水を想う心があってこそ
「でも、本当にここで休んで大丈夫なのでしょうか? いくら魔物の気配が少ないとは言え、過去に訪れた際に戦ったここの護り手はとても強かったです……。そんなのに不意に襲われたらひとたまりも……」
「まあ確かにね。近辺に出る魔物はそれなりに強力なヤツが多いみたいだ。だからこそ付近に護法陣を張っておいて正解だったかな」
「そ、そんな! いくらお二方が強力な能力の持ち主とて、護法陣程度ではとても凌ぎ切れません! 私達が今この領域の中枢にまでたどり着いた今、出てくる魔物達も入口で出会った強さとは比になりません!」
水神が奥で息を潜めるこのダンジョンに過去訪れた事のある者はレイだけ。だからこそ彼女は『このままでは危険だ』と、必死に警鐘を鳴らしている。
「――みたいだよ、アム」
「どうしてアタシに振る」
「この護法陣を思いっ切り叩き斬ってほしいから」
「…………一応聞くが『何・の・為・に』だ?」
「そりゃ勿論言うまでも」
シャルルは脇に置いてあった斧を指差して、早期実行を促す。それに対してアムは深々と溜息を吐きながら食べていた料理を半分ほど残して立ち上がる。
「はぁーあ。分かったよ。やりゃいんだろ。やりゃー!」
護法陣の範囲外に出たアムは斧を引っ提げて、力強く握りしめる。
「……いくぞっ!」
大地を強く踏みしめると颯爽と走り出して、高く跳び上がる。アムの目が今捉えているのは、眼下に見下ろした護法陣とその一行達のみ。
「うおおおおおらぁ!!!」
地のマナを大斧に集結させ、その余りあるパワーを全てぶつける。その瞬間、ドーム状に覆った膜が出現して、アムの攻撃を真っ向から弾き返す。だが、それに負けじと彼女は更に力を込める。
(……アムも結構やるようになって来てる。もう一押しあればこの護法陣も破られてたかも知れない)
見つめるシャルルは表面上は極めていつも通りで、リアンはただそれを見て苦々しく笑うしかなかった。
「こんな光景に慣れそうになってる私がなんだか怖い……。あはは……」
結局力を無くしたアムは、護法陣に全ての魔力を霧散されてしまい、挙句には洞窟の天井に身体を打ち付けてからぽとりと地面に落ちるのだった。レイはそんなアムの姿を見て慌てて駆け付ける。
「だ、大丈夫ですか!? 今手当をしますから……!」
「いや別に平気だよこんくらい。どっちかてーと魔力を今ので大量に消費したから、傷よりもそっちの方を回復したいくらいだ」
「魔力を……ですか?」
「ああそうだ。おーいルルナ、わりーけど何か魔力を回復するモンをこっちに寄越してくれー」
横でぼんやりと眺めていたルルナを使おうと手招きして回復しようとした時、ふと隣にいたスイがそれを遮る。
「いえ。それには及びません」
それはどういう意味だとアムが問いただす前に、スイはアムの腕を優しく包み込むように握った。
「今の私ならば可能な筈です――」
そしてスイは目を閉じ、祈りだした――。
「水神よ。我が水の力に呼応し、献身なる呼び掛けに応えよ。この身に今一度マナの集いを――【マナリア・グレイス(魔素還元魔法)】」
「お、おお? ……コイツは、アタシのマナがみるみる内に『回復していく』!?」
その魔法を見て、それまで黙って見ていたシャルルも思わず立ち上がらずにはいられなかった。それもその筈、何せその魔法は双子達ですらも扱えない【特異固有魔法】だったのだから。
「驚いた……。僕等でも還元魔法は力を最大限に解放したルルナしか扱えないし、しかもスイみたいに純粋にマナを共鳴させて分与するのではなく、半強制的に吸い上げるドレイン的なものだ。ここまで正当に扱える人は生まれて初めて見たよ」
「ねーホント。よりによってあんなのを見せられるとは……ぐぬぬぅ」
「お、お二人とも!? そんな別にこの魔法は決して大それたモノではありませんのでどうか気をお鎮め下さい!」
まるで神の怒りにでも触れたようなスイの狼狽振りに、これでは誰が神なのか分からなくなった双子を除く一行。だが、そんなざわついてしまった空気を一括したのは他でも無い『リーダー』だった。
「ささ、安全も分かった事だし、みんなで一緒に一息つきましょう! ほら、レイとアムも早くこっちに」
二人もリアンに指示されるとは思っていなかったようである。微妙に不思議そうな顔を浮かべたまま食事の席に着き、ルルナが最初の一口にありついた所でなんとか今日を終えるのであった。




