流れるままに
『あーもー! やっぱアンタのおかげで神の威厳が台無しじゃないのぉーッ!? チョットどうしてくれんのッ!?』
『いやいや、ルルからしたらあんな言い方してるのが可笑しいって』
『笑うなぁ! あんま調子乗ってっとその子水責めにしちゃうよ!?』
『しかもわざとスイっちに分かんないように、無駄に言葉ぐちゃぐちゃにして喋ってたでしょ? そーゆートコだよウンディーナ?』
『あーうっさいうっさい! いいから用があるんならさっさと言いなさい!』
『スイっちに水神様の加護ってのを与えてほしーんだけど、ダメかなぁ?』
『別にいいわよそれくらい。最近あんまり誰も来なかったから私のマナも有り余ってるし、お安い御用だわ』
『そっか、ありがと! ところでさ、ウンディーナって来る人全員にあんな風にしゃべってたの?』
『まあね。けど今じゃ下の街にある巫女って風習も廃れてるみたいだし、そもそも人間としゃべったのなんていつ振りかも忘れちゃったけど』
『へー人間側の事情もよく知ってんだね!』
『ここの水の民が知らせてくれるかんね。精霊だからといって伊達にぶらぶらしてる訳じゃないのよ?』
『他の精霊達も元気?』
『別に普通よ。ただ……最近は【変な邪気】が満ちてて、この辺の民は統率が取れない時があるけどね』
『……ふーん、そっかぁ』
『じゃ話はもういい? ワタシも早く別の場所に行かなきゃいけないから、こう見えて忙しいんだからね?』
『別の場所?』
『さっき言ったっしょ? 最近【変な邪気】が満ちてるって。水の民にも少しだけだけど影響が出始めてるから浄化しにいかないといけないのよ』
『ほえー。精霊も忙しいんだねー』
『ワタシこう見えて四大精霊ですので。じゃ、【そこの子ちょっとこっちに来て】』
怒涛の展開は唐突に幕を閉じる。不意に呼ばれているのがまさか自分だとは夢にも思わずに。
『――聞こえなかった? これなら聞こえるでしょ?』
「え!? あわ! 頭の中が急に!? わた、わわ私ですか!?」
『他に誰がいるって言うの。ほら来なさい』
スイはおたおたするままに手招きしているウンディーナの元に駆け寄るしかなかった。
「あ……。あの……」
『別に普通に話しかけても聞こえるわよ。さっきはただイタズラしただけだから』
「そう……なんですか?」
『そうなの。だからほら――身体を楽にしなさい』
言われるままにスイは全身の力を抜くと、ウンディーナは手を差し伸べる。
『――いいわねあなた。とても綺麗』
「え?」
『一年ぶりだろうが数百年ぶりだろうが、私は穢れた水に浸かった者に『私の残滓』は分け与えないと決めているの。そういった意味では期待外れじゃなくて安心したわ』
「水の残滓……」
『とぼけちゃって。あなたなら分かるでしょ? 会うのはこれが初めてじゃないし、なんなら以前にも同じ過去があったと思うけれど?』
「……覚えていらしたのですね。でも今の私にあの時の力は何処にも……」
『力? あなたは力が無いと言いたいの?』
「……そうです」
『あるじゃない。ワタシが感じた事の無い『新たな力』がそこにね』
そう言ってウンディーナはスイの胸を指差した。それが何なのか気付いたスイは咄嗟に両手で庇うが、そんなもので四大精霊の瞳は誤魔化せない。
『その力を決して畏れたらダメよ。あなたがどんな恐怖を抱いているかは知らない。でもあなたはそれを超えたからこそ、今がある』
ウンディーナの残滓が指先からスイに送られ、その柔らかな光は確かに彼女の内側に入って行った。
『語る必要はないの。あなたはこの私に仕える存在なんでしょ? なら、全てを受け入れなさい。その上で自分を汚したモノは全て洗い流せばいい。澄んで清らかな水の心を常に持ち続ければそれでいいの』
スイはあの日から途切れ途切れだった糸が繋がる感覚に包まれた。
――自分が死んだ日。――傀儡として再誕した日。――――長い悪夢から救われた日。
「水神様、私は……!」
『ほらほら、用が済んだらもう行きなさい。やるべき事があるんでしょ?』
言葉はいらないと、全ては流れのままに促す。そして事の始終を見ていたルルナも素直に謝辞を述べた。
(――ありがとね。ウンディーナ)
水の大精霊は何も返事をしなかった。
澄んだ水の持ち主と久しく出会えた。それだけでウンディーナは十分だったのだ。




