4 巫女の島
惑わしの島を守って最早二百年になる。ここは巫女の先祖が作り出した魔道具がある。北の大陸と南の大陸を分断し、人の行き来をさせないためだ。それを守るのが巫女の仕事だ。
ここに居る住民の殆どがこの島に流れ着いた人達だ。総ての人に記憶操作を掛けているため、内地へは行かないので安心だ。内地の人間は未だに巫女達を目の敵にしている。
土地の魔力を吸い取る忌まわしい亜人、魔女だと。
ずっと昔、この世界は巫女達の王国だった。魔力が無くなればもう一つの大陸に行き、回復した頃に戻ってくる。
南の魔力が少なくなる頃巫女達は一斉に北の大陸へ移動する。一千年周期で。そうやって何千年も過ごしてきたのだった。以前は・・・・・二千年前までは。
巫女の種属が自由に魔力を吸い、ゆったりと住んでいたが、大陸には人が増えてきて、人間との共存を余儀なくされたという。以前は巫女達の下僕であった人間達。
人間は理解していないようだが、以前から共存と言える関係だった。巫女達が人間には濃すぎて危険な魔力を吸い、魔力が薄くなったところに人間が住む。
そして女しか生れない巫女の子を作る為に、人間の男に協力して貰うのだ。
だが、たった二千年か一千年の間に人間が爆発的に増えたのだそうだ。
巫女の種属は魔力が無いと弱ってしまう。巫女が増えすぎれば自らの行き場を失ってしまうため、巫女達は慎重に数を抑えて生きてきたのだ。魔力が無くなれば、魔の力も使えなくなってしまうのだ。
だが人間が増え、独自の発展を遂げ、北の陸地と南の陸地で行き来し始めた。始め魔の力の使い方も知らなかった人間達。巫女達は目を掛けた人間に魔の力の使い方を教え、文字を教え、人間達と良い関係を築いてきたつもりで居たのに。
巫女を神とも恐れていた人間達は、魔の力を使い熟すようになり、巫女を蔑ろにするようになった。
北の大陸と南の大陸の人間達が手を組めば、巫女達はたちまち行き場を失ってしまう。
それを辞めさせるためにこの島に魔道具を置いたのだ。
人は魔力を吸うことはしないが、魔力を使う。魔女のおやつとも言える魔宝石を人は欲しがった。
多くの魔道具を作り出し、巫女達に効率よく「哲学者の石」を作り出させようとしたのだ。そしてまた、人間達は魔道具を作り出す。
少数民族の巫女達は、いくら魔の力が有っても数の力には適わない。いつの間にか巫女達は人間の奴隷のような扱いになっていた。
巫女達は自分が必要なおやつは、闇の収斂で作くって食べるだけだったが、人が作った魔道具は何百倍の魔力を吸い取ることが出来た。人間は強欲だ。
たちまち陸地の魔力は減って、その結果巫女の種属は百人にまで減って仕舞った。皆魔力失調症と言う病に冒されて、身体が弱り死んでしまったそうだ。
そしてある時から、生き残った巫女達を人間は狩り始めた。地力がなくなったのは巫女達のせいだと言って。
百人は居た巫女達は殆ど死に絶えてしまった。今、内地で生き残っている巫女は数人だけだろう。交流は全くないから、ハッキリは分からない。もしかすれば、あれから増えているかも知れない。
どちらにしても、人から遠く離れて生きているはずだ。子を作る時にはどうしても人里へ降りていかねばならないが。子を作る作業は巫女達にとって一番危険なときだ。
この島には魔力が少ないが、巫女一人なら火山の魔力で十分足りる。巫女もそろそろ子を作らなければならないだろう。寿命が尽きかけているのだ。なるべくならこのままでいたいが、この仕事を引き継ぐ子を作リ、育てていかなければならない。子に魔力を譲り、自分は魔力失調症になって消えていくだろう。
ここまで待ったのにはこの島には巫女は一人しか生きて行かれないからだ。
この間、若い漁師がここへ来た。彼に魅了を掛けて、何とか子を孕むことが出来た。
種を貰うには魔力のある人間が良いのだ。ここにはそんな人間は居なかったが、あの漁師には、少ないながら魔力があった。なんという幸運だろう。
魔力が無い人間との子は、力が少なく生れる。かくいう巫女もそうして生れたため魔の力は限定的だ。
「このままでは、巫女の力自体が薄まって仕舞うのではないだろうか」
だが、子を腹で育むには魔力が多く必要だ。内地へ行って濃い魔力を補給しないといけない。内地には怖い人間がまだ沢山居る。
我が子のために決死の覚悟で行かねばならないだろう。
だが、怖い。人間には魔力とは違う、不思議な技能を持っている者がいるのだ。巫女の変装を見抜く目を持った者がいたら、巫女は化け物だと言われて、殺されて仕舞うだろう。
巫女を殺すのは簡単だ。魔力の無い処に押し込めるか、水に沈めれば良いだけなのだ。
巫女は船をこぎ、一人内地へ向かった。
大陸の北端、ニーノの街だ。ここには長く居られない。余りにも人が多すぎる。
――魔力が薄くて苦しい。早く森へ入らなければ死んでしまう。
影渡りで急いで街を抜けやっと森へ入る事が出来た。
森の奥へ行くに従い、息苦しさが和らいできた。巫女はほっと一息つく。
「ここはまだ、魔力が多いとは言えない。我が子を十分に育てるには金竜の山まで行かなければ」
巫女は、ゆっくりと森の中を歩き出した。
魔の力が有れば一瞬でいけるはずの道のり。巫女にはその力は無かった。知識だけは母親に教えられたが、昔の巫女達が使っていたという空間庫や、瞬間移動などは使う事は出来ない。
――この子が大きくなれば、使える様になるかしら。昔の巫女達のように力ある巫女になれるかしら。
巫女は今から楽しみで仕方が無い。同じ種属と触れあえる貴重な時間。我が子と過ごせる時間は五十年ほどだが、それでも生涯の中で孤独を癒やせる数少ない貴重な一時なのだ。
金竜の住む火山は濃い魔力を放出する場所だ。
巫女の間ではゆりかごと呼ばれていたところだ。巫女達が大勢居た古代では、その場所に巫女が来ると戦いが始まったという。自分の子に魔力を多く吸収するために他の巫女を排除したのだそうだ。
巫女の数は増えてはいけない。増えれば自分も生きることが出来なくなる。そうして巫女達は淘汰されて強い物だけが生き残って来られたのだ。
今は巫女が少ないからそんなことには成らないはずだ。弱い自分でも、子を産むことが出来るはずだ。




