。分かったわ。だったら協力しましょう。何処まで出来る様になった?」
「五メートルまでだ」
「え! 転移がもう使えるの? 時空間収納も! 凄いじゃ無い! それならもう直ぐだわ。後は大きな魔力を沢山吸収すれば良いだけ」
サラの助言で、もっと強い魔物を倒すことにした。
ゴードンとサラ達は別行動しなければならない。ゴードンの行くダンジョンの階層はバスティアンには危険過ぎるためだ。
「私の事は心配するな。お前達が居れば返って足手纏いになる」
そう言って護衛も付けないことにした。ゴードンは一人エビがいた広い部屋の先を目指す事にした。
巨大エビをサクッと倒し、ハサミを収納に治め、先に続
く通路を空歩で素早く移動する。空属性のレベルが上がり、途端に使いやすくなった空歩だ。
ゴードンにはもう一つ使える様になった魔法があった。まだ誰にも言っていないゴードンだけの魔法だった。
先ほどのエビにも使った。エビの身体半分だけを異空間に入れるのだ。これはどのような魔法なのか良くは分からない。ゴードンが思いつきで発見した方法だった。
「空間を切り裂く魔法は出来ない物か」そう考えながら魔法を放ったら、出来てしまったのだ。
エビの身体の真ん中辺りに異空間を造るとエビは真っ二つになってしまったのだ。エビの残された上半身からは水色の体液が流れ出し、瀕死の状態だ。剣で眉間を刺してとどめを刺すと、エビの上半身は消えていき、ゴードンに魔力が流れてくる。そして異空間に入れていた下半分を取り出すと、消えずにそのまま残っているのだ。時空間収納へ入れ直し持って帰り皆で食べてみたが、毒は無く非常に旨かった。今回も持っていってやろう。
「この魔法は不思議だ。異空間といえるのか?」
この空間の中は時間が普通に進んでいる。長くエビを入れておくと腐ってしまうのだ。
もう一度異空間を作り出し、じっくりと見てみる。中に入れそうだが、自分が真っ二つになってはたまらない。試しに今取り出したエビの半身をもう一度入れてみる。ドアのような入り口の先にある異空間を観察してみる。
「途中で止めても切れないようだな。異空間を作り出すときだけか? 危険なのは」
ゴードンは思いきって持っていた剣を入れてみると普通に入った。意を決してゴードンも中へ入ってみた。中は五メートル四方の白い空間だった。普通に息も出来る。魔力は濃い。この魔力はゴードンの物だろう。不快感は無かった。
「これがあれば、結界を張る必要は無さそうだな」
だが、一時間もすると魔力切れの兆候があった。空属性は魔力効率が悪いと言われていた。確かにこれでは休憩するのがせいぜいだ。野営は出来ない。
「まあ、レオンに後で見せて検証して貰おう」
新しい事が出来るようになり益々ゴードンは愉しくなっていった。
空歩も魔力効率が悪い。影渡りに変えて先に進んだ。途中に出てくる魔魚がうざったくなったせいだ。
「魔魚など時間の無駄だ。早く先に進みたい」
広い部屋が見えてきた。これまでの部屋の二倍の大きさだ。かなり大きな魔物がいることだろう。
影渡りのまま、部屋に入るとクラーケンがいた。クラーケンは海の悪魔と言われ船乗り達にはよく知られた魔物だ。
ゴードンは見るのは初めてだが、聞いたことがあった。
取り敢えず、火魔法を放ってみた。少しは効くようだが、大きさが馬鹿でかいため効果は限定的だった。そして焼けただれたところが瞬く間に再生して行く。
「やっかいな特性があるな。再生速度が速い」
クラーケンの弱点は、頭と足の間にある眉間のはずだ。
余りの大きさで、剣は奥まで刺さらないかも知れない。
だから、クラーケンの眉間めがけて異空間魔法を放った。しかし大きな足に遮られて、足が一本空間に消えただけに留まってしまう。二度試して魔力切れになってしまった。
フラフラになって、影に隠れるのが精一杯だった。
クラーケンは、ゴードンが消えた辺りに足を伸ばしてくる。このままではやられてしまう。油断してしまったのだ。ゴードンは仕方なく影渡りに切り替え、クラーケンの後方に回り、魔力が回復するのを待つしか無かった。
影に隠れながら、ゴードンは考えた。
――火魔法は効いたのだ。土の槍に火魔法を纏わせて、眉間に突き刺せばどうだろう。
ゴードンの持っている中では今のところ一番威力がある魔法なのだ。魔力が一杯になるまで考えに考えた。ここから逃げ出すことも考えたが、逃げ出せるだろうか?
――サラは、言っていなかったか? 階層ボスを倒すまで後にも先にも行けないと。
自分が入ってきた通路を見ても何も無い。ゴードンは今まで考えていなかったのだ。出会った魔物を総て倒してきたので、後に引くことは出来ない事など全く気にしなかった。
「慢心は身を滅ぼす。馬鹿だな私は」
クラーケンは長い足でゴードンをしらみつぶしに探し始めた。広い部屋だが、クラーケンの足は太くて長い、その内に捕まって仕舞いそうだ。
「一か八かだ。このままではじり貧だ!」
クラーケンが高く上げた足の間に鋭く大きな牙が見える.そこにめがけて転移し、残った魔力で土の槍に火を纏わせ牙の間に打ち込んだ。火を纏った土の槍は凄い勢いでクラーケンに突き刺さり、腹を割き抜けて出た。そこから内臓が噴き出してクラーケンは動かなくなった。だがまだ死んではいない、消えていないのだ。
魔力は殆ど無い。ゴードンはふらつく身体にむち打ち、剣を構えてクラーケンの目の間に思い切り突き刺した。
クラーケンが一時ビクンと硬直して、その後消えていった。
「生き残れた・・・・・」
魔力が大量になだれ込む。船に転移をするがそれでも硬直している。周りにいるクルーは突然現れたゴードンを見て驚いている。光魔法を放ってみる.今まで使えなかったパーフェクトヒールを。それでもまた魔力があふれ出し硬直する。
「くそ!こうなったらヤーガイへでも転移してみるしか無さそうだ」
半分諦めながら試したが、気が付くとゴードンはヤーガイ王宮の、以前の自室に転移していた。目の前にダンカンが居た。
「え? えええーーーーっ! ゴードンどうしたの?」
ゴードンはまた魔力切れをおこしそのまま気を失った。




