行動開始っ!
――アルカディア学園・双子の部屋――
後日。
目下の問題となっているのはリアンの二軍昇格試験。ひいては、それを受けるに相応しい実力及び序列を手に入れる必要がある。
受けられそうな依頼やクエストは片っ端から受注し、効率よく実績を積み重ねていくのがシャルル達の現目標だろう。
「リアン。レイラが二軍昇格試験を受けられるって事は序列はそれなりと見ていいんだよね?」
「最後に聞いた時には、もう16000位を切ったって言ってたから今はもっと上がってるんじゃないかな」
「そうか。彼女が昇格試験を受けられるのはほぼ確定みたいだね。じゃ自分達の心配をするだけでよさそうだ。審査を開始するのは試験のおよそ一か月前。そしてその審査まで残り10日程しかない。……つまりだ」
「アタシ等にはほとんど時間がない。ここにいる全員が序列は3万台だし、そこから15000位近くまで上げるのはかなり厳しいと思うよ。ぶっちゃけ今こうしてる会話の時間すら惜しんでとっととクエストなり行かないと……」
これから残り10日で二軍への切符を手にするためには、本来の序列通りの実力に沿った依頼をこなしていてはまず間に合わない。
多少の無茶を覚悟してでも、それで『いけるかどうか』というのが、アムやシャルルの本音ではあった所だろう。
更に依頼だけじゃなく、三軍という場所は上から押し付けられたあらゆる雑用を片づけてからでないと自分達のやりたい事に取り掛かれない厄介さがある。そうなれば時間は更に押してくるが、流石に他の生徒達に押し付けるのは気が引けるというもの。
「ごめんねみんな。私が無茶なお願いしたばかりに……」
「だいじょーぶ! 10日と言わず1週間でルル達がなんとかしてあげるから! それに、そんな暗い顔してたらまたアイツ等に笑われちゃうよ! リアはそれでもいいのー?」
「ルルナ……」
部屋の片隅に置かれた椅子で落ち込むリアンを明るく励ますのは、やはり最初からずっとリアンの事を誰よりも想っていたルルナだった。
そしてその様子を見守っていたアムは、自分の武器や防具を手短にチェックすると、おもむろに装着しだす。――それに続いたのは、シャルル。
「はれ? シャルもアムもどうしたの?」
「それはもう――決まってるさ」
「だね。アタシもおんなじ……さ!」
手段は多々あれど、目的は同じ。となればやる事は『一つ』だ。
* * *
――リエンテル湖沼・B1F(ダンジョンランク『B-』)――
4人は早速行動を開始する。ここから先、無駄にできる時間はほとんどない。
アルカディア学園から通じている、多くのダンジョンへの転移ゲートから選んだのは本来二軍相当の実力を持つ事が推奨されている場所だ。
その為、序列通りの実力ならば戦うなんてもっての外で、モンスターと出会ったら逃げるしか選択の余地はない程の強敵が待ち構える。
……筈なのだが、そんな事はおかまいなしにルルナはいつもの調子で自分を貫く。
「ねーシャルぅ。今更だけどさー、もちょっと『ギルド名』はカッコイイのにしたかったなー。【グローリィ】ってちょっと単純すぎなーい? もうちょいセンスある工夫がほしかったって言うかさー」
「僕が決めたんじゃないよ」
「え……? 違うの……? ルルてっきり……」
「ごめんね……。やっぱり単純すぎたよね……。これじゃあ、センスの欠片もないよね……うう」
「あわわあああわわわ! 違うのそーゆー意味じゃなくて! もちょっと可愛らしさがあってもよかったかもって思っただけだから! リアが考えたんならモチロンOKだから!」
双子が話していたのは、ギルド管理課で無事ギルドを設立できた際に『名称』をどうしようかとなった時の流れの一部始終だ。
基本的に公序良俗に反した名前でなければどんな風に名付けても構わない。それ故、真面目な名前にしろ、ギャグに走った名前にしろ、そこは名付け親のセンスが問われる場面でもあった。
――しかし、見事に玉砕。引きずるように歩くリアンの背中は悲しさを隠せなかった。モンスターが現れて魔法を撃ち込み、討伐に成功しても心のダメージは思った以上に深かったようだ。
「あーもう! 今更そんな事で議論してたって仕方ないだろ!? 時間がないんだから今は目の前のダンジョンに集中!」
最前列を進むアムが口だけでなくその身でリアンやルルナに檄を飛ばす。日程に余裕がない所為で比較的難易度の高いダンジョンに挑まざるを得ず、生息するモンスターも一筋縄ではいかない相手がほとんどなのだが、アムは今まで多くのダンジョンに潜って来た歴戦の勘で大胆に勝負を仕掛ける。
同じくシャルルもアムの背後をサポートするように物理攻撃を主体とした中距離での牽制に務める――――が、不意に二人の動きがピタリと止まる。
「ちっ――『アンモナシェル』がうじゃうじゃいるよ。コイツらは見た目の通り外殻が硬すぎて今のアタシじゃ破れないな」
「僕やルルナの魔法じゃたかが知れてるし、物理でごり押すのもいささか無理がある。となると――」
3人はちらっと目配せをする。相手は勿論、この4人の中では現状唯一強い魔法力を持つ『彼女』しかいない。
「リアン、調子は大丈夫? ルルナに抉られた傷が癒えないなら、ここはひとまず僕が――」
「だ、大丈夫! 私だって自分らしくいくって決めたんだから、頑張る! たとえ『センス』が無くたって前を向く気持ちがあれば――!」
「思った以上にリアンのダメージが大きかったらしいね、ルルナ」
「は、反省します……」
リアンの火の魔法を唱える為の詠唱が終わる。杖の先に宿した膨大な魔力は、堅い殻を持つ『アンモナシェル』の集団に向けて放たれようとしている。
「――――焔よ! 私の紡ぎに触れてより熱く! そして強く! ――『ファイアピラー』ッ!」
地面から出現した火の魔力はあちこちに点在するモンスターの群れを寸分の狂いもなく捕え、全て飲み込む。
魔力は当然の事、まばらに散ったモンスターを確実に仕留めるのは相当な制御力と器用さが必要である。芸当だけで言えば余裕で一軍クラスの事を彼女は実戦でも見事にやってのけた。
「見事だね。これならこの程度のダンジョンは難なく進められそうだね」
「ルル達は足手まといだからねー。このギルドの命運はリアの手に懸かってると言っても過言ではないね!」
「や、やめてーこれ以上余計なプレッシャーを与えないでぇー!?」
「……ここってこんなに賑やかなギルドだったっけ?」
新たに誕生した一つのギルド『グローリィ』は、こうして様々な事情を抱えた少年少女達を揃えて歩き出す。
――二軍昇格試験の査定開始まで残り十日。




