朝靄の中で
スイはただひたすらに嗚咽していた。結果として彼女には罪だけが残り、失った物ばかりだった。唯一の肉親であった最愛の父も亡くし、水神の加護さえも消え去り、空元気こそ回れど心にはやはり空虚が広がるばかり。
「やはり私はあの時に死――むぐっ!?」
「それ以上は言わせないよ」
ルルナはスイの正面に立ち、その手で彼女の口を優しく塞いでいた。でもそれすら拒絶するように、その手を振り解いて悲嘆する。
「私が生きていて何の意味があるのですか!? こんな惨めなままに水神様と出会っても、再び加護なんて得られはしないというのに!」
「そんなの会ってみないと分からないじゃん」
「会わなくても分かります!」
「でも、ルルにもシャルルにも使えない魔法を持ってる。しかもそれって『水神様を願う』心が無いと唱えられない魔法なんじゃないの?」
「それは……!」
「スイっちの強く優しい心を感じてるから、どんな遠くからだって水神様もそれに応えてあげてる。だったらこんな所で止まってちゃいけないと思うんだ」
「私は……」
「ルルは、アイツを一発ブン殴るまでは止まりたくない。それはルルの素直な気持ちだし、スイっちだって気持ち的には同じじゃない?」
諸悪の根源は分かり切っている。それはやはり父を惑わし、国をも大きく歪めた【あの男】に違いなく、スイに至ってはまだその顔すら見た事がない。
「父と国の仇は取りたい……。それは私の率直な気持ちです。だけど、今の私には何も残っていない……。どうすれば……」
「そんなの簡単じゃん」
ルルナはスイの胸に手を添えると、強く答えた。
「――怖がってちゃダメ。素直に自分が信じたいと想う水の心を大事にして。スイっちは絶対強い。それはルルが一番分かってる……つもり。タブン。えへへ」
「ルルナさん……」
「ね、行こうよユートゥルナ様の所へ。ダメだったらダメで、それからまた考えればいいじゃん!」
暗く閉ざされかけた心はルルナによってこじ開けられ、今一度光を射し込めた。だが、一番大事なのはそれを保ち続ける事。見失わない事。それを支える為の自分なのだと、ルルナはスイの肩をやさしく抱いた。
「……まあ、あれだよ。ルルナが言いたいのは分かるけど、そこは『僕達』もいるから一応、ね」
「シャル!?」
「アタシもいるぞー」
「私もね」
振り返れば、そこにいたのは『グローリィ』の面々。二人の喧騒を耳にして起きたのかは定かではない。だが、そんなのはスイは今やどうでもよかった。目尻にうっすらと溜めた小粒の涙を流そうとしたが、それでも今は流すまいと必死に堪える。
「よーし、ちゃちゃっと水神様の加護を受けて来たる『ラグナロク』に備えるのだあーっ。ほらみんな行くよー!」
一度犯した罪は二度と消えない。そして今のスイには何度も試練が押し寄せる。決意する度に何回も押し寄せてくる黒い靄に覆われそうになる。
それでも今は一人ではない。自分が迷いそうになってもそれを振り払ってくれる誰かがいる。それだけで彼女は十分だった。
だからこそと、レイは地を強く踏みしめて歩き出す。父と国を惑わした本当の【闇】に立ち向かう為に。




