学園に戻って来て
――アルカディア学園・双子の部屋――
シャルルによって魔改造されたアルカディア学園の寮のとある部屋で、すやすやと寝息を立てる一人の少女がいた。
その少女は当然ルルナでなければ、他の生徒でもない。もっと言えば学園には全く関係の無い『部外者』だ。
今現在部屋にいるのはルルナを初めとする『グローリィ』のメンバー。用事があって席を外しているシャルル以外は皆出揃っている。
「――で、コイツは誰なんだ……?」
「もーアムっちコイツとかひどくない? 『レイシア』ちゃんっていうちゃんとした名前があるんだからさぁー」
「そんな事聞いてんじゃないんだよ! 理由もなく部外者を連れて来ていいのかッ!?」
「気絶してたからそのままにしておけないでしょー? だから連れて来たの!」
「……ダメだ。アタマが痛い……」
アムが元より心配しているのは学園そのものの問題よりも、双子達が秘匿的な立場が下手に他所にばれてしまう事を案じての事だろう。アムも『アルカディアの三軍補欠である双子』ではなく、『かの大勇者と大魔王の子供』として多大な恩を受けている以上、今の状況が部外者にばれてしまったら『グローリィ』の存続も危うくなるし、どんな波乱があるかなど想像したくもなかった。
「ま……まあまあ二人とも今は置いといて……。それにしても……」
ルルナとアムの間に割って入ったリアンは、静かに眠る青髪の少女を不思議そうに見つめる。
「本当にこの小さな子があれだけの機械を動かしていたなんて……信じられないわ」
「まあルルナ達が突然抜け出した時点で正直『なんかありそうだな』とは思ったけど、まさか大掛かりな戦闘になってたなんてなぁ」
「そりゃもー大変だったんだよー? この子やこの子のお父さんを裏で動かしてた『黒幕』っぽいヤツも出てきたしさー、一発ブン殴ってやろうって思ったらすぐどっかに消えちゃ――――」
ルルナの言葉が唐突に遮られたのは、ふとベッドの方から唸り声が聞こえ、3人とも自然にその方向に顔を向けたからだ。
「あれ……こ、こは……?」
「目が覚めたんだね! よかったぁー、このままずっと寝てたらどうしようかと思ってたの! 怪我とか変なトコはない?」
「あなたたちは……?」
まだ青髪の少女は夢見心地なのか、気怠さが抜けきらず、今の自分の状況もいまいち飲み込めていないようだった。
そこでルルナは自分自身で確認する意味も含めて、改めて説明する事にした。
「んーとね……」
――――まず自分達はこのアルカディア学園に在席する生徒で、試験目的としてユートゥルナ王国に魔法軍の応援に駆け付けた。
それから謎の機械軍を相手にしている内に、機械兵を操っている『指揮官』の存在を双子が独自に見つけ、そこで既に戦闘をしていて気絶していた『ルティーヌ』という少女を保護した。
そして双子の力の前に敗れた『メディウムロイド・レイシア』に父親であろうロベルティが呆然としていると、何処からともなく現れた謎の男によって殺されてしまい、そのロベルティから、最後の頼みとしてレイシアを双子に託した事。
これらをルルナは順を追ってゆっくりと説明し、決して嘘偽りではなく、確かに現実にあったという事を念頭においた上で、目の前にいる青髪の少女含めて『だから自分達は今この場所にいるのだ』――と、努めて優しく語り掛けたのだった。
「……やっぱりあれは、夢じゃなかったんですね」
身体をベッドから起こして、ようやく声を発するものの、眼には生気が宿らず伏し目がちなまま。
「私は……覚えているんです。何もかも。それでいてずっと……、ずっと暗い闇が広がってて……、手を伸ばしても何も掴めなくて……」
どれだけの間、彼女が彷徨っていたかは、誰も分からない。
「でも、このままではいけない。そう思った時、ふと目の前に景色が広がったんです。そしたら一瞬だけ目が覚めて、その後は……」
そう言ってレイシアが目をやったのは他でも無いルルナで、当の本人からしてみても、あの時レイシアが苦しそうに放った言葉は、忘れたくても忘れられなかった。
「レイシアちゃんはよく頑張ったと思うよ。あんな真っ黒な力に押し潰されて、ずっと言いなりになるだけだったのに最後まで自分を見失わないで居続けられたのは、それだけ強かったんだと思うよ。きっと――ううん、絶対そうだよ!」
「……そうだとしても、私は『一度死んだ』身ですから」
――今度は、レイシアが自分の出生や過去を明かす番だった。
魔法王国ユートルゥナで産まれた彼女は元々身体が弱く、『マナペースメーカー』と呼ばれる体内に直接埋め込む機械を用いてもなお、早くにこの世から去っていた事などを包み隠さず全て話した。
「あの時に既に終わった命が、今もこうして続いていて、それだけじゃなく多くの人を傷つけて、これから私はどうしたらいいのか……」
深く沈むレイシアに、誰も声を掛けられなかった。
様々な運命を経ながらも、こうして再び『生』を享受する事は出来たが、それは自分が望んだものではなく、他者の力――それも限りなく黒い力によってもたらされた『生』だ。かたや内側に自我や理性は残されたままで、延々と道具として扱われ続けて来た彼女の気持ちを思えば、やはりルルナでさえ何を言えばいいのか、分からなかった。
「……悩んでても仕方ねーさ」
そんな空気の中で、最初に言ったのはアムだった。
「聞くけどよ、あれは自分の意志でやったのか?」
「そんな事ありません! 私は抗いたかった! でも抗えなかった……! だからこそ、だからこそ私はあの時……ッ!」
レイシアは今にも泣き出しそうな表情をしたまま、ルルナに視線を移した。彼女が言う『あの時』とは互いにしか分からない瞬間だったが、それをルルナが口に出す事は決して無く――、
「まあ、色々あんだろうな。それでも――」
そして二人と同じく、アムの意志も揺らぐ事は無かった。
「アタシがいない間に何があったかは知らねえし、知る気も無いけどここにいるって事は大方の事情は察するさ。それに、偉そうに言ってるアタシだって本来望んでここにいる訳じゃねーしな。リアンだってそうだろ?」
「……言われてみればそうだね。私はこんな性格だから自分から何もやれなかったし、今も迷惑かけっぱなしだけど……。でも、そんな私にルルナが手を差し伸べてくれたからここに居られてるんだよね」
「結局『それ』なんだよなぁ。偶然とは言えさ、アタシも二人がいなかったらどうなってたかなんて、今じゃあ考えたくもないな……」
どちらが会おうと思って会ったのではない。ましてや仲間になろうとしてなった訳でもない。気付けばそこに居て、言葉に表せない何かに惹かれたからこそ別れる事なく、この関係が続けられている。
「えっとレイシアって言ったっけか。この後どうする気でいるんだ?」
「分かりません……。今は何も考えられなくて……」
「身体の方はなんともないのか?」
「はい。特に問題はありません」
「ふーむ。悩んでも仕方ねえなんてカッコつけて言ってみたけど、事情が事情すぎるし今更故郷へ帰るってのも無理そうだし……」
皆が考え耽り黙考していると、それまで口数を少なくしていた一人の少女が、閃きの声を上げる。
「――――あっ! そうだ! いいコト思いついちゃったッ!」
『途中で大きな休みを挟みましたが、ようやく二軍試験パートが終わりました。ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます』




