6 奇妙な洞窟
ゴードン達は、魔女の村の人に聞いた国へ行ってみることにした。その事を話し合って地図を見ていると、少し北側に船で移動すれば早く着くことが分かった。
「ここから六十キロ北上した処に小さな入り江が有ります。そこに船を停泊すれば、入り江からは徒歩五日で、着きそうですな」
船長が言ったとおり、よく見れば入り江のような地形が書き込まれていた。
「問題は食糧です。レオン様はそろそろ来て下さらない物か」
それをじっと聞いていたのかトカゲが「キュイッ!」と啼くとレオンが転移してきた。
「やあ、久し振りに来れた。サラに叱られてしまってね。呼ばれない内は来る事が出来なかったんだ」
「呼んだつもりは無かったが、トカゲは声も届けられるのか?」
「当たり前だろう。音が聞こえなければ状況が分からないでは無いか。何を今更……説明していなかったな」
あの時は出航のことで忙しかったから、説明を聞いていなかったのかも知れない。
レオンに魔女の村であったことを話して聞かせると、レオンは
「やはりそうだったか。僕も、ここから持ち出した書物を見てそうでは無いかと考えていた。ここに居た魔女は水に沈められて殺されたようだ。ここの管理をしていた役人の手記が残されていた。魔女の呪いのことは書いてはいなかったが……そうか、この大陸は呪われていたんだな」
「ああ、そうらしい。ここの呪いは大がかりだ。沢山の魔女が同じ呪いを掛けたのか、それとも強大な力を持つ魔女が掛けたのでは無いかと思う。生れる子ども総てに呪いが掛かっているようだ」
「僕ではどうしようも無い。これは未来永劫続く呪いなのだろうか?」
「それは誰にも分からない。私達が考えても仕方の無いことだ」
レオンから食糧を渡され、今後の予定を話し、魔女の湿原で仕入れた穀物をレオンに持たせてやった。
この穀物はゴードンの好みには合わなかったため、このまま持っていても邪魔になるだけだ。
レオンは穀物をじっと見て、
「サラが言っていた、「こめ」という物に似ている」
と言って、転移で帰っていった。
翌日、船に乗り込んで停泊できるという入り江を目指した。
「船長ここでヤンス」
木々に隠れて見えにくかった場所を小舟に乗って探していたクルーが見付けて先導してくれた。
「オオ、これは良い場所だ。かつて使われていたのか丈夫な船着き場も在る」
大きな船が、停泊できる十分な深さがあり、広すぎない入り江は、隠れた、見付かりにくい場所にあった。ここに居れば嵐が来てもやり過ごすことが出来る。
岩は階段状に加工されていて十メートルほど上に上がれるようになっている。
「若しかすると、昔の海賊の入り江かもな」
左側には小舟で通れるような洞窟があった。
「この洞窟に繋がっている先に何があるか分からん。気を付けて偵察してきてくれ」
入り江は大きな岩で囲まれて居て、その一つは洞窟となって海水が流れ込んでいる。奥は深くは無い様だ。薄らと明るいところを見ると陸地に通じているのかも知れない。
クルーが五人、小舟に乗り込み、洞窟を偵察しに行った。
もう一つのグループは崖の上を偵察に行く。
崖の上に行ったクルー達が帰ってきた。この上には村があると言うことだった。
「小さな村ですが、普通の農村のようです。食糧も分けてくれると言うことでした」
「そうか、では今夜は十人だけでそこへ行って様子を見よう」
残ったクルーの内数人は船のメンテナンスをするための材料を探しに崖を登って森を探索しに行った。
船にはゴードンと船長、十数人のクルーだけが残った。
「洞窟へ行ったクルー達の帰りが遅い。何かあったのでは無いか?」
「少し遅すぎますな。森へ行った奴らが帰ったら、いかせますか?」
「いや、私が行って見よう。魔獣が居たら私の方が対処しやすい」
ゴードンとボッサム、そしてスティーロムとコーベックの若い二人が一緒に行くことになった。
小舟を若い二人が櫂をこいで進めていく。洞窟は五メートルほどの高さがあり、幅は三メートルくらいだ。
「満潮の時はここはどうなるのだ?」
「天井ギリギリになりそうですね」
暗い海の中を覗いても深さはどれほどか分からない。波は今のところ静かなのが救いだ。三十分ほど小舟で進んでも先がまだ続いていて、陸地には到達できなかった。
「洞窟の中なのにほんのりと明るいのは、どうしてなのだろう」
「ヒカリゴケが張り付いているのかも知れませんが、僕にも分かりません。でも少しは見通せるので助かっています」
更に進むと漸く水深が浅くなってきた。コーベックが、長い竿を海中に刺して水深は一メートル五十㎝と言った。
前方に、小舟が舫いでいるのが見えた。
「ゴードンさん、あれはクルーの小舟です。ここに舫いで上陸したようですね」
「よし、私達も上陸しよう」
陸地は平らで歩きやすい。まるで人工物のようだ。
「古代の先人が作った隠れ家だろうか? ロマンがあるな」
騎士のボッサムがつぶやいている。確かに自然に出来たとは考えにくい。綺麗なドーム状の天井に、床は滑らかな大理石のようだった。ほんのりと床や壁が発光しているように感じられるのだ。
延々と緩い上り坂を上がっていくと、広くくりぬかれた部屋があり、そこにクルー達が倒れているのが見えた。
ゴードンは急いで彼等の様子を見たが気絶しているだけのようだ。安心して周りを見て、ここには濃い魔力が充満しているのに気付いた。
「彼等をここから連れ出そう。魔力にやられたようだ」
このクルー達には一人を除いて魔力器が無い。濃い魔力は彼等には酷だろう。
広い部屋から抜け出すと、彼等は気が付き、口々に話始めた。
「あそこには亡霊がいたんでヤンス。亡霊がおいら達に襲いかかってきたんでヤンス、そいで、やけくそになって光魔法を放ったんですが魔力切れで気を失っちまって」
この中で一人だけ魔法が使えるクルーの話だ。魔力切れを起こすほど魔法を放ったのか。光など戦いには向かない属性なのに、無我夢中だったのだな。
彼等は皆憔悴していて中々立ち上がることが出来なかった。
「本当に亡霊がいたのかもしれんな。出直してもう一度調べてみよう。まずは彼等を船に帰してからだ」
皆で船を舫った場所へ行こうとしたが、海面が上昇していた。
「満潮になったようだ。これでは洞窟を通り抜けることは難しい。干潮になるまで待たなければ」
「腹が減ってきやした」
「馬鹿、ゴードン王の前でそんなことを言うな!」
「構わん。確かに腹が減ったな。何も持ってこなかったのは不覚だった」
「お!魚だ、結構デカいぞ」
ゆったりと海面すれすれを泳ぐ魚影は気味が悪いほど大きかった。
ゴードンはその魚をめがけて土の槍を放つ。見事に命中して魚が浮かんできた。土の槍は素早く消しておいたため浮かんできたのだ。そうしなければ槍と一緒に沈んで言ってしまっただろう。魚は三メートルはあろうかという大物だった。
クルーの一人が素早く引き上げ、捌き始めた。
「ゴードン王、この魚、魔魚ですぜ」
「ン、そうか、では毒があるな。食べられないか」
「いや、内臓以外は食えそうだ。これで暫く持ちそうだ」
ゴードンの火魔法は、ここでも活躍し、皆で腹一杯になるまで食い尽くした。
「少なくとも干潮になるまでは六時間は待たなければなりません。ここでじっとしているしか無さそうです」
「いや、私は先ほどの広い部屋を見てくる。お前達はここで待っていなさい」
ふと、ゴードンはレオンを呼べば簡単に帰れるのでは? と考えたが、ここの洞窟に興味が沸いた。どうしようも無くなったらレオンを呼んで助けて貰おうと考え直した。
ゴードンの後を騎士のボッサムは黙って付いてくる。
広い部屋に着くと、そこには先ほどは居なかった、クルー達が言っていた亡霊がいた。
海賊の姿をした亡霊だ。ぼんやりとしていて、後ろの壁が透けて見える。
何やら叫んでいるような様子だが、声は聞こえなかった。
ゴードンは、火魔法を放ってみたが、すり抜けてしまった。風も土も試したが同じだ。闇はどうか? 多分効かないだろう。下手をすれば亡霊を活気づかせてしまうかも知れない。最後に残った属性は光しか無い。やけになって光のヒールをぶつけた。あに図らんや、亡霊は光魔法のヒールに当たって消えて仕舞ったのだ。
「光が弱点だったのか? 不思議な特性を持っているのだな」
亡霊が消えた辺りに宝箱が現れている。
――一体何なのだ? これは海賊の戦利品と言うことなのか?
宝箱を開けてみると、中には金銀財宝がぎっしりと入っていた。
「重すぎて持ち上げられないほどです。ここは一体どういう所なのですか?」
ゴードンに聞かれても分かるはずも無い。仕方なくレオンを呼ぶことにした。
「おおー呼んでくれたか! 来たぞ! 何か困り事かい?」
ワクワクしているレオンを見ていると何となくむかついた。取り敢えず今までの経緯を話して聞かせるとレオンは、
「僕にもよく分からないな。でも、凄い宝だ。これを持っていけば良いのか? 時空間収納なら幾らでも持って行けるよ」
ゴードンはここでもイラッとした。
――やはり、空属性を取るべきだった! なんと便利な属性なんだ。
今からでも遅くは無いのでは? 空属性を学びレベルを上げていけば、その内全属性になれるのでは無いのか? だが、よく言われる器用貧乏になって仕舞う恐れがある。仕方が無いことなのか。全属性のダンカンが羨ましい。
「これを持って行ってくれ。後、船まで転移して欲しい」
「分かった。任せてくれ」
船に転移するとクルー達が集まってきた。皆でどうやって助けに行くか話し合っていたらしい。洞窟に入っていきたくても満潮になってしまって、どうしたら良いか混乱していたようだ。
「ゴードン。僕は一旦帰るよ。また明日来る。じゃあ」
レオンはあっという間に帰ってしまった。




