5 魔女の住む湿原ウェダル
ここは国と言えるのか?
確かに魔力は薄く、広大な土地だが、殆どが湿原だ。人が住むには難しい。僅かにある堅い地面に葦を組んだような粗末な物を立てていた。
小さな高床式の小屋一戸に十人ほどが住んでいるようだ。まるで、未開の野人の国だ。全部で一千人くらいの・・・・・村だ。
水耕作をして生計を立てているようだ。収穫した物は、かなりの量で、隣の国へ売りに行く。彼等は魔の袋という魔道具を持っていた。それに大量の穀物や、ここで採れた薬草などを入れて遠くまで出かけていく。
――他にもまだ、人の住む場所があったと言うことか。
ゴードン達はここの作物にはなじみがなく、食べてはみたが美味しいとは思えなかった。だが、小麦と同じく保存が利くようだ。少しだけ金塊と交換して貰うことにした。
「貴方ガタには、魔力がカンジラレル。魔の力がツカエルカ?」
魔の力? 魔法のことだろうか。魔法ならここに居る四人皆使えるというと、老人は満足したような顔をして、付いてくるように言った。
少し高台になった場所に、村では考えられないような屋敷がそびえ立っていた。
ゴードンは嫌な予感がした。まるで、魔女の屋敷を模した造りだったからだ。
「ここには巫女様がスンデイル。巫女様はお美しいカタだ。キニイラレルト良いな」
屋敷に案内されて、応接間で待たされた。ゴードンは緊張して、指輪を触っていた。
部屋に入ってきたのは背の高い女だ。巫女と呼ばれた女は、顔の中央に五㎝ほどの大きな黒い目を持った、一つ目の異形だった。
ゴードン達は堂々と部屋の中央に立っている異形の者を息を呑んで見つめる。
巫女はゴードン達の表情を見て、ハッとして慌てだした。
「誰かある! この者達をここから引き立ててくりゃれ!」
多分これは魔女だ。魔女はゴードン達に認識阻害か、魅了を掛けていたはずだ。それが全く効いていないことに、慌てだしたのだろう。
「貴方は魔女ですか?」
「・・・・・以前そう呼ばれていたことはある。何故貴方たちに魔法が効かない?」
「特別な方法があるのです。私は魔女の、巫女の話を聞きたい。見た目を気にしなくとも良い。私も以前は異形の者であったのだ。人の見た目は気にならぬ」
魔女は観念したようだ。ぽつりぽつりと話し始めた。
「この村の住人には、認識阻害を掛けておる。彼等は私の為に働いて、私は彼等の生活できる環境を保っているのじゃ、相互依存の関係だと・・・・・私は思うておる」
村人には認識阻害だけを掛けてなるべく接触しないように生活していたようだ。土地の魔力を吸って人が住みやすくしたり、怪我人を直してやったりと、村人には有り難い存在なのだろう。
「私達は、北の大陸からやってきました。以前私のヤーガイ国にも魔女がいたと聞いております。何故私の国へ魔女が来るようになったのかお聞きしたい」
「これは、おばば様から聞かされた話だが、六百年前に魔女の虐殺が相次いだ。未だにそれは続いている。それで逃げていったのではないだろうか。私のおばば様もここに隠れ住むようになったのじゃ。ここは金竜に守られておる故、安心出来た」
ここに住む内に人間の街は次々に人が住まなくなっていったという。二百年もすると、人がここに住み着くようになってきた。ここは魔女が魔力を適度に吸っているため作物が豊富で毒が含まれないためだ。
そう言えば魔獣も入ってこられないようだ。魔女に守られて、村人は安心して住んでいる。確かに、相互に助け合っているように感じられた。
「これ以上人が増えないように、おばば様は周りに結界を張ったのじゃ。だから、滅多に外の人は来る事は無い」
――私達は、魔女の子をもうけるために連れてこられたと言ったが、四人も?
「私達巫女は一生に一度、番った分だけ子をもうけることが出来る。巫女の数が減りすぎたのじゃ、少し増やそうと思うての」
魔女は150歳になると言う。魔女の母親は魔女を産んで直ぐに人間に殺されて、おばば様に育てられたのだと言った。魔女のおばば様は450歳まで生きたという。
魔女は魔力が濃い場所では長く生きるのだそうだ。そして、魔力の多い相手と番うと、魔の力が多い子を作ることが出来る。その為に村人はゴードン達を選んで連れてきたのだろう。老人達には魔力が感じられる技能が備わっていた。
「お願いじゃ、其方等には魅了など使わぬから、何とか種をくりゃれ。一人でも良いから。魔力がある人間は中々貴重なのじゃ」
ゴードンは不思議に思った。この大陸は魔法文明が盛んだったはずだ。なのに魔力持ちが貴重だという。それを聞くと、魔女は渋々話し始めた。
「魔女は、巫女は殺されるときに呪いを……この地の人間に放った。この地に生れる人間には魔力器が無く生れると」
――と言うことはもうこの大陸の人間は一人も魔力を持たないと言うことか!
「気配を探ってもこの大陸には、巫女は私だけになってしもうた。我らは呪いを放ち、自分の首を絞めたのじゃ。人を呪わば穴2つ。呪いとは恐ろしい物じゃ」
「ゴードン様、先ほど話されたことは本気ですか?」
「ああ、本気だ。お主等には強要はせぬ。あの見た目が気味悪いと思えば辞めた方が良かろう。相手に対しても、迷惑になる」
「ゴードン様は平気なのですか?」
「ああ、私も元は異形だ。見た目には捕らわれないようにしている」
「……」
「僕は、何となく可愛い…………と思っちゃいました。魔女は一生懸命村人のために尽くしていましたし」
一番年若い16歳の言葉だ。多分そっちに興味が沸いたのだろうが、魔女との睦み合いはどのような物なのか? 人と同じだとは限らないのだ。
「私は覚悟を決めました。ゴードン様について行きます!」
そんなに覚悟を決めるほどでは無かろうに。いつも通りでは無いか。人間と同じならば、娼館と変わらないのだ。
ただ、魔女の言う通りだとすれば、必ず子が出来るだろう。ゴードンにとっては初めての子だ。我が子を置いて自国へ帰ることなど出来るだろうか?
皆の意見を纏めると、皆魔女と番うことに決まった。その事を魔女に話すと、余りの喜びに失神してしまった。
「だ、大丈夫か? 気を失うほどのことか?」
「済まぬ。迷惑を掛けてしもうた。この見た目では誰も相手を為てもらえぬと思うておった」
周りでは騎士や二人の若者が何となく気まずそうにしている。身体を許す相手に、これほどあけすけに喜ばれた経験は無いのだ。
「して、魔女殿。番うとは、普通の人間がするのと同じか?それとも違うのだろうか?」
魔女はきょとんとして、頭をかしげた。
「よく分からぬ。ばば様は、魅了を掛けて後は、男に任せておけば良いと仰っていたが……」
と言うことは人間と同じと言うことだな。
「あともう一つ。子は魔女が総て引き取るのか? 私が連れて行っても良いのか?」
「そ、そ、それは困るぞ! 連れて行かれては溜まらぬ。我が子は私だけの子である。巫女として長い年月修行をしなければならぬし、修行が終わればそれぞれが自分の領地を決めてバラバラに生きていかねばならぬのじゃ。それまでは、お願いだ。連れて行かないでくりゃれ」
魔女は跪いて懇願し始めた。
魔女は子どもが一人前になる間だけ家族として過ごすことが出来るのだという。大きくなってしまえば、お互い魔力の取り合いになる為、離れて行かざるを得ない。
人生の中でこの一時だけが同じ種属としてのふれあいが出来るのだそうだ。
この魔女は何となく憎めないところがある。この様に魔女が懇願しているのだ。可哀想なことはしたくない。子が生れてから、様子を見に来れば良いだろう。レオンに頼めばあっという間に来る事が出来るのだから。
無事、魔女と番うことが出来た。魔女は顔以外は普通の女と変わりなかった。
若い二人は、指輪を外して、事に及んだらしい。満足した顔で寝室から出てきた。
「魔女の魅了は素晴らしかった。絶世の美女だった」
そう言って稀な経験を面白がっていた。
魔女に、いつ頃生れるのかと聞くと、
「五年ほど掛かるな。その間、魔力を沢山必要とするのだ。私は火山の魔力を吸いに行かねばならない。ここは暫く留守にする」
そう言って次の日には既に居なくなっていた。
ゴードン達も、村人に他の国の場所を聞き、魔女の住む湿原を後にした。




