正体は大精霊?
――ユートゥルナ大瀑布・水神の間――
「おーーい来たよぉ!!!」
ユートゥルナを象徴する神でありつつ、巫女として崇め奉られし大いなる存在でありながら、その御前を土足でどかどかと上がり、不遜な態度を取る少女がいた。
現にスイは神の怒りに触れないか気が気であらず、このままでは彼女が神罰に処されてもおかしくないと、おろおろ慌てふためく。
『――■◇』
眼前に流れる滝の奥から青い光が飛び出して来たのはすぐだった。
『久※■りの来訪※かと※え◎よも*いつ?やの@娘で#%*&』
光が弾け、『グローリィ』の前に神体が露わになる。薄くて血色の悪い蒼い肌と青をより深くした群青色の長い髪は精霊にも似た風格を呈し、とめどなく放たれる水のマナはそれだけで人智を超えた高次元の存在なのだと突きつけられる。
「ユートゥルナ様。どうか私の声に耳をお傾け下さい。この私は今一度貴方から洗礼を受けたいと思い、この地に再びやって参りました――」
藁にもすがる想いでスイは嘆願する。その気持ちに?偽りは無く、心の底から彼女は願った。もう一度『水神の加護』を得たいと。
『――――◆※※〇×?』
「……なんて言ってんのかアタシにはさっぱりなんだが」
「大丈夫だ。僕も分からない。分かるとすれば――」
シャルルで理解不能ならば、他のメンバーも分かるはずもない。会話にならない会話をずっとスイと水神は繰り返していて、本当に成立しているのかすら気になる。
ただそれとは別に、唯一この中で『例外』がいるのは少なくともシャルルは知っている。が、肝心のルルナは二人が話しているのを遠くから見守っていて、ひと段落着くまでは無理に割って入る気はなさそうだ。
やがてすイは一通り言いたい事を伝えたのか、くるりと踵を返して皆の下に戻ってくるが、その顔には落胆しか浮かばない。
「ダメ……だったの?」
不安げなリアンの声になんとか返事をしたいが、口から何も言葉が出ない。
スイとしては仲間の声も借り、自分の心を取り戻して、満を持してこの水神の間にやってきたつもりだった。でもやはり、神の声は何も聞き取れず、自分の言葉も何も伝えられない。こんなザマでは誰にも会わせる顔が無いと、彼女は途方に暮れそうになる。
「何か聞けた?」
そんな彼女に次に歩み寄ったルルナ。
「いえ……何も……。私はどうすれば……」
ここまで来て皆の好意と期待を無駄にしなければいけないのか。絶望でスイは押し潰されそうになる――――その前に、ルルナはポリポリと頭を掻きながら気だるげに水神の所へ近づいて行くのだった。
「ったくもー悪戯好きなトコはなんも変わってないんだから。『ウンディーナ、元気にしてた?』」
まるで友達にでも会ったかのような振る舞いに、シャルルを除く全ての人達がざわつく。スイに至っては空いた口が塞がらず、ただ絶句する。
「ウンディーナだって? ウンディーナっていやあ、四大精霊の一つじゃねーかよ? いや待てコイツがそうだってのか?」
「そだよ。確証が無かったからみんなには言わなかったけど、多分そうなんじゃないかなーってこのダンジョンに入った時から思ってたんだよねー。ダンジョンから流れてる川からずっとウンディーナの香りが漂ってたからやっぱりって感じだけども」
ルルナが何を言ってるのか、やはり誰にも理解出来なかった。ただ、最初洞窟に入った時、隣にいたアムはその台詞だけは覚えていたようだ。
「あんなんさりげな過ぎて、言われるまでアタシも忘れてたけどな……」
「ねーなんでそんな変な言い方なわけー? 『普通にしゃべればいいじゃん』」
『……』
常識破りの彼女の行動は更にエスカレートして、終いには普通に話し始める。そんな「ねーねー」と急かすルルナの不遜な態度に痺れを切らしたのか、遂に口を開く。




