先が見えたような見えないような
「突然なんですが、マーテルさんは『カースドウェポン』の存在は知ってますよね」
「……本当に突然ねえ。『使用すれば多少のデメリットはありながらも、特定の効果を強く引き出す能力』を持ったアイテムないし装備品の事を言ってるのよね?」
「ですね。……最もその『デメリット』が、学園に在席している生徒達にとってはかなり致命的だからこそ禁忌の装備でもある訳ですが」
他にも回復や治療、他には身体増幅を目的で服用する回復薬は身体に大きな負担はかけないのは勿論の事で、後遺症や依存症を引き起こさないように適切なバランスで作られているのである。
……筈なのだが、生憎と世界は広い。
己の壁にぶつかってしまっても強さを求めたり、目的を遂行するならば手段は問わないという冒険者や戦士だって少なからずいる。
そんな心の弱さにつけ込むようにして秘密裏に出回っているのが、シャルルが今しがた言った『カースドウェポン』の存在だ。
地道な鍛錬や特訓を積み重ねなくても楽に強さを手に入れたいという、悩める騎士の『本音』を叶えてくれるという魅力が、それにはあったのだ。
本来のバフアイテム等とは違い、モノによっては本人の二倍三倍にも及ぶ能力を引き出させてくれるアイテムもあり、表面上は夢のアイテムにも見えるだろう。
そんな人として誰もが一度は考えた事がある者にとっては、ある意味では至高の一品とも呼べる『カースドウェポン』は、本来は学園外に存在する冒険者などで出回っているケースがほとんどだった。
「それなのに……です。この学園でも『それ』を使っている生徒がいるかも、と言ったらどうします?」
「……言うまでもないわね。良くて『停学処分』。最悪、魔法騎士としての資格を永久に失うわ」
「あれ、もっと驚くかと思いましたけど存外ですね」
「あらら。私を『誰』だと思ってるのかしら?」
「アルカディア学園の理事長?」
「シャルルちゃんはそう思ってるの?」
「はは、まさか」
「……憎いくらいにあっさりと言うわね。……まあ仕方ないわ、『母』として力を行使しなければ見破れなかったんですもの。話って『それ』よね?」
「そうですね。何しろ巻き込まれているのが、僕等ともそれなりに縁のある人もいるので、あまりほっとけなくなったんです」
「それは残念ね――」
マーテルは椅子からゆるりと立ち上がり、窓の外を見やると、そのまま双子に語り掛けでもなく、それでいて独り言ともまた違った抑揚のないトーンでぽつりぽつりと語り始める。
「最初に『カースドウェポン』の存在を明確に捕えたのは今からおよそ3ヶ月前。それからも右肩上がりで増え続けて来ているわ」
「そもそもマーテルさんはどうやってそれを最初に見つけたんですか?」
「……言い得て妙かも知れないけど、最初に思ったのは『悪寒』……かしらね」
「へーなんだかシャルと似たような事言ってるね」
「あら、するとシャルルちゃんも似たようなのを感じたのね」
「生憎と僕は『勇者』としての血が濃いようで、昔から『悪い気配』みたいなのには敏感だからこそ気付けたのかも知れませんね」
「シャルばっかそういう特殊能力あってずるいよねー。ルルにもほしいなぁ」
「君はモンスターと会話できる力があるからいいじゃないか」
「そういやそうだったね。ていうかさ『カースドウェポン』ってそんなに危ない装備なの?」
「副作用や依存症が尋常じゃないからね。効果そのものはひとまず置いといても、使い続けてれば身を滅ぼしかねないと言われてるまでの影響があるから、魔法騎士連盟だけじゃなく、警察などの公的機関が動くまでのシロモノなんだ。それが成長途中の未成年者ならそれだけ副作用の進行度も早い」
「そうね……正しくその通りだわ。だからこそ、私は理事長としてその生徒の気持ちを軽はずみに利用する連中を許す訳にはいけないのよ」
「でもそれこそ、マーテルさんが本腰を上げたら組織を潰す事くらい可能なのでは?」
「そうしたい所なんだけど、この世界で起きている事に関しては『母』という立場だと、あくまで不干渉じゃないといけないのよ」
もし今起ころうとしている事態が本当にこの星を滅ぼしかねないまでのレベルならば、マーテルも本格的に動かざるを得ないが、文字通り『神としての観点』で見れば、今回の件などちっぽけな人間同士が起こしている『些細な事象』に過ぎない。
となれば『母なる星の化身マーテル』として動く事は不可能であり、あくまで学園の理事長として対応をするしかなかったのだ。
「ひとまず言いたい事は分かりましたけども……かといって、このまま静観するつもりはないんでしょう?」
「そりゃあ……ね?」
マーテルは手首に装着していたブレスレットに触れると、そこから床一面に映像が投影される。
するとそこに映し出されていたのは、どこかの街を一枚に画像に収めた全体図らしきものだった。
「さて……今から説明する前に。これから見せる物は、あくまで『母としての私』が勝手に調べてる物よ。だから貴方達が心から信頼の出来る子達にだけしか伝えないと約束するなら、この先の話を進めるわ」
「それはつまり、僕達の結成している『グローリィ』の中だけに留めるという意味でしょうか?」
「そうね。そうなるわ」
「プリスやミュリアには?」
「あの子達とは魂とマナが繋がってる存在だから、敢えて伝えるまでもないわ」
「……分かりました。約束します」
「よろしい。物分かりが良くて助かるわー」
厳しい表情から一転、緊張感の無い普段のマーテルに戻ると、目の前の床にアルカディアラインから立体映像を映し出す。
「おー流石ハイテク揃いの学園! シャルが作ってる道具と色々仕組みが似てるね!」
本来はマーテルが装着しているブレスレットでも、本来は選りすぐりの研究者達が揃って開発してようやく出来上がった代物だろう。
それをシャルルは若くして既に同等クラスの機械を造り上げている事自体が既に常軌を逸しているのだが、今優先すべき議論はもっと他にある。
「これは……僕等のいる大陸の全土マップ? で、あちこちに表示されている赤い点は一体?」
「どうやら一定の場所からではなくて、普段から持ち歩いている何らかの道具から魔法そのものを遠隔発信しているみたいなの。だから見た目は何の変哲もない装備品である可能性も非常に高いわ」
「へえ……外部からの直接干渉? それもアルカディア学園の壁をいとも簡単にすり抜けるだけの能力が……? これは僕もちょっと興味深くなってきましたね」
「学園や外部の公式のスレイヤーズマッチでも、試合前などは魔法連盟が定めた指定外の禁止アイテムや装備を持ち込んでいないか厳重にチェックするわ。それこそ『普通のカースドウェポン』なんて持ち込んだら一発でばれるし、その時点でアウトよ」
「うーん。例えばさー。外からものすっっっごい弱い電波とかが送られてきてね、それがみんなつけてる装備の力を解放するだけの魔力とかなら引っ掛からない……て事はないかな?」
「ふーむ。要するに『トリガー』……。だとルルナは言いたいんだろうけど、実際どうなんですか?」
「――――無理ね。仮にそれが本当に電波の類だとしても結局は魔力として認識されるし、魔法騎士連盟で運用してる『マナディテクション・システム』は0.00000マナまで検知する……まあこれ以上の専門的な話は置いといて、要するに普通の方法では見破れないのは確かね」
「ならマーテルさんはどうやってそれを見破ったと?」
「私は今まで『お互いが共鳴している』と思い込んでいたからこそ、それまで気付けなかったの。だからこれに気付けたのは本当に偶然だと思っていいかも知れないわね」
そう言って、マーテルは大陸全土に表示された赤い点に関する情報を細分化すると、次に表示させたのは『赤い点が発生した時間』だった。
更に今度はアルカディア学園で行われていたスレイヤーズマッチの開催日を日にちだけでなく、『秒分』まで分かるようにかなり細かく表示させる。
「――どう? ここまで見せたら分かるんじゃないかしら?」
「ああ成る程。その赤い点は『魔力そのものの発生時間』を表してるんですよね? これは確かに普通ならば調べようがないですね……」
「えールル分かんないよぉ…………。――――んー? ああぁー! これって『時間が全く同じ』なの!?」




