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 少年はあっという間に郁の視界から消えていた。

 狭い通りをひしめき合うようにして歩く人びとは、髪を乱し、袿を汚した郁の姿を興味深げに見つめている。

(どうしよう……。あれは家宝なのに)

 盗んだ少年は、錦の袋に入っている太刀を価値ある物と勘違いしたのだろう。まさかあの袋の中身が、錆びて使い物にならない太刀だとは思うまい。

(中身だけ捨ててくれると嬉しいのだけど)

 錦の袋だけなら、奪われても惜しくはない。

 少年を追うのは諦め、郁は太刀が捨てられていないかと足下を(くま)()く探すことにした。

 十歩ほど進んだところで、十字路に出た。

(――どっちへ向かうべきかしら)

 三方向に視線を向け、郁は首を傾げる。

 闇雲に進んだところで、太刀が見つかるわけではない。かといって、少年がどちらへ向かったかもわからない。

 左右の道は人が少ない。しかも、土塀は古びて崩れかけているし、雑草が生えていたり、(からす)が歩いていたりと、不気味な雰囲気だ。

(ま、まっすぐ行くべきね)

 引き返すという選択肢は郁の中にはない。太刀を取り戻さなければという使命感だけで動いていた。

 覚悟を決め直進しようと足を一歩踏み出した郁の目の前に、唐突に青白い光が現れた。

「な、なにっ!?」

 進路を妨害された郁が慌ててたたらを踏むと、炎はすっと消えた。

 炎は周囲の人々の目にも見えたらしく、(おに)()だ、と誰かが(おび)えた声で呟くのが聞こえた。

 土塀の上に止まっていた烏たちが、ざわめきながら一斉に飛び立つ。

 郁の足は地面に貼り付いたように動かなくなってしまった。

(ごめんなさい、旦那様! 太刀は一生無給で働いてでも新しい物を買って返します!)

 さすがに鬼火が出現するような不気味な場所で太刀を探すのは無理だと判断し、郁が戻ろうとしたときだった。

 誰かが、あそこにも鬼火が、と左の道を指して悲鳴を上げた。

 郁が視線を向けると、青白い鬼火が等間隔で燃えているのが見えた。まるでなにかの道順を示す松明のようだ。

(そういえばあの鬼斬りの太刀の周りでは、不可解なことが起きるって旦那様はおっしゃっていたわね。まさかこの鬼火、太刀が通った後なのかしら)

 屋敷で唐櫃の中に封じ込められている間はおとなしくしていた太刀も、外に出た途端に怪異を起こし始めたのかもしれない。

(あの鬼火を追えば、太刀に辿り着けるかも)

 初めて目にする鬼火に対する恐怖は、その瞬間に郁の中から消えていた。

 太刀を取り戻さなければ、という一念に()らわれ、郁は鬼火に向かって再び歩き出す。

 背後から郁を制する声が掛けられたが、彼女の耳には届いていなかった。

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