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1 ゴードンの新たな夢

  新たな王族としてマリーナは迎えられた。

 マーガレットの子としてでは無く、ツェッペリン公爵の遠縁という形で。

 マリーナの知識はゴードンを驚愕させた。彼女は、魔法大学校の教授として迎えられ、更にはダンカンの婚約者と紹介された。

 貴族達は別段驚くでもなく、いたって普通に受入れている。貴族の婚姻の場合ままあることで、女性の年上は珍しくても、ゼロではないのだ。皆そう言う物だと納得している。

「意外にあっさり決まってしまったな」

 危惧していた噂が立つわけでも無い。ゴードンは自分だけが、死んでしまったマーガレットに対して過剰に反応していたのだと、改めて恥じ入った。

「ゴードンが警戒するのは当然よ。隷属されたことがあるんですもの。そんなに落ち込まないで」

 サラに慰められて、ゴードンは少しだけ嬉しい。

 ――もう少しだけ、落ち込んだ振りでもしていようか。

 そんなことを考えていると、レオンにぎろりと睨まれた。

 ――レオンはサラに限って危険察知が働くようだ。何も取ってしまおうとはしていない。少し親しくしたくらい、いいでは無いか。

 ダンカンはデレッとした顔で、マリーナを見ている。マリーナは確かにマーガレットの子だ。身体は豊満で、美しい。

 背丈はマーガレットほど高くは無いが、それでも女性にしてみれば高い方だ。すらりとしている。

 大きく育ったダンカンとは似合いのカップルだった。年が明ければ、ダンカンの正室として王宮の東宮に住むことになる。

 サラはまたもや妊娠したらしい。今年の「闇の収斂」はダンカンが受け持つことになった。

 これから王族として、この仕事は重要なものとなる。一般には知らせていないが、要職に就く者達には知らせる事となった。これで王族を邪険には出来なくなるだろう。

 闇の収斂は簡単にはできない、レベルの高い魔法だ。理論を知っているだけでは出来ないのだ。ゴードンには出来ない。闇をこれから獲得したとしても無理だ。生まれ持った属性で、更に魔力が大きく、その上で努力してレベルを上げていかねばならないからだ。

「ゴードン、マリーナが魔女の家で見付けた地図ってこれか! ゴードンも見たか?」

 ゴードンの居室に勝手に入ってきてレオンが地図を広げた。マリーナが持ってきた、魔女の書庫で本の間に挟まっていたという世界地図だ。

「ああ、魔女がこの大陸とは別の大陸から来たのでは無いかと言う、レオンの仮説が証明されたな」

「まあそうなのだが、意外に近くに在る。今まで船乗り達の目にとまらなかったのが不思議で、調べてみたんだ」

「そうか、で? 何故だったのだ」

 地図の中程の小さな諸島を指さし、トントンと指し示しながらレオンはここに魔道具かなにかがあるはずだという。

 そこは船乗りの間で船の墓場と恐れられている場所だという。海流が渦を巻き、引き込まれる恐れがある場所だそうだ。危険で、恐れられているためそこから先へは誰も行かないそうだ。

 近くで見ても、島影がないはずなのに、船が次々と座礁して海の藻屑となってしまうと言う。

「この海域に、大がかりな認識阻害が掛かっているのではないかと思う。こちらの大陸と行き来出来ないようにしていたのかも知れない。魔女の日記に、四百年前この大陸に来たと書いてあった。その頃のヤーガイ国は只の農村を治める豪農がいただけだ。ごく少数の民族の集まりに過ぎなかった。だが我が国には散逸した魔法の記述が少し残っている。この大陸にも昔は魔法が発達していた過去があったのかも知れない。数千年前に。そんな昔に魔法文明が発達していたなんて凄いと思わないか? その大陸へ行けば、失われた魔法の詳細が分かるかも知れない」

「ああ、見て見たい物だな。だがまだ私はこの国に捕らわれている。自由は無いのだ、王には」

「そうだったな。僕にも無理だ。子ども達はまだ幼いし、サラを連れてはいけない」

「長男は八歳になったか?」

「次男は五歳、三男はやっと二歳だ。またこれから生れるしな」

 ――好きで増やしたくせに。自慢か? 何にしても王族の血族がまた増える。喜ばしいことだ。

 ゴードンは、ダンカンに早めに引き継ぎすれば、行けるのでは? と考える。まだ見ぬ大陸とはどんなところなのか。魔法文明が発達した世界は、ここよりも素晴らしいところに違いない。

 ただ、そんな魔法文明が発達していた処から何故、魔女は海を渡ったのか? 

 この大陸を我が物にするでも無く、ひっそりと暮らしていたのは何故か。

 日記には先祖が逃げてきたようなことを記されていたが、魔女は文字が汚く、誤字や脱字も多かった。その為、意味がつかめない部分も多かったのだ。

「頭の悪そうな魔女だな。こんなのが大魔法を使っていたとは。王子と恋仲になるくらいだから、綺麗だったのだろう。三十五歳でも、長生きの魔女だ、若々しい見た目に王子は目をくらまされたのかも知れないな」

「魔女は、どうも隷属魔法や幻惑魔法を使って人間の小作人を使役していたらしい。王子も術に罹ったかも知れない」

 レオンはそのように考えたのか。堅物の学者頭め! 面白みの無い奴だ。

「では、目くらましの魔法を何とか突破できたとして、あちらの大陸へ行っても、思うような成果を持ち帰られるとは限らんな。幻惑を掛けられてしまえば、帰ってこられないかもしれん。意味の無い旅になって仕舞うな」

「幻惑の魔法は防げる。隷属もだ。ゴードンは経験済みのはずだが」

「魔宝石を持っていれば良いのか!」

「ああ、今もっと良い方法が無いか考えている」

 ――私も、もう一つ属性を増やしてみようか。若しかすると王を早めにダンカンに譲ることが出来るかもしれない。

 ゴードンは、レオンに属性を増やしたいと相談した。空属性には憧れる。しかしレオンは、

「空属性は辞めた方がいい。魔力効率が悪すぎて、今からならせいぜい「空歩」しか使えないだろう。やるなら闇だ。闇を持っていれば魔力の補給が楽になる。他の属性を使うときにも魔力が早く補給できるぞ」

 そう言われて空属性は諦めた。闇はマーガレットが持っていた属性で余り良い印象は無かったが、サラも持っていたなと考え直す。闇の使い勝手の良さを聞き、闇を取ることに決めた。


 ダンカンに無事王の位を引き継ぐことが決まり、ゴードンは早めに王宮を去ることにした。王の地位を継ぐとき、自分は仮の王だと心に決めていた。本来の姿に戻ってスッキリした。

 齢四十六。これからのゴードンは自由だ。残された人生は総て自分のために使うと決め、王の補佐役も辞退したのだ。

 ゴードンには守るべき領地は無かった。王宮の側にある大きな屋敷が唯一ゴードンの持ち物だった。

 自由になった今は、一年ほど闇の研鑽を積み、魔の森へ出向いてレベルを上げながら、レオンと旅の計画を練っている。

「ゴードン、闇は何処まで出来る様になった?」

「影渡りまでかな」

「本当は、隷属解除が使えれば良いのだが、まあ、それでも何とかなるか」

「何か?」

「魔宝石に闇の魔力を入れておけば、対抗できるぞ。隷属魔法に」

「隷属に、初めから掛からないと言うことか?」

「幻惑にも掛からないだろう。自分で使えればレベル差である程度、精神魔法は防げるはずだが、僕は首輪を嵌められて隷属させられた。魔宝石を持っていればその代わりをしてくれるし、隷属の首輪を嵌められても自分で主人を変えられる。その代わり、肌身離さず持っていなければ、意味が無いぞ」

 王族は全員持つべきだ。特にダンカンには持たせておこうとゴードンは考えた。

 全属性は万能では無かったとダンカンから聞いていたのだ。一つの魔法を使っているときにはその属性しか使えず、他の属性を使っていれば、簡単に隷属させられてしまうかも知れないからだ。いくらレベルが高くてもゴードンやレオンのような目に遭うのだから。

 闇を持っている魔法使いは滅多にいないが、これからは増えてくるはずだ。そうなれば同じような事を考える輩が必ず出てくる。いくら魔力があっても、簡単な仕組みの隷属の首輪で罠に落ちてしまうのだ。

 レオンから純度の高い小さな魔宝石が付いた指輪を渡された。

「これに闇の魔力を入れておけば良い。もし隷属の首輪をさせられても、これで主人を自分に変更できるはずだ」

 過去にも経験済みだった。首輪自体は外せなかったが、サラのお陰で自己を主人とすることは出来たのだ。

 隷属解除で、簡単に首輪は外せたが、あのまま引きちぎっても良かったのだ。マーガレットを騙すために態と付けたままにしておいたのだ。

 今も外した首輪は持っている。油断した自分への教訓として、偶に出してみているのだ。

「試してみたのか?」

「僕も持っているからね。隷属の首輪は。サラに掛けて貰って、自分で外してみた。検証済みだ」

「その指輪、ダンカン達にも持たせたい」

「ああ、今作っている。皆の分を」

 レオンが言うには、大陸間の諸島にあるという認識阻害も、指輪があれば見抜けるはずだという。船長にも指輪を持たせるつもりだ。船長らのは効果が薄い物だが、認識阻害は見抜けるだろう。だから、座礁もしないはずだ。そうレオンは言った。

 ――航海まであと少し。船はもう準備出来ている。それまで闇のレベルをもっと上げておこう。

 ゴードンは、ワクワクしていた。未知の大陸へ行って自分は何を見ることになるのか。

「僕も行って見たいな……」

 レオンがぽつりとこぼした。

 ――サラや、子ども達が居れば適わぬ事だな。

「いくら近いと言っても、一ヶ月以上は掛かる船旅だ。その間に何があるか分からないんだぞ、諦めろ。代わりに私がしっかり見てくるから。報告を待つんだな」

「……いや、考えがあるんだ、何とかなりそうだ」


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