いつものパターン?
「よーしまずは一体。このまま一気に残りも倒しちゃうよー!」
この調子ならばわざわざ後から駆けつけてくるシャルルとアムを待たずとも、二人だけでも倒せるだろうと、学園に帰った時の土産話として花を咲かせられると思うと、ルルナは興奮を抑えられずにはいられなかった。
「待ってルルナ! あの竜の様子が……!」
一瞬の隙を突かれ、援護する間もなく地に伏した雷竜。しかし、戦いはまだ終わりではなく、この電波塔をもう一度平和にするには残っているもう一匹の雷竜を倒さなければいけない。
「やばぁ……。これってもしかしなくても……『ブチ切れ』てるぅ……?」
――その通りだ。
とでも言いたげに、怒りに震えた雷竜。ぐわりと開いた口からは地上にまで届きそうなまでの激しい雄叫びが上がると、その音の大きさに空気までもが振動し、その圧は彼女等にもピリピリと伝わる。
「いい声で鳴くじゃない……! でも後ろの子供達には指一本触れさせないんだからねっ!」
例え相手が強かろうと格上だろうと、今のルルナにあるのは子供達を『ただ無事に連れて帰る事』のみ。その為ならば最悪、力を解放する気ですらいた。
そして雷竜は怒りに身を任せるままに、今までとは比べ物にならないスピードでルルナに突っ込む。
(え、はや……! これは一発使わないと……!)
間一髪。誰もがぶつかるかと思ったギリギリのタイミングで、ルルナは回避に成功した。
――が、所詮は一度切りの回避。本来切り札として使うべきの【天性の勘】はたかが一度のぶつかり合いで使う能力ではない。
(しかもやばいよ、さっき魔法使っちゃったから後一回しか使えない……)
ダメ押しと言わんばかりに雷竜は再び咆哮を上げる。それに呼応するかのように他のモンスターも次々と現れ始め、瞬く間に周囲を埋め尽くされてしまった。
最早ここから逃がす気はないと、殺意に満ちた全ての魔物の眼光。下手な動きは即死に繋がると、この場にいる誰しもが肌で感じていた。
「……パパごめん。約束……破っちゃうかも」
自分はどうなろうが、皆の命には換えられない。アレを破ってしまったら今後学園に戻れるかは分からない。それだけでなく、折角知り合った今までとの仲間――特にリアンやアムとの関係までも疎遠になってしまう可能性もある。それは即ち、再びあの『退屈な日常』に逆戻りする事を意味している。
「それでも……ルルがなんとかしなくっちゃ……!」
悩んでいる暇はない。早く行動しなければ、子供達だけではなくリアンの命すらも危ぶまれる。
――それだけはなんとしても避けなくてはならないと、ルルナは意を決して飛び出そうとする。しかし、だ。
その固く握りしめたその拳が、モンスターに差し向けられる事は『なかった』。
「そろそろその辺にしとかないとね、ルルナ」
「うそー『シャル』ぅ!?」
いつの間にか合流していたシャルルの存在に驚きを隠せなかったルルナ。そしてシャルルがいるという事は――
「はっはー、ザコの大群はアタシの独壇場――ってねッ!」
活き活きと大斧を振り回すその姿は、リアンと同じく今や見慣れた仲間の一人、アムの勇姿だった。
斧を一振りするだけで多くの雑魚が散り散りに吹っ飛び、武器をぶん回せば回す程にそれは破壊力と脅威を増し、モンスターはより近づけなくなる。
「アムっちも……」
「ほら、見惚れてないで僕等は僕等のやる事をするよ。ルルナの勝手な行為で僕まで巻き添えにされたらたまったものじゃないからね」
「――うん!」
それまでずっと焦りの色を見せていたルルナに、ようやくいつもの笑みが戻った瞬間だった。シャルルのぶれない皮肉に対し、がむしゃらに捲し立てるルルナ。そんな二人の日常的なやりとりを後ろで見ているリアンにも、自然と温かい微笑みが零れる。
「それに僕もいい加減ひと暴れしたいところだったし、今度は僕が先頭を引き受けるよ。まあ、トドメを刺すのは結局――」
シャルルが手に魔力を込めながら、詠唱をする。
「リアンなんだけどね――――【鈍化魔法】!」
「おーこれなら楽だね」
「っていうか、ルルナは使えなかったんだっけ?」
「えーとほら、今のルルは『のーきん仕様』だから」
……どんな仕様だと、シャルルは心の底から突っ込みたくなったが、今そこに触れている場合でもない。
「まあいいや……。魔法力自体はかなり低いから効果はすぐに切れるよ。30秒保てられればいい方だからね」
「だってさーリア。それまでに準備してねー!」
「え、えぇー! そんないきなり!?」
リアンの返答を待つまでもなく、双子は怒り狂う竜の下へと突進する。
前後で挟み撃ちする陣形を常に取り、狙いを絞らせない。それだけで雷竜は注意力が散漫になり、繰り出す攻撃にも迷いが出る。それは最終的に命中率を下げる事にも繋がる。相手が【鈍化】しているなら尚更だ。
「リアのきっかけ作りはどーするの?」
「大きい技を出すタイミングに合わせて僕が仕掛けるよ」
ルルナに攻撃をすると、その隙を狙ってシャルルが背後からカウンターアタックを仕掛ける。それに警戒して雷竜がシャルを狙うならば今度はルルナが……と繰り返して、息がバッチリあった連携プレイで雷竜を巧みに操る。
「よしこれならば……む?」
この調子で、と思い始めた矢先、雷竜は甲高い叫びを上げると一際高く上昇し、眼下に双子達やモンスター共々全てを見下ろす状態となった。
「ねえシャルあれってもしかしなくても……」
「うん――来たね。その『大技』が」
全身を激しく震わせ、夥しい量のマナをみなぎらせる雷竜。それは見る見る内に口元へと集束され、誰が見ても『破壊力満点の雷魔法』であるのは明らかだった。
「ちょ、おいおい! あんなバカデカいの来たらアタシ等だけじゃなくて、ここらのモンスター諸共ぶっ飛ぶぞ!」
例え同胞を失ってでも、あの双子を葬り去る。今の雷竜にあるのはその憎悪のみ。
「リアン、詠唱を始めておいて!」
「え、だ、大丈夫なの!?」
「説明してる暇はない。とにかく僕を信じて」
「……分かったわ!」
「シャルどうすんのー! あんな高さじゃ誰も攻撃届かないよー!」
「分かってるよ。一人だけの力じゃ無理な事くらい、ね。だからルルナ、ちょっと『僕を上に飛ばして』頂戴」
「あー……そゆ事ね。でもこの状態じゃ力加減がよく分からないけど、それでもいいの?」
「その辺はルルナなら大丈夫って確信してるから」
「……そーやってルルにプレッシャーかけてくスタイル?」
「失敗したらみんなの命が無いからね。仕方ないね」
会話をすればするだけシャルルはどんどん重圧を積み重ねていく。故にルルナはこれ以上シャルルと会話する事を辞めた。
「あーもー! 失敗したらシャルの所為なんだかんねっ!?」
「分かったって。ほら早く準備して、時間ないよ」
シャルルの言う通り、後少しもしない内にブレスが放たれる。四の五の言ってられる状況でも無いのも確かで、ルルナも腹を決めるしかなかった。




