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 通りを歩いていると、貴族の屋敷を囲む()(べい)の向こう側から、梅の花の(かす)かな匂いが漂ってくる。

 暖かな初春の陽射しに誘われてか、大路は様々な身分の人々で溢れていた。

 道端には(むしろ)を広げて商売をしている物売りの姿があり、牛車が行き交い、馬に乗った貴人が(さっ)(そう)と駆け抜けていく。大きな荷物を背負った行商人や、念仏を唱えながら歩く僧侶、花売り娘の売り声などで賑やかだ。

 錦の太刀袋を抱えた郁は刀鍛冶屋へと急いでいたが、道の隅を歩いていたはずがいつの間にか人込みの中に迷い込んでしまっていた。行き交う人と肩がぶつかるかび、謝りながら前へと進んでいたのだが、ふと気付くと、辺りの雰囲気が一変していた。

(あら? もしかしてわたし、道に迷った?)

 (みち)の両側からは貴族の屋敷が消え、代りに(ほっ)()()()ばかりが並んでる。

 着古した衣を身に(まと)った老若男女の中で、地味ながら品の良い(うちぎ)を羽織った郁はやたらと悪目立ちしていた。

 地面に座り込んだ薄汚れた幼い子供たちは、郁を物珍しげに凝視している。

 野良犬に吠えられたり、羽を広げながら突進してくる鶏に郁が怯えるたび、周囲の男たちが下卑た笑い声を上げる。

 さきほどまでとは明らかに雰囲気が異なる通りだ。

(引き返さなくちゃ。でも、どこで道を間違えたのかしら)

 焦りながら郁が足を止めたときだった。

「姉ちゃん、迷子か?」

 背後から少年の声が響いた。

 郁が振り返ると、小ぎれいな(すい)(かん)を着た十歳くらいの少年の姿があった。

「どこに行きたいんだ?」

「七条大路の方へ向かっていたつもりなのだけど、ここは違う……わよね」

「残念だけど道を間違えたみたいだな。ほら、あそこに見えるのが羅城門だよ」

 少年は親切にも、郁の目の前にある大きな建造物を指して教えてくれた。

「あれが……?」

 初めて目にする羅城門はかなり古びていた。屋根瓦はところどころはがれており、柱の色は風雨ですっかり剥げている。

 修理をすれば良いのに、と門を一瞥した郁に、物凄い勢いで少年が体当たりする。

「きゃっ!」

 悲鳴を上げながら地面に倒れ込んだ郁は、抱えていた太刀を落としてしまった。

 がしゃん、と音を立てて落ちた太刀を、素早く駆け寄った少年が拾い上げる。

「ちょっと! 返して!」

 太刀を手にした少年は、振り返りもせず、そのまま勢いよく走り出してしまった。小さな身体はすぐに人込みの中に紛れてしまう。

 慌てて郁は立ち上がり、袿の裾に付いた土を払う暇も惜しんで少年の後を追った。

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