さすが理事長。超ごたぼー
それから早三日。
残り三つだった『七竜の雫』もプリスの協力によって、高難度のクエストにも積極的に参加できるようになり『氷竜の雫』と『水竜の雫』とテンポよく入手できた。
元々魔法の素質に長けたリアンと、単純な戦闘力では今でも二軍には引けを取らないアムの実力もあって魔法騎士序列も順調に上がっていき、気付けば二軍昇格試験の受験資格の目安とされる15000位まで後少しだった。
一方で双子はギルドとして力だけでなく実績も少しずつ積み重ねて来た影響で、次第に二人の名はちらほらと目に着く様になって来たのを尻目に、『グローリィ』専属のメインクラフターとして地道に装備やアイテムを作成していった。
単純な戦闘面で目立つとやはり色々と箔がついてしまうが、やはりギルドとしてこれから先発展していく上で、どうしても双子も何らかの形でサポートせざるを得ない。
そこでクラフターとして裏方に徹すれば、二人をサポートしつつ少しでも双子の名を前面に押し出さずに済む。二軍程度のクラフト能力ならば大して目をつける人もいない為、一石二鳥だ。当然今後更にギルドが成長していけば、本格的な専属クラフターを探す事にもなるだろうが、それはまだ先の話である。
「アタシの序列は現在15571位か……リアンはどうだ?」
「私は……えと……。15490位かな……」
最後の雫となった『皇竜の雫』を取りに行く準備をしていたのだが、終始リアンは浮かない顔のまま。双子の部屋のソファに向かい合って腰掛け、アムが何かを聞いたり返事を促しても生返事ばかりで、完全に上の空だった。
「気になって仕方ないのか?」
「うん……。ダメだよね私。焦っても意味がないのは分かってるのに、今は目の前の戦いに集中しないとって何度言い聞かせても、それでも迷いを振り払えない自分が情けなくて……」
「しゃーねーさ。アタシだって大事な人が大変な事に巻き込まれてるって思ったら、気が気じゃない」
「アムやルルナはいつも元気で勢いもあって、シャルルも何事にも動じないとても芯の強いだし、本当尊敬しちゃうな」
「いやアタシはともかく、あの双子だけは色々ぶっ飛び過ぎてるからあんまり憧れとか、そういった対象にすべきじゃないぞ。……とにかくだ!」
勢いよく立ち上がったアムは、自らの相棒である大斧をリアンの前にかざす。
「こんな時こそ、大事なのは『コイツ』だ。ここは戦って戦い抜いてこそ、自分が証明できる場所なんだ。だったら、リアンもいざとなったら戦いを通じてアイツ等と語ればいい」
その目には一点の曇りもなく、確かな『戦士』としての誇りがあった。
『――――そうですわ! 最も大事にしなければいけないのは誇りですわ! どんな時でもそれだけは失ってはなりませんのよっ!』
そして、そのタイミングに合わせてかはたまた偶然か、勢いよく双子の部屋の扉をプリスが開く。
「ってあれ、あの双子達はどうしたんですの?」
「ああシャルル達なら『プリスが来るなら僕等がいなくても大丈夫』って言って理事長の所に行ったらしいぜ」
「へーそうですの、理事長の……元にですってぇ!?」
* * *
――アルカディア学園・理事長室――
小広い部屋の中央奥に設置された大掛かりな執務机の椅子に、一人の翡翠色の髪をした女性が腰かけていた。
その女性はコンソールらしきものを絶え間なく叩き続けながら、どこからかかかってくる着信を取っては応答を繰り返したかと思うと、今度は椅子から立ち上がって壁に置かれた本棚から資料を取り出してはパラパラとめくり、ほんの少しだけ独り言を交えながらそれを誰に伝えるでもなく、勝手に納得をする。
「もーまたあの題材を取り上げるの……? 突然議事録がほしいって言われたって……あ、あった。……半年前の会議議事録だけど、無いよりはいいでしょ」
目的の資料を見つけるや否や、再び女性の腕につけたアルカディアラインからコール音が鳴る。
「あーもー! なんで今日はこんなに着信が……。はい、マーテルです。……ええ、その件に関しては先日データをお送りしましたので……え、中身が違う? 本当ですかー!? ごめんなさい、すぐに確認して再度転送しまーす!」
慌てて電話を切り、再びコンソールを叩き付けて今度こそ間違いのないようにと、入念にチェックして送信のボタンを押すと、天井を仰ぎながら、ようやく一息つく。
「やっと終わったわ……。時間は今……16時前。定例会議まで後一時間……。それが終わったら今度は新ダンジョンの視察……。今日も忙しいわねぇ、――――あ、忘れてたわ。もう『出て来て』いいわよー」
そう女性が言うと、部屋の片隅からうっすらと姿を現したのは――、
「……思ってたよりも忙しいんですね。『僕等』の都合ならいつでもつけられるんで、話はまた後日にでもしましょうかマーテル理事長?」
「うんうん。プリスママとっても大変そう! ルルだとこんなお仕事1分で投げちゃうよっ!」
「ルルナだと1分も持たないよ」
「やってみなきゃ分かんないじゃーん! ねープリスママ、その紙見せてー!」
「こ、これは貴方達が見てはいけない機密事項だからまたその内……ね? それよりも改まって訪ねて来て、どうしたの?」
このままでは流れが良くないと判断したマーテルは、慌てて軌道修正をする。それに本来の用事を思い出したシャルルも『そうだった』と言わんばかりの顔で、ようやくマーテルと対話し始めるのだった。




