結局、こうなるのね……?
「はい! おっけーだよシャル!」
「了解……っと」
シャルル距離を取って助走をつける。
そしてルルナの掌を踏み台にするようにして足を乗せると、そのタイミングに合わせてルルナは『風』の力を加えて一気に空へ放り投げる。そして――――シャルルは天高く跳躍した。
その目標は言うまでもなく、
『!?』
「おや、僕程度の力で、見下ろされてるのがそんなに不思議かい?」
なんとシャルルは大胆にもブレスを吐こうとしている口元の上に乗り、その冷血な瞳で不敵に雷竜を見つめた。
「別に心配しなくても、僕自身には倒す力は無いよ。ただ少し狂わせたかっただけだから。……『こうやって』、ね!」
そう言ったシャルルの手に握られていたのは、一本のダガー。そして水色の魔力に輝いたソレを雷竜の瞳目掛け、迷いなく一気に――――振り下ろす。
抉られた瞳から血飛沫が上がってもシャルルは何一つ表情を変えず、反対に雷竜はその壮絶な痛みに苦しみ悶える。如何にドラゴンと云えど、露出された瞳を潰されて平然でいられる訳がなかった。
更に『水』の魔力が侵入した事によって、雷竜は自身の魔力をコントロールする事が困難になる。
コントロールを失った末、どうなるかと言えば、――答えは簡単だった。
「ひょーシャルえげつなー。ブレスも変なトコに飛んでっちゃったし」
「今だよリアン! 終わらせて!」
シャルルが合図するまでの間、リアンはずっと目を閉じて詠唱し続けていた。失敗しないように。威力を少しでも高められられるように、と。
そして『その時』は来た。最初に一体目を倒した時と同じように、リアンは魔法陣を展開して標的を捉える。
「この一撃……外さない!」
以前と同等。――いやそれ以上のマナが集約されたその魔法は雷竜の全身をあますことなく飲み込んで、対象を葬り去る。
ハイドロカノンが放たれた軌跡には水の粒子が夕暮れの空にキラキラと舞い落ちた。
その後に残された『最後の討伐対象』も力無く落下して、ドスンと鈍い音と共に完全に消沈した。
「……終わり。かな?」
華麗に着地したシャルルがぽつりと呟く。それは誰かに言った言葉ではなく、ごく自然と口から出た言葉。
――
―――――
* * *
――アルカディア学園・双子の部屋――
「とりあえずお疲れ様……と。はいこれ、疲労回復と精神安定に抜群の効果を持った僕特製のハーブティー」
さっきまでの騒ぎが嘘のような、静けさに満ちる双子の部屋に戻って来た4人。
戦いから戻って来て各々の後始末を追える頃にはすっかり夜も更け、ようやく腰を落ち着けてシャルルが淹れてくれたハーブティーの味と香りに包まれながら心と身体を安らげていた。
「まーでもあのガキんちょ達にも何事も無くてよかったな。つかよくあの施設に傷一つつけずに入れたもんだよ。多分昔のアタシなら力づくで侵入してただろうし、ハハ!」
「へー。やっぱアムっちって昔から『のーきん』だったんだねー」
「んぐっ……。なんだとこのぉ……」
立ち上がりかけたアムをリアンがまあまあとなだめ、折角の落ち着いた雰囲気を台無しにしないように努める。
「でもあの子達、私なんかじゃ想像もつかないくらい普段から元気が有り余ってるんでしょうね。無事にお母さんの下へ帰した時もずっと元気に手を振ったりルルナにべったりだったし」
「帰り際に僕が訊いたところによれば、なんでもリーダー格の少年が【解除魔法】の知識に長けててセンスもかなりのものだったらしいね。それを他の子達が過ぎた悪さをしないように見張り役も兼ねて同行させてたらしいけど、今回はちょっとばかり冒険心が強すぎた故に起きた不運だった、と」
「ほおほお。じゃあ最初にコンソールのロックが解除されてたのも?」
「ま、『そういう事』だね」
たった一人の遊び心がここまでの事態に発展させる。子供心とは無邪気であるからこそ、善も悪もなく純粋に己の衝動のみに突き動かされる。普段は猪突猛進なルルナも、今回は少しだけ考えさせられる一件となった。
ちなみに例によってシャルルとルルナは直前でクエストから棄権しているので、報酬や序列に直接影響があるのはリアンとアムのみ。
「――それよりもなんだけどね」
唐突に話題を切り替えるようにして口火を切ったのはシャルル。
「これで残りは水と氷と無の雫。水と氷はなんとかなるとしても、問題は『最後の雫』なんだよね」
「まあ……やっぱりそうなるよな。アタシも最初からそれでずっと悩んでたんだし」
「今更だけど七色竜の雫で必要なのは基本6属性の竜の雫と、無属性の竜の雫。その中でも特に貴重だと言われてるのは――通称『皇竜族』と呼ばれる竜の中でも最上位に位置する種族の竜が持っていると云われる『皇竜の雫』だ。ちなみに神竜バハムートがこの皇竜族の頂点に位置すると言われてるね。これを手に入れるには、二軍はおろか一軍でも実力、手間、そして運が求められる至高の一品だ」
饒舌に語るシャルルの口からは、自分達が手に入れるには気があまりに遠くなる現実離れしたワードがひたすら飛び交う。アムは耳が痛くなるような仕草をして、リアンに至ってはぽかんと開いた口が塞がらない始末だ。
「ねーシャルどーするの? 七色竜の雫だったらたしか倉庫にまだ余ってるし、なんだったらルルがこっそり取りに行ってもいーよー」
「それじゃただ雫を手に入れるだけで肝心の評価や序列が何も変わらない。時間に余裕があればそれでもよかったんだけど、今回はそうはいかないからね」
「えー。じゃどーするのさ」
純粋に疑問に思うルルナは不満たっぷりにシャルルに尋ねる。
「簡単な事さ。こちらから出向くのが無理なら――実力の伴った人物と一緒に出向いて取って来ればいい」
「は、はあ? 実力の伴っただあ? そんなの一軍クラスじゃないと無理だろうよ。一緒に出向いてとか言うけどよ、そもそも表立って行動も出来ないし、大体シャルルにそんな伝手でもあるのか?」
「まあ一応ね。今アムの言ったあらゆる条件を、ただ一人だけ満たしてる人がいるんだ」
「へーすごい。シャルル達は後から来たのに、私よりももうそんな交流を築いてるなんて。それってどんな人なの?」
「んーとね。学園で序列一位の人だね」
「「……………………へっ?」」
リアンとアムの素っ頓狂な疑問符がぴったり同時に重なる。
一方でルルナは『やっぱりね』と云わんばかりの呆れ顔でテーブルに頬づえを突き、何も云わずに誰もいない方向へジト目を流すばかりだった。




