こういうめんどくさいのがあると、作業も悪くないかなーって
――アルカディア学園・合成室――
先日のクエストから二日後、今日も今日とて『上からの課題』という名の単なる押しつけ作業に勤しむ双子。リアンとアムはつい二時間前に終わらせ、今はシャルルとルルナの出番になっている。
――が、シャルルは慣れた手つきで淡々と武具のメンテナンスをこなすが問題なのは当然ルルナ。元からやる気のない彼女はだらけ切った顔のまま作業を始めるが、10分もしない内に遂に匙を投げる。
「ちょっとルルナさぼらない。後まだ140個はやらないといけないんだから」
「もーやだよー! 作業あーきーたーっ!」
「じゃ合成の方でもやる?」
「……何をどれくらい作るの?」
「毒消し薬とポーションを『600個』ずつ」
「あ”あ”--------ッッッ!!!!!!」
「やれやれ」
人生始まって以来の地獄をこうして毎日味わっているルルナだが、これもシャルルにとってはいつしか見慣れた光景になってしまっていた。結局ルルナをどうにかして説得するよりも、彼女を完全無視して自分一人で没頭した方が最終的な効率は良くなると判断し『ご覧の有様』という風になる。
「おーい誰かここに……おお! 丁度良さそうな人がいんじゃねーのさ!」
「ん……? 僕等に何か……?」
突然勢いよく扉を開けて入って来たのは二軍のとある男子生徒だった。
前にどこかで見たような既視感のある生徒は、飄々とした態度でずかずか入って来ると明け透けに語り始める。
「いやー参った参った。今日課題素材の提出期限日なの忘れててよー。急いでクエストにいかねーといけないだが、こんな時に限って付き添ってくれそうなヤツが誰もいねーんだもの。でも暇そうなお前らがいてくれて助かったぜ! ささ早く行こうぜ! 俺の名はアランだ!」
「行こうって何処にですか?」
「クエストに決まってんだろ! 話聞いてなかったんか?」
「え……でもまだ途中ですし……」
「んなの後から来る生徒に任せときゃいいんだよ!」
「わーい! 戦えるんだね! やったー!」
「いやちょっと……。えー……?」
この生徒が生徒なら、気軽に相乗りするルルナもルルナである。頭を抱える想いをしながらも、かくして双子は突然のクエストに出立する羽目になった。
* * *
――エゲリア地下水道・上層入口(ダンジョンランク『D』)――
有無を言わさず結局ここまで連れて来られ、終いにはパーティまで強制的に組まされ、双子の言う事になど耳を貸さずに好き勝手にダンジョン内を探索しまくるアラン。
どうやら手に入れようとしているのは中級レベルの素材である『オオナマズの髭』なのだが、このダンジョンの階層だと出現率があまり良くなくむしろもっと楽なダンジョンで出やすい所があるのにも関わらず、よりによって何故ここを選んだのかシャルルは心底理解に苦しんでいた。
「ありゃー中々出ねえなー。ま、その内出んだろ!」
「あの……ここよりももっと出やすい場所が……」
「あ? なんだよお前、三軍の癖に一丁前にアドバイスか?」
「いえ、なんでもありません。先を行きましょう……」
「この辺浅瀬だから『ヤツラ』がいそうなんだがなあ……?」
ただでさえ面倒な用事に付き合わされ、その上で非効率な行動。極めつけは何かにつけて三軍と見下す不愉快極まりなく厄介な生徒に振り回されては、最初は上気分だったルルナも次第にフラストレーションが溜まりやがてそれは顔にも表れてくる。
(ねえ、戦えるのはいいんだけどさ、もうちょっとあの人何とかならない?)
(何とかならない……とは?)
(いろいろ)
(まあ……気持ちは分かるけどさ)
ここまでついて来てしまった手前、無言で抜けだせる空気でもない。相手が同じ三軍や後輩ならば兎も角、表向きは完全に上の立場の人間である。下手な事をして目立ってしまうのだけは一番避けたいが故に、現状のもどかしい事態が発生している。
「おっいたいた。あのバカでっかいナマズは『ラージシルーラス』だな! よっしゃ片づけるぜ、ほらお前ら壁役やれよ!」
「えっ、ルル達が?」
「俺は後衛タイプだからな。心配すんな、トドメはきっちり刺してやるから安心して前衛をやればいい!」
「――分かりました。ほら行くよルルナ」
「えっえー!?」
下手に逆らわない方がいい――。これまでの流れを通して達した結論は『それ』だった。
ただ主の命のままに動く盤上の駒の如く、淡々と命じられた役割を全うする。それでこの一件が片付くならば安いものと、シャルルはそう思う事にした。
別にアランの実力からして、このダンジョンのモンスター程度ならばわざわざ壁役を立てなくても普通に攻撃一辺倒でも倒せるであろう強さだ。現にシャルルはわざわざ耐えるよりも『敢えて攻撃をスルー』して、彼に討伐をさせようとする。その方が早いからだ。
……しかし、だった。
「お、おい! ちゃんと弱らせてからこっちに回せよ! 万が一の事があったらお前らどうすんだよ!?」
「うそでしょぉ……」
彼に悟られない様、ルルナは正面を向いたまま小声でぼやく。短いながらも双子は学園を通じて様々な生徒と関わり合ってきたが、ここまで『ヘタレ』な生徒と一緒に戦うのは初めてだろう。
「おっと! ソイツは弱ってるな! いただき……とぉっ!」
彼が目を付けたのはシャルルが彼が倒しやすいように器用に削ったエネミーだ。そしてそのまま、まるでハイエナのように奪い、倒していく。
目の前に現れたモンスターは全て駆逐され、戦利品もそこそこに入手できた。肝心のブツはというと――――。
「なんだよ一本も出てねえのかよ。しょうがねえ、次行くぞ」
戦えば戦う程双子の気が滅入っていく中、3人は更に奥へと潜っていく。この無駄な時間が一分でも一秒でも早く過ぎ去ってほしいと願いながら。
* * *
――エゲリア地下水道・中層(ダンジョンランク『C+』)――
ふと気付けば一向はそこそこの強さの敵が出るCランク帯のモンスターが出てくる階層にまで到達していた。双子達は変わらず隊列を変えないまま戦っているが、正直双子の序列通りの実力ならばまともに戦うなんて無茶もいい所で、ましてや壁役なんてもっての外である。
「へーお前らよく頑張ってるな」
……が、そこは彼のいい加減で調子のいい性格が幸いした。周りに誰もいないのもあって、彼はずっと後方で攻撃しているだけで双子の強さに気付けないままだ。
「おお! 見ろよあの群れ! あんだけいりゃ流石に2本くらい取れるだろ! ほら行けお前らー!」
(ルルナ、分かってるとは思うけど――)
(知ってますよー! 顔には出しませんよーだ!)
(出かかってるけどね……。まあ悟られなきゃいいや)
仕方ないと思いながら、双子は例によって飛び出す。
――しかし、今回はいつもと少々勝手が違った。
下へ下へと潜るにつれて徐々に強くなっていったモンスターは、ここまで来るとどれも個体能力が高水準だったのだ。
さっきと同じ流れで攻撃をしようと思ったシャルル。
が、先に仕掛けて来たのは、今回は敵だった。3体まとめてかかって来たモンスターの不意打ちに、思わずたじろぐ。
(む、ちょっと早い――かな!)
思わぬ奇襲に直撃を免れないシャルル。慌ててルルナがカバーに入ろうとするが、それでも間に合わない。
このままでは少しだけ力を解放せざるを得ない。多少手負いになっても後で治せばいいが、彼の前で無駄にダメージを負うのはどうしてかシャルルのプライドが邪魔した。
そしてエネミーの牙が後少しという所まで迫ると一瞬だけ力を解放する。
「あれ……雷魔法? シャル魔法撃ってもいいの?」
「……僕じゃない」
「へっ?」
――が、結果としてそれは杞憂に終わった。その牙がシャルルに刺さる事はなかったのだ。
『――――大丈夫?』




