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プロローグ

 俺は漁師だった。

 爺様から、この海域には近づくなと口を酸っぱくして言われていたのに。嵐にあい、海流に流されてしまった。 

 近くまで来ても海としか思わなかったが、岩に船が座礁して途端に島が目の前に現れたのだ。

 ここに来て大分月日が経った。この島には誰も居ない。近くにポツポツと島影が見えるところを見ると、小さな島の集まりなのか。隣の島へ行こうとしても、船が壊れてしまっていくことは出来ない。

 この島には南国の草木がまばらに生えている。

 俺は少しの果物と、草、根っこなどを食べて生きながらえている。偶にネズミを見付け捕まえることもある。

 岩場に降りて、貝や小魚を捕ることもあるが、危険な魔物が海にはいて、掴まりそうになるから滅多に海岸へは行けない。

 島はゴツゴツした岩場と、平坦な平地とに分かれている。俺は小さな浜辺の平地に小屋を建てて暮らしているのだ。

「一体ここは何処なんだ? 船が通れば助けを呼べるのに」

だが、島の北側は靄が掛かっていて見渡すことが出来ない。南側を見ても、海が見えるだけだ。左右にはこの島より小さな島がポツンポツン、やや大きな島もポツンとあるだけ。

 この島には海岸へ降りなければ、危険な事は無かった。獣はネズミだけ。偶に海鳥が飛んで来て巣を作るだけだった。

 だからこの頃は盛大に火をたいて、肉を焼いている。初めの頃は警戒していたが、人も魔物も居ない静かな島だ。

「俺は、この島の王様だ。は、は、は」

 等と言って気分を盛り上げて、ネズミの肉を喰らう。

 このネズミは60㎝はあるデカいネズミだ。食いでがある。人を恐れないので簡単に捕まえることが出来た。

 朝目覚めると、毎日の習慣で、北側の靄を見まわし、やはり何も見えないことにがっかりし、ぐるりと島の周りを一周する。三時間もすると元の場所に戻る事が出来る。

 だが、その日は自分の目を疑うことになった。島を一回りしようと歩いていると、俺の小屋がある小さな浜辺に小舟が舫いでいた。

「誰か居るのか!」

 俺が叫ぶと、岩場の方から壮年の男が走ってくる。

 約一年ぶりの人の姿だった。

「ナニシテイル? ココには入ってはイケないんだぞ」

 男の言葉は不思議な抑揚で聞き取り辛い。それでも、久し振りに会う人間だ。俺は嬉しくなった。

「俺は嵐に遭ってここに流れ着いたんだ。助けてくれ!」

「ああヤッパリそうだったか、オイの船で、ツレテイッテヤル」

 小舟に乗せられ、二人で櫂をこぎながら、十時間後やっと彼の住む村に着いた。この島は俺の孤島から見えていた大きめの島だ。

 島には三百人ほどが住んでいて、耕作地や、白い石造りの住居が転々とあった。奥の方へ行くと、煙がもうもうと上がる岩場があり、真ん中の平地に建つ大きな屋敷に、男は俺を案内してくれた。そこに居たのは一つ目の異形の女だった。

 彼女は皆から、巫女様と呼ばれていた。

「巫女様、結界の島にマタ、漂流者がオリマシタ」

「そうですか。では何時ものようにしまショウ」

 そう言って魔女は俺に術を掛けた。俺はそれから魔女の身の回りをする使用人となった。

 俺のような目に遭った漂流者は、よく居るそうだ。今一緒に働いている五人の召使いも同じ、漁師だったそうだ。

 ここに居れば食い物も着る物も支給されて不自由はないが、時々、俺は考えるのだ。

「このまま俺は帰れないのだろうか。自分の国は確かにあった筈なのだ。だがそれ以上思い出せない」

――俺は一体何処から来たのだろうか。

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