力には力で
「あいったたぁ……、その言い方ちょっとヒドくない? 2秒くらいは割と本気で気を失ってたんだけどね……」
シャルルがぶっきらぼうに話しかけたのは、瓦礫の塊。――否、そうではなく、その中心にいた『少女』だ。
【――まぁ、いっか】
瓦礫は突然強く爆ぜると、四方八方に弾丸のように残らず散る。
「ば――バカな……!?」
ロベルティの顔にも爆散した小石が多少当たるが、そんな痛みを気にしている場合ではなかった。
「た、対象生存――!?」
倒したと思っていた相手が、何故か生きている。レイシアの手には確かにルルナを斬り裂いた手応えが残っていて、かろうじて生きてこそすれ、五体満足でいるなど人間の身では不可能の筈だった。
「ふぅーあっぶないあっぶない――」
「なんだ……! なんなのだその『姿』は!?」
ロベルティが驚くのも当然と言えば当然だった。人間、ましてやただの少女だったと思っていた者が、まるで悪魔そのものの姿に変わっていたのだから。
「戦闘能力計測――――測定……不能!? 対象、Xランク……!?」
「そりゃーそんな機械程度じゃ、ルルの力を見破るのは無理かなぁ? 腐っても【サタン(魔王)の子供】だし」
「自分で『腐っても』とか言うかい普通……?」
「シャル―聞こえてるよー!? 今のルルは地獄耳なんだかんね!? 視れば分かるでしょ?」
竜の翼かと見間違う程に肥大化した二対の翼、蛇のようににゅるりと揺らめく紫の尻尾。一本一本が鋭利な刃物と化した真紅の爪や、悪魔を象徴する漆黒にうねった角に、瞳孔が開き切った金色の瞳。どれだけ少女らしい振る舞いをしても、やはり悪魔は悪魔。ルルナはかつて魔界を席巻していたマリスの愛娘なのだ。
「黙れぇ! その姿はなんなのだと聞いているッ!!」
「そんなコト言われても……ルルはルルだよとしか」
その見た目だけで魅了、或いは畏怖しそうな存在を見せつけてもごく自然にルルナは言葉を交わす。それがかえって、彼女の恐怖感を増長させているとは露知らずに。
「レイシア……! 力を――【ソロモンズ・ゲート】を更に解放しろぉッ! 今すぐにだッ!!!」
「……」
「どうしたッ! 早くしろッ!!」
「……了解」
これまで間髪いれずに従っていたロベルティの命令に対し、初めて間を見せたレイシア。最も、その理由を『主が知る』のは、もう少し先の事になる。
「【ソロモンズゲート・第六十五位悪魔・リベレート】。更なるマナの増加により――」「そんなものでは足りんッ! 力をもっとだぁッ!!!」
「……【ソロモンズゲート・第五十九位悪魔・リベレート】。……更なるマナの増加により、臨界点寸前の戦闘力を発揮します」
主の命――その名の下に、己を省みる事も出来ぬまま、闇の波動を無理矢理増大させていくレイシア。そんな彼女を、ルルナは黙って見つめていた。
「自分の手は汚さないで、バカみたいにチカラチカラってさ……」
「突撃、開始……!」
「そうやって、何処までも意地になるつもりなんだね!」
ルルナは既に、目の前の敵が限界近くまで力を出しているのはとうに分かり切っていた。
「だったらいいよ――――『来て』よ」
「闇刃――ッ!」
ロベルティの命で限界まで増大させた闇の力を、レイシアは魔王となった少女に惜しみなくぶつけた。
(――!? 何故避けない……!?)
ロベルティは目を疑った。前方にはさっきまでルルナが展開していた魔法障壁もなければ、回避しようとする動作もない。となれば、まともに受けるのは必至。
だが相手は敵。レイシアにとっては主が強く命じた、倒すべき敵。剣を振り下ろす事に躊躇いなどない。真っ二つにする想いで、レイシアは強い殺意を以って斬り裂く。
「よ、よし! 手応えはあったぞレイシア! そのままヤツを――――なッ!?」
――弾ける火花。甲高く鳴り響く雷鳴のような金属音。
――――ルルナを仕留める筈の造られし闇の剣は、その頬にはまるで届かず、透き通るような肌色をした『右手のみ』に易々と阻まれていた。
「……ごめんね。アナタは、ルルには『勝てない』」
そうルルナは悲嘆的に囁くと、空いた左手で魔法を唱えた。――何という事は無い、ただの無属性攻撃魔法。――その威力たるや、筆舌に尽くしがたく、それでも敢えて言うならばただ『無慈悲』としか表しようがなかった。
強大な魔力の波動はレイシアを一瞬で飲みこんで、全てを無に帰していく。




