見くびってたね
槍の切っ先から放たれた無属性の大魔法は突き刺したシャルル諸共、虚空へと弾き出されると、大広間の天井を突き破って激しい振動と衝撃音が周囲に響き渡る。
「う、うそ……。マジで……!? ちょ、シャルー!」
展開があまりに一瞬過ぎてそれまで黙って見ている事しかできなかったルルナだが、天井から力無く落ちてくるシャルルを超高速移動ですぐさま駆け付け、それ以上の追撃は許さずになんとか食い止める。
「む、あの無礼者め、あっという間に距離を……。やむを得ませんね。ここは一度止まりましょう、プリス様」
「察しの良さは流石、双子と言った所ですわね。あのままダラダラとシャルルを見届けるようならば『一気に殺してしまう』所でしたもの」
その眼は決して冗談や脅しではない、本気の殺意だった。
侵入者としての立場にある双子は、本来立ち入る事すら許されていない招かれざる来訪者。実力が拮抗しているから一見いい勝負をしているようにも見えるが、その裏でプリスティアは確実に【王女】としての役目を行使していただけに過ぎなかった。
「ですがプリス様。元々この場所に招いたのが私達であるのも事実。そこは多少の配慮と措置を加えて上げるのが一応『筋』なのではないかと」
「へえー。貴方も『アソコの学園暮らし』を長く経験してしまって、すっかり人間らしさが身についてしまいましたのね?」
「い、いえ! そんな訳では……!」
「冗談ですのよ。ま、当然あんな事して死ぬようなあの人でもないからこそ、手加減をしなかった訳ですし。――そろそろまた『仕掛ける』と致しますわ」
* * *
「ちょっとシャルだいじょぶぅ!?」
「いたぁー……。久しぶりに身体に穴を開けられた気がするよ。心臓ならちょっとやばかったかもね」
「そこ冷静に言ってる場合なのっ!?」
「このくらいなら治癒魔法ですぐ治るし、平気じゃないかな。ただ、ね? 傷が傷だけに時間がかかるし、何より『向こう』がそれをさせてくれるかが問題かなって」
シャルルの言葉通り、回復そのものは本人らにとってはさしたる問題ではなかった。真の問題は今が戦闘の真っ最中という事。遮蔽物も間になく、身を隠している状態でもない。少しでも隙を晒せば、再び猛攻を仕掛けて今度はルルナの身すら危ぶまれる。そうなると、双子に待ち受けるのは『敗北』だ。
「んーどする? 降参?」
「まさか」
「じゃどーするのさ。今ちょっとだけピンチだよ?」
「要は僕がさ、『安全にもう一度体力を回復できればいい』んだよね?」
「いやそうだけどね、アイテムも無いし魔法以外で他にどーしろって…………あ」
ふとルルナが何かを閃いた。その閃きに合わせて、シャルルも薄ら笑みを浮かべた。
「でも、決められなかったらどするの。まだ相手の手の内全然読めてないのに?」
「いや――直接ダメージを受けて分かったよ。これなら『全然いける』ね」
「へー強気ぃ」
それはこの場所に来て、恐らくシャルルが最も強く言い放ったであろう確信の言葉。口元からは血を垂らし、服はあちこち剥がれ、肉体はボロボロになりながらも、その瞳は何一つ揺らいではいなかった。
「じゃ久しぶりに血を一杯流した所で――――第二ラウンドと行こうかな」
* * *
「……その傷でもなお前に立つその胆力。流石ですわね」
「僕達は前に立つしかないからね。少しでも背中を見せたら即殺されそうだしさ」
「ですわね。で、どうしますの? 今素直に負けを認めるなら、ここに立ち入った事をこのワタクシに免じて無しにしてあげますが」
「へーよく言うじゃんープリティ。『お姉ちゃん』はここに来ても、普通に接してくれてるのにー?」
「……お姉様は他の俗物に対して寛容過ぎるのですわ。だからこそ、このワタクシが強く戒めないといけないのです!」
「姉がだらしないからこそ、自分が、か。成る程、概ね筋は通ってるねぇ。(――ルルナ、ちょっと二人に【性能探査魔法】を)」
(ほいほい――っと)
――――
―――――――
※※※【プリンセス・オブ・テレスティア】としてのエネミー能力※※※
攻撃手段:素手(魔法攻撃がメイン)
HP:7701502
MP:56887
STR(腕力、攻撃力) S
VIT(体力、防御力) S
AGI(敏捷、俊敏性) SS
INT(魔力、知力) SS
RES(抵抗、免疫力) SS
DEX(器用、制御力) S+
LUK(第六感、直感力)S
火属性=A
水属性=A
風属性=A
地属性=S
氷属性=A
雷属性=A
光属性=S
闇属性=C
無属性=B
※固有能力・ユニークスキル
・『生命供給』
テレスティアル・コア内での戦闘時、HPが一分毎に15%自動回復する。
・『魔導供給』
テレスティアル・コア内での戦闘時、MPが一分毎に35%自動回復する。
・『ペネトレイター・マナリアル』
魔法攻撃時、相手の反射及び軽減魔法を全て貫通して125%のダメージを与える
・『光精活性・超』
光属性の攻撃をした時、与ダメージが1.4倍上昇する。
光属性の魔法攻撃を受けた時、被ダメージの85%を吸収する。
・『クィンテット・スペル』
五連続までほぼ同時に魔法を行使できる多重魔法。
・『オートコール・ガーディアン』
プリスティアが攻撃を受けそうになり、かつミューリアスが行動可能な場合、ミューリアスはプリスティアの前に強制移動する。
・『???』
???
(およ、一個だけ見破れなかったのがあるぅ? まいいや、次は――っと)
※※※【超々高次精霊体ミューリアス】のエネミー能力※※※
攻撃手段:盾と槍
HP:3840670
MP:25578
STR(腕力、攻撃力) SS
VIT(体力、防御力) SS
AGI(敏捷、俊敏性) A
INT(魔力、知力) Aー
RES(抵抗、免疫力) S+
DEX(器用、制御力) S+
LUK(第六感、直感力)A-
火属性=S
水属性=A
風属性=A
地属性=S
氷属性=B
雷属性=A
光属性=B
闇属性=A
無属性=S
※固有能力・ユニークスキル
・『活性供給』
テレスティアル・コア内での戦闘時、HPが一分毎に10%自動回復する。
・『魔力供給』
テレスティアル・コア内での戦闘時、MPが一分毎に10%自動回復する。
・『ペネトレイター・フィジカル』
物理攻撃時、相手の防御魔法を貫通して105%のダメージを与える。
・『魔活性・大』
無属性の攻撃をした時、与ダメージが1.3倍上昇する。
無属性の魔法攻撃を受けた時、被ダメージの70%を吸収する。
僅かな隙を突いて【探索魔法】を行使し、双子の間にできる限りのエネミー情報を直接インプットさせた。
――――この間、秒にしておよそ1.5秒。
それ以上時間をかければ、向こうは攻撃をしてくるとルルナは直感で感じ取り、最低限の情報だけをシャルルと共有した。
(へえ。『オートコール・ガーディアン』ね……。突然ミューリアスが目の前に現れたのはこれが原因だったみたいだね)
(どうするのー? 向こうはプリティがピンチになったらすぐ駆け付けるっぽいし、ルルがなんとかしないといけない感じ?)
(そうだね。で、差しあたってだけど――今の能力と直接身体で攻撃を受けた素直な感想としては、今の『本気』なら割とやれそうだと思ったよ。……ルルナは?)
(え、えー? まあ……『やれなくはない』けどもね?)
(歯切れが悪いね。嫌かい?)
(だってあれ使うと疲れるしー)
(今そんな事思ってる余裕はないんじゃないのかな?)
(ちぇー。わっかりましたよーっと)
二人は危機に晒されているというのに、どこまで言っても態度を改めるどころかますますいつも通りになっていく。ここが『どんな空間』なのかも、今やすっかり忘れているかのように。
そしてそんな光景をまざまざと見せつけられて、落ち着いていられる【王女】ではなかった。
「さっきから攻めるでも守るでもなく、何を企んでいるのか分かりませんけど……随分と余裕ですのね。…………ミューリアス、気が変わりましたわ。ヤツらを一度粉微塵にしますわよ」
「よ……よろしいのですか? 先程は――」「人間の肉体など後で修復すれば良いのですわ! この空間内に生体物質が分子レベルで生き残っていれば再生など容易い事! このワタクシの前でそんな不遜な態度を取った事、その身を以って後悔させてあげますわッ!」
これ以上【王女】のプライドを汚される訳にはいかない。感情の臨界点を超えた今、プリスティアの中にあるのは『駆逐』のみだった。
そして、その感情を見抜けないシャルルではない。向こうが本気であればある程、勝つ価値がある。
「粉微塵ね。そっちがその気なら僕等も――」
――――故に、使わない手はなかった。
「ちょーっと【本気】出すねー? プリティ、覚悟はいいかなっ?」
勇者と魔王の子にして、秘められし超絶の力。
この時に使わずしていつ使うのだという、愉悦と興奮に満ちた双子の瞳が、プリスティアの心を射抜く――――。
「僕の内に眠る勇者の力――――『クリティカルモード』、解放!!」
「我が内に封じられし魔王の力――――『サタンモード』、今こそ此処に具現せよっ!!」




